理科でもありながら、同時に情報活用能力などを育む授業【実践のポイントを分かりやすく解説! 生成AI活用の授業づくり「まずはココから」#05】
前回、茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校で、生成AIを活用した7年生(中学1年生)の国語の授業を取材しました。今回は、別の日に行われた3年生の理科の単元「チョウを育てよう」での生成AIを活用した授業を紹介していきます。
目次
ロボホンを使った、理科の単元導入の授業
「ロボホン、お話ししよう。モンシロチョウはキャベツ畑で何をしているの?」と、3年生の教室の子供たちが、(小学生向け生成AIに接続された)RoBoHoN(ロボホン、モバイル型ロボット)に向かって質問をしています。
この日、行われていた3年生の理科の授業は、「チョウを育てよう」の単元の導入でした。担任の川島翼教諭は授業冒頭、花畑の花にとまるチョウの写真を出して黒板に貼り出します。すると、「チョウチョだ」「モンシロチョウだね」「モンシロチョウはよくお花にとまっているよね」「お花にとまって蜜を吸っているんだよ」と話し始める子供たち。
そこで川島教諭は続けて、モンシロチョウがキャベツ畑でキャベツの上にとまっている写真を黒板に貼ります。すると、「モンシロチョウがキャベツ畑で、ご飯を食べている」と言う子供もいれば、「キャベツに卵を産みに行っているんだよ」と言う子供もいます。
「じゃあ、ロボホンに質問して確認をしてみようか」と川島教諭。子供たちはグループに分かれて、(ロボホンの台数が限られているため)あるグループはパソコンで検索をしたり、また別のグループは先のように生成AIに接続されたロボホンに質問をしたりしながら、キャベツ畑でモンシロチョウが何をしているのかを調べていました。
ところが、先のように「モンシロチョウはキャベツ畑で何をしているの?」とロボホンに尋ねると、「?? 分からないなぁ」との答えが返ってきます。なかなか思うような答えが返ってこないため、「静かにしないと、(雑音が入って)ロボホンが聞き取れないんじゃない?」と言って、グループの1人だけが、ていねいに音節を区切って発声し、質問しているグループがあります。それでも、思うような回答がなく、グループ内で質問する人を変えながら、何度も根気強く言い直して質問する子供たち。
あるいは、別のグループはロボホンに少しずつ質問する文言(生成AIへのプロンプト)を変えています。
やがて、あるグループから次のようなロボホンの声が聞こえてきました。
「モンシロチョウはキャベツ畑で卵を産むんだって。ビックリだね」
その回答を聞いて、嬉しそうな顔をする子供たち。
ロボホンの順番ではない別のグループでは、前回も紹介したAIウィー子ちゃんに質問をしたり、別の方法で調べたりしています。
「本はうそをつかないって、みんな言っていたよね」
授業が残り時間10分ほどになったところで、クラス全体での学習に戻ろうと、全員に対して声をかける川島教諭。すると、子供たちから声が出ます。
「先生、ロボホンが分かりませんって言ってました」「やっぱりそうだよ」
その声を受けて、川島教諭は次のように子供たちに投げかけます。
「ちなみにロボホンだけじゃなくて、AIウィー子ちゃんやChatGPTで(事前に川島教諭が調べたものを共有して)確認をしたでしょ。確認をしたときに、モンシロチョウは花畑では…?」
「花の蜜を吸っている」「花粉も運んでいるらしいよ」と子供たち。
「花粉も運んでいるの?」と問い返す川島教諭。
「はい」「うん」
「モンシロチョウが、『花粉を運んでいきます!』って運んでいるの?」と、さらに問い返す川島教諭。
「蜜を吸っているときに体に付いてる」「脚とかに付くらしい」と子供たち。
「なるほどね。じゃあ、自然に花粉を運んでいるんだね」と川島教諭。さらに、キャベツ畑について調べたらどうなったか問いかけます。
「卵を産む」「産むこともある、だから…」「キャベツに産むらしいと書いてあった」などの声が多数ですが、「卵を産まないって書いてあった」という声もわずかにあります。
「卵を産まない?」と問い返すと、「卵を産む」「キャベツに産むらしいって書いてあったよ」との声が多くありますが、「産まないって…」「キャベツや植物の葉を食べるって…」という声もあります。
