鉄棒で振動感覚を高めるのに一番よい教材は何? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #53】
前号で紹介したふとんほしの姿勢に十分慣れて、リラックスできるようになったら、「ふとんほしブランコ」に進むことができます。ふとんほしブランコとは、ふとんほしの姿勢で膝の屈伸によって体を振動させる運動で、鉄棒運動で大切な振動感覚を高めるのに最適な教材です。また、口伴奏などで、子ども同士の関わりを進めやすい教材でもあります。
子ども同士の関わりを進めながら、鉄棒運動で大切な振動感覚を高めていきましょう。
執筆/新潟県公立小学校教諭・竹松 譲
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川 譲
目次
Ⅰ.鉄棒補助具を効果的に使いましょう
鉄棒運動が嫌いになる理由の一つは、「鉄棒に当たる部位が痛いこと」です。ふとんほしブランコは、鉄棒に直接触れる部位である腹部や肘などに痛みを感じやすい教材です。技ができない、苦手と感じている子は、この痛みが増幅して感じられます。
これを軽減するには鉄棒回転補助具が効果的です。内田洋行社の製品が痛みの軽減、耐久性等の点からおすすめです。 痛みの軽減だけでなく、回転しやすくなる効果もあります。鉄棒補助具は回転しやすく作られているので、鉄棒の上がり下りの際には補助具を触らず、鉄棒をしっかりと握るように指導します。
Ⅱ.ふとんほしブランコにチャレンジ!
1.ふとんほしブランコの行い方
①ふとんほしの姿勢から、股関節と肘で鉄棒を挟むようにして、太ももの裏を手でつかむ。
※鉄棒の下から腕を通すことを徹底する。
②膝を伸ばしたり曲げたりして、振動を大きくしていく。
太ももの裏をつかむ際に、鉄棒の上から腕を回してしまうと、振動が大きくなった時に落下する危険があります。ふとんほしになっている本人は逆さまになっていることで、自分の体の状態を認識しにくくなっているので、班の仲間がこれを確実にチェックするように指示します。振動が大きくなっても、太もも―上半身―腕で作った輪っかに引っかかるようにして落下を防ぎます。
2.ふとんほしブランコでのお手伝いや補助の仕方
ふとんほしブランコは、振動と膝の屈伸のタイミングが合ってくると徐々に揺れが大きくなっていきます。しかし、ふとんほしブランコをする子は逆さ姿勢になるため、振動を認識して屈伸のタイミングを合わせることがとても難しくなります。
そこで、振動と膝の屈伸のタイミングを合わせるために、振動に合わせて、体育班の仲間が、「伸ばして〜・曲げて!」と、口伴奏を唱えるように促し、振動と膝の屈伸のタイミングが合うようにしていきます。しっかりと足を伸ばし、踵(かかと)がお尻につくぐらい、膝を曲げさせます。
それでも、屈伸のタイミングがつかめない子は、図のように教師が体と足を持って振動と膝の曲げ伸ばしを同調させるようにします。
大きく振動できるようになってくると、ふとんほしで鉄棒に引っかけた股関節から鉄棒が外れて、図1のように脇で鉄棒にぶら下がってしまう子が出てきます。太もも―上半身―腕で輪っかをつくっているので、落下することはありませんが、このままではさらに大きな振動をすることができません。
(図1)脇で鉄棒にぶら下がってしまう子
そこで、図2のように脇を締めて肘で鉄棒(鉄棒補助具)を押さえるようにクラス全体で確認します。この姿勢が保持できれば、大きく振動しても鉄棒が股関節からズレることはありませんので、さらに大きな振動になっていきます。引き続き、体育班の友達からの「伸ばして〜・曲げて!」の口伴奏に合わせて膝を屈伸させて、振動が大きくなるように促していくとよいでしょう。
(図2)肘で押さえる姿勢ができている子
ふとんほしブランコの振動がさらに大きくなってくると、子どもたちの中にはその勢いで回転する(=「だるま回り」)子も出てきます。回転する子が出てきても、これをすぐに学級全体の課題として取り上げずに、ブランコの振動を大きくすることを共通課題として学習を進めます。
回転した少数の子に合わせて課題をステップアップするのではなく、振動を大きくする課題を継続することで、少しずつ上手になってきている子どもたちに「振りが大きくなってきたね!」「大きなブランコになってきているよ!」と、肯定的な声かけを増やすことが可能になります。この単元構成が、ふとんほしブランコ単元後半を充実させることになり、多くの子どもたちの「できた!」という実感につながります。
大きく振動することを課題として、ふとんほしブランコに繰り返し取り組むことで、鉄棒運動に必要な振動感覚を高めることができます。そして、このふとんほしブランコがだるま回り(かかえ込み回り)につながっていきます。焦らずに、どの子もふとんほしブランコで大きく振動できるようにしていきましょう。
次回は、鉄棒運動の教材として最も価値が高いといえる「だるま回り」について紹介します。
【参考文献】
・木下光正(2017)『〈小学校体育〉写真でわかる運動と指導のポイント 鉄棒』大修館書店
・平川譲(2012)『体育授業が得意になる9つの方法』東洋館出版社
・平川譲(2018)『体育授業に大切な3つの力 主体的で対話的で深い学びを実現する教師像』東洋館出版社
・筑波大学附属小学校体育研究部(2020)『できる子が圧倒的に増える「お手伝い・補助」で一緒に伸びる筑波の体育授業』明治図書出版
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
竹松 譲
新潟県公立小学校 教諭
1989年新潟県新潟市生まれ。子どもたちがたくさんの「できた!」を積み重ねられる体育授業を目指して、日々研鑽中。体育授業でのかかわり合いを中心として、子どもたち一人一人が安心して過ごすことのできる学級づくりを目指している。
監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。