小学校の理科は、何の役に立つの? ~理科の魅力と有用性について~ 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#41

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

「理科の有用性」という言葉があります。理科という教科が役に立っているかということを指しますが、子どもや保護者にとって、理科の有用性は低いようです。これは知識や問題解決の方法を指導することに重点がおかれ、長年「理科の有用性」が高いことを伝えてこなかったことに問題があるようです。システムとしての問題もありますが、先生自身が「理科は何に役立つのか」「子どもを理科好きにしたい」という意識をもっているかということもあるのではないでしょうか。今回は、子どもを理科好きにするにはどうするか、小学校理科はどう役立つのかについて考えたいと思います。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.小学校理科は役に立たない教科なのか

小学生1200人に聞いた調査によると、「理科が好き」と答えたのは全体の5.1%、全教科中7位です。人気の教科としては、体育、算数、図画工作が飛びぬけて多く、次に音楽と国語、さらに下がって社会科、理科といった順番です(学研教育総合研究所:2023年10月調査より)。かつては好きな教科として上位にいた理科(平成元年度調査では全教科中3位)ですが、今では「特別好きな教科ではない」ポジションになっているようです。

さらに、保護者1200名に対して「子どもにとって将来役に立つと思う教科」と聞いたとき、「理科」と答えたのは全体の2.2%、全教科中9位です。算数、外国語活動、国語、総合的な学習の時間が多く、あとは同じような数値。1、2年でしか行わない生活科にも負けているという、惨憺たる結果になっているのです(同上2023年10月調査)。

「好き」ということと、「役に立つ」ということ。これらは、人がある物事に対して感じる「魅力」を、別の表現で言い換えているとも言えます。つまり、上掲のデータを見る限り、理科に魅力を感じる人が少ない、ということです。中学校になると、さらに理科嫌いが増えると言われています。そのため、理科を教える先生方の工夫で、理科の有用性を広め、理科好きを増やせればと思います。

2.「理科が好き」な子どもは、どのような姿なのか

教科書に載っていることを教えるだけでは理科好きは育ちません。理科の授業が「教える」ということが目的だと、子どもの心は動かないからです。
みなさんが思う、「理科が好きな理由」は何でしょうか? 私は理科で「心が動く」ことが理科好きにつながると考えており、理科好きな子どもは以下の姿が見られると考えています。

なぜ、どうして?
思っていたのと違っていた
ふしぎ
そうだったのか!
本当にそうなのか試したい
おもしろい
ほかでもそうか試してみたい
しっかり調べよう 

このように挙げてみると、自分自身で疑問を見つけ、自分で解決している姿が想像されます。
そのため、先生は子どもが主体的に問題解決できるように「子どもに委ねる」授業をすると、理科好きの子どもを育てることができると考えられます。

3.小学校理科は「将来役に立つ教科」です!

保護者が「将来役に立つ教科」として見る観点を挙げると、以下のものがあるようです。

日常生活に役立つ
仕事に役立つ
人生を豊かにする
進学に役立つ
常識として必要

算数や国語の漢字のように、実利のわかりやすい教科と違い、小学校理科の有用性は間接的なものが多く、非常に見えづらいです。つまり、理科がどのように役立っているかは、積極的に発信しなければ伝わらないし、理解されないのです。そこで、上掲の5つの観点で説明してみましょう。

「日常生活に役立つ」

理科の授業で問題解決の方法を理解していることで、科学的(緻密)に問題を解決できるようになります。例えば、掃除機が動かなくなった場合、充電が切れているのか、接続が悪いのか、ゴミがたまりすぎているのか、などと、様々な仮説を立てて順番に確認していくのは、理科ならではの思考です。
また、理科で学んだ技術が日常生活の様々なところで応用されているのを知ることで、理科の有用性が意識できてくると思います。例えば、ヨーグルトのふたにヨーグルトが付きにくいのは、表面に見えないデコボコがあるからですが、これは水をよく弾くハスの葉の表面の特徴(ロータス効果)からヒントを得ています。こうした身近な自然事象の応用で「日常生活が便利になっている」と知るのは、理科ならではの学びだと言えます。