「ちなみに、チョウチョはキャベツを食べる?」と改めて問い返す川島教諭。
「食べない!」「食べる」「チョウチョは食べないけど、イモムシが食べるので」と子供たちの声がつながります。しかし、「チョウチョも食べるって書いてあったよ」との声もあります。
少しずつ異なる情報も混じっている様子を見て、川島教諭は次のように子供たちに問いかけます。
「結局、チョウチョは卵を産んでいる? 産んでいない? キャベツを食べる? 食べない? 正確に知るには、この前も出たけれど、どうするの?」
「本を見る」と子供たち。
「百科事典や図鑑を見ると言っていたよね。本はうそをつかないって、みんな言っていたよね」と川島教諭。ここで、事前に用意しておいた図鑑のモンシロチョウの仲間に関するページを電子黒板上に示すとともに、子供たちの手元のパソコンでも共有し、モンシロチョウの性質について確認していきます。
そしてモンシロチョウはシロチョウ科のチョウであることや、シロチョウの幼虫がアオムシと呼ばれること、そのアオムシがキャベツなどのアブラナ科の植物の葉を食べていることなどを確認。教科書にある写真を見て、キャベツの葉に黄色い卵を産んでいることなどを説明する川島教諭。
ここで近所のスーパーで売られているキャベツには、卵が付いていないのだろうかと、問いを口にする子供。社会科でスーパーに学びに行く機会があるから、そのときに質問してみたらよいと声をかける川島教諭。さらに、自分の家の家庭菜園のキャベツがイモムシに食べられたが、あれはモンシロチョウなんだろうかと言い出す子供や「アゲハチョウじゃない?」「アゲハチョウもキャベツを食べるの?」と子供たちの疑問がつながります。
「今、どんどんいろんな疑問が出てきたでしょ。それを、理科の授業の中でもそうだし、さっき言った社会科や他の授業でも調べられるかなと思います」と話す川島教諭。
最後に、ここまでモンシロチョウについて調べてきたことを、まとめて整理して板書します。
『モンシロチョウはキャベツ畑でたまごを産んで、生まれた青虫がキャベツの葉を食べている』
「じゃあ、実際にそうなのかということについて、みんなが証人になるために、モンシロチョウの卵を持ってきて、アオムシがちゃんとモンシロチョウになるかどうかというのを、みんなで確認してみよう。これからの授業で実際に自分たちで育てて確認しよう!」と話して、川島教諭は授業を終えました。
一つの教科学習だけに留まるのではなく、複合型で授業を進める
授業後、川島教諭は小学3年5月の段階での生成AIの活用状況などについて、次のように話してくれました。
「3年生はローマ字も入力できるので、小学生向けのAIウィー子ちゃんなどを使い、質問をして調べたりもできます。ChatGPTは年齢制限があるので、子供たちの質問を整理して私が質問したり、今回のように私が事前に調べたものを共有したりして使っているところです。
ただ今日の授業でもそうですが、実際に使ってみると、こちらの質問の文章によって、答えがずいぶん変わることが分かります。例えば、漠然とした大きな質問だと答えが返ってこないことがあります。今日、多くの子供たちは『キャベツ畑で何をしているの?』と質問したので、答えが返ってきませんでした。しかし、より具体的に『卵を産むの?』と質問すると、『キャベツ畑で卵を産むんだって』と返ってきました。そのように、プロンプトによって回答が大きく左右されることを知るのも学習の一部なのです」
この日の授業は、理科の授業でもありながら、同時に情報活用能力などを育む授業でもあると川島教諭は話しました。
「今日の授業もそうですが、多様な生成AIを使って調べてみると、『卵を産む』という回答もあれば、そうでないものも出てきます。『じゃあ、いったい正しい情報は何だろうか?』という問いが子供たちの中に生まれます。それは、今のネット社会であれば、『必ずしも生成AIがすべて正しいというわけではない』という理解につながりますし、自分たちが出てきた情報を一つ一つ吟味しながら、取捨選択していくことが必要だという理解になっていくわけです。そのための技術を身に付けていく学習でもあります。
このように現在の私たちの授業は、一つの教科学習だけに留まるのではなく、複合型で授業を進めることが主流になってきているのです」
取材・文/矢ノ浦勝之