不登校の子供を勇気づける大人の姿とは? ~花まるエレメンタリースクール 第1回卒業式密着ルポ~

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「花まるエレメンタリースクール」(通称・花メン)は、学校に行けない子供のためのフリースクールです。レスリングや将棋の日本一や数百年前の古字の博士など、尖った才能を持つ子も多数在籍しています。2022年に開校し、第1回の卒業式が2024年3月14日に武蔵野市民文化会館小ホール(東京都・武蔵野市)で行われました。卒業式とその舞台裏を取材、そして卒業式の翌日に、花メンのスタッフにお話をうかがいました。

校長の「はやとかげ」こと林隼人さんから卒業証書を受け取る卒業生
校長の「はやとかげ」こと林隼人さんから卒業証書を受け取る卒業生

卒業式の名前は、「花メングラパ」

今年3月に卒業する花メン初の卒業生は、9名です。卒業式はグラデュエーションパーティ(グラパ)と呼ばれ、約2か月間、PBL(プロジェクトベースドラーニング)の時間を使って準備を進めてきました。

まずは、花メングラパの当日を、プログラムの流れに沿ってご紹介しましょう。

ダンス部パフォーマンス

縦横無尽に踊る子供たち
縦横無尽に踊る子供たち

グラパの幕開けは、ダンス班のパフォーマンスです。子供たちは、PBLの時間だけでなく、昼休み、放課後など、お互いに声をかけ合って練習を重ねていたそうです。

漫才部ステージ

息の合ったボケと突っ込み
息の合ったボケとツッコミ

お次は、漫才部ステージです。応募者多数の激戦を勝ち抜いた代表2組の漫才はクオリティ高く、大笑いさせてもらいