国語の授業づくりで大事にしているのは発問、板書、ノート指導【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第11回】

連載
全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!

大阪府公立小学校教諭

岡本美穂
全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第11回
タイトル

前回は、大阪府の国語授業づくりモデル校で、国語を担当する岡本美穂先生の5年「大造じいさんとガン」の授業を紹介しました。今回は、そのような授業に込められた授業づくりの考え方や、授業づくりの過程での他の先生方との協働などについて説明していただきます。

岡本美穂教諭
大阪府公立小学校の岡本美穂教諭

まず授業を通してどんな力を育みたいのか、明確にする

私が国語の授業づくりをする上で大事にしているのは発問、板書、ノート指導です。

板書とノート指導はそれぞれ、学級と一人一人の子供の学習の足跡となります。まず私は板書を通して、学級全体の1時間の学びの過程をふり返ることができるように構成しています。さらに、ノートはその板書を参考にしながらも、その中に自分自身の考えや友達の考え、また学習過程での思考の変化や深まりが表れるものにできるよう指導しています。

5年生「和の文化を受けつぐ」の板書
5年生「和の文化を受けつぐ」の板書。子供たちの意見を受け、段落の構造と関係が視覚的にも理解しやすいよう整理されている。

授業を構成するという点で重要なのは発問です。前回紹介した授業を見ていただければお分かりになると思いますが、授業の導入から前半では、まず大きく発問するようにしています。「具体的な小さい発問でないと子供が答えられない」と考える人もいますが、小さく問うことで答えやすくなる反面、子供の発言が限定されてしまいます。ですから、まずは大きく問うことで、「こんなところがおもしろいね」「これって、どういうことだろう?」と、子供が多様な視点から自由に意見を出せるようにしているのです。

その上で、ポイントとなる部分、その授業で読みを深めたい部分について、子供が思わず「えっ?」「どういうこと?」とつぶやくような、深める発問を投げかけていきます。そこから、さらにていねいに教材文の表現を読み取りながら追究や対話を進め、より深く読むことによって言葉の力を育むようにしています。

しかし国語の授業が得意ではない先生は、「ちゃんと教えなきゃいけない」と思うあまり、正解を求めるような発問をしたり、一問一答的な発問をしてしまったりしています。それでは、子供たちにとって国語はおもしろくない教科になってしまうでしょう。昨年度、私が担任していたクラスでは、子供たちが教材を読んでいて、「これ疑問なんやけど…」「これってこういう意味やない?」という生き生きとした声が多く聞かれました。教材文を読みながら、自ら問いを発見したり、問いに対する新しい発見をしたりしていたわけです。追究する授業が大切だと言われますが、そのためには何よりも子供自身が追究したくなるような発問の工夫が必要だと思います。

もちろん、そのような発問を考えたり、授業を構成したりする前提としては、まずその授業(や単元)を通して、どんな力を育みたいのか、教材研究を通して明確にしておくことが必要です。それから、どのような発問をすれば、子供たちが考え、対話し、思考が深まってめざす力が育まれるのか、しっかり吟味していきます。

何よりもまず教師自身が言葉の力を育んでいくことが大切

先に説明したような教材研究は、もちろん自分1人で行うこともできます。しかし、私は同じ学年を組む先生方と対話しながら考えるようにしています。それは、子供たちが学び合う教室の空気感(教室の文化)が大切なように、教材を目の前に置いた対話を通して発信しながら、学年や職員室全体の空気感(学年や学校の文化)をつくり上げていくことが大切だと考えているからです(資料参照)。

【資料】「大造じいさんとガン」単元の評価規準など

「大造じいさんとガン」単元の教材研究を通して整理された、評価規準など。こうした教材研究の過程を学年や職員室で共有することによって、学校としての文化を醸成したいと話す岡本教諭。

ちなみに、本校では毎年4月2日に研修開きをするのですが、今年度は研究テーマに沿って「『伝え合う力』を多様な教科で発揮していこう」「クラス会議もどんどんやりましょう」「児童会も、困ったことは意見を(意見箱に)出して、みんなで話し合い、みんなで解決していこう」というお話をし、学校全体で取り組んでいるところです。そうした共通理解を基にして、担任の先生は国語を中心とした公開授業を行い、他の先生は専門の教科で公開授業を行い、その後で自分自身の取組を言語化する場も設けています。そうした研修の場や先の教材研究などを通して、互いの意見を出し合いながら学校の文化をつくり上げていくことが大切でしょう。

私自身はもちろん、本校でも以前、何年か指導を受けた吉永幸司先生(元京都女子大学教授、京都女子大学附属小学校校長)は、「国語力は人間力だ」と言っておられましたし、本校の校長先生も同様に話してくださっています。それは、「国語できちんと文章が書けるようになったからOK」というのではなく、自分の考えを的確に話したり、書いたりして伝えられるようになり、人と関わることが「人間力」の育成につながるということだと思います。私が関わっている学力研の言葉で言えば、「見えない学力」の部分になるわけですが、それを育てていくことを大事にしたいと考えています。

当然、私たち教師はその力を育むために授業を大事にしなければなりませんし、私自身も国語を中心にしながらそのように取り組んできたつもりです。しかし、もし子供や保護者との関わりで悩んでいる先生がいたとしたら、「その関係はいったん置いておいて、まず授業に前向きにがんばろう」と言ったとしても、それはむずかしいだろうと思います。

ところが、「ありがとう」という言葉を発すると、セロトニンやオキシトシンなど、精神の安定に関わる脳内物質が分泌されることが分かっています。そのように言葉には、人との関わりも自分自身も整える力があるわけです。だからこそ、私たちは言葉を大事にしながら、小学校の1年生のときから正しい日本語を使えるように育てていきたいし、そのためにきちんと国語を教えていかなければならないと考えています。

学級の中には人と関わるのが苦手な子供もいるでしょう。しかし、きちんと国語の力を育てていくことで、自分の考えを適切に表現できるようになるし、少しずつ人と関わることもできるようになっていきます。もちろん、授業の中では、きちんと「伝え合う」ことに取り組むわけですが、当初はうまく表現できなくても、しっかりふり返りを書くことを大事にすることで、少しずつ自分の考えを表現する力が育っていくのです。

そのために、教師は言葉を通して子供たちに関わっていくわけですが、教師同士も言葉を通して関わったり、自分の取組をふり返ったりすることも大事です。言葉の力や言語化することの良さは、子供に求めるばかりではなく、教師自身も大切にしながら自ら育み学ぶことが重要です。そのため、本校の研修では最後に必ずふり返りを書いてもらうようにしています。やはり教師も、自分の思考や感情をアウトプットしてみることによって、新たに見えることもあるし、何よりもまず教師自身が言葉の力を育んでいくことが大切だと考えているのです。

そのように学校は、子供たちはもちろんのこと、教師にも「言葉の力」=「国語力」=「人間力」を育む場であってほしいと考えています。

次回は、「国語力」「人間力」を育むための単元構成について紹介していきます。

【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は6月28日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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