「仕事に役立つ」

高校や大学で学べる科学知識に比べて、小学校の理科には、直接的に将来の仕事に役立つことは少ないかも知れません。しかし、小学校で学ぶ理科は役立たないかというと、そうではないと思います。なぜならば、小さいころの理科好きなくして高校や大学で理科系のコースを選択することは少ないからです。中学校の理科で嫌いになる子どもが多いのですが、それを超えて高校生くらいになったとき、理科と数学は密接に関連し合っていることを知り、理数系の学問への高い興味へとつながっていきます。このように、小学校の理科は、将来の仕事に繋がる理科好き、理系への進路選択に大きく関わっていると思います。

「人生を豊かにする」

理科が人生を豊かにする? と思われるかもしれませんが、私は小学校の理科こそ人生を豊かにすると思っています。小学校の理科では、他の学校種よりも自然事象を直接体験することが重視されています。実物に触れ、自分でしっかり見て、感じ、疑問をもつため、実感を伴いやすいわけです。
何かを直接体験することは、人生でもなかなか多くありません。子どものころの体験は記憶に残り、そのころに感じたことは経験として貴重なのです
また、「見方」にあるように、理科を学ぶことにより、これまで持っていなかった視点で自然事象を見ることができるようになります。
例えば、磁石1つとっても、「付く、付かない」ということから「どのような材質は付くのか」という、材質の視点で見ることができるようになります。
また、そもそも「発見する力」「気づける力」が身につくこと自体が人生を豊かにすることに繋がります。このように「見えなかったものが見えるようになる」ことで、人生を豊かにすることができるのです。

「進学に役立つ」「常識として必要」

「仕事に役立つ」の部分でも述べましたが、小学校の理科はその先の学校種の理科の基礎になります。進路によって必要な教科は変わりますが、理系に進むなら理科は必須です。また最近は得意科目重視型の入試制度があり、文系であっても理科を選択することができる場合もあります。理系要素の強い文系といった、系がクロスオーバーする学類も増えてきましたし、全体的に文系が多い組織や集団においては、理科が得意な人は重宝されるという意味でも、将来的に役立つと考えています。

また、天気がどのように変化していくか、植物がどのように育っていくのか、材質によって重さや熱の伝わり方が違う、など、私たちが生活していくうえで知っていて当たり前、知らない方が恥ずかしいというものもあります。どの教科においても同じだとは思いますが、小学校、中学校あたりの学習は、社会生活のために必要な「常識」と言われる内容だと思われます。

4.先生が理科を面白いと感じないと、子どもは「面白い」「好き」とは感じない

子どもたちが「理科好きになる」「理科は役立つ教科だと実感する」には、子どもに委ねる授業をすることと、将来役に立つ教科だと実感するような手立てをしていることが重要だといえます。
つまり、先生の理科の指導次第になります。

私は、先生が理科を面白いと感じないと、子どもは「面白い」「好き」とは感じないと思っています。理科が得意でない先生も理科の授業をすることもあると思います。先生自ら理科好きになる(理科の苦手意識を減らす)には、次の3つあたりから取り組んでみてはどうでしょうか。

導入場面を事前に丁寧に考える

これは先生が「授業づくり」として考えることになります。教科書に載っている導入の仕方もありますが、教師用の参考書などを見ながら、別の展開方法にも挑戦してみましょう。子どもたちに「あれ?」「どうして?」と言わせ、問題に繋がる授業が一度できると子どもたちもノリノリになりますし、指導者としても面白さを感じます。

予想をたくさん出させてみる

授業の内容によりますが、子どもたちの予想が分かれる場合、先生は
「実際はどうなるんだろうね?」
「(ちょっと煽り気味に)〇〇さんはこう言っているけど、△△さんは違う意見だね。お互いこんなこと言っているけど」
などのように言ってみましょう
子どもたちの意見が様々だと、「正しい答えを考えるぞ!」と躍起になります。その分しっかり考えようとするわけです。子どもたちが学級全体で一生懸命考えるようになれば、指導者としてもとても楽しく授業が進められます。

実験方法を子どもに考えさせてみる

自分なりの解決方法を考え、その方法でやらせてもらえるならば、前向きに楽しく取り組むことができます。もちろん、経験や知識が不足していれば、子どもに委ねることができませんが、これまでの経験を活用して考えられるような場合はぜひ、子どもに実験方法の考案を委ねてみましょう
子どもたちが目的を達成(設定した問題を解決する)ために、問題と正対した実験方法を試行錯誤しながら考える時間ができるようであれば、すぐに解決できなくても(時間がかかっても)子どもたちにとっては充実した時間になるでしょう。

自分たちで考えた振り子のじっけんをする子供たち

イラスト/難波孝

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寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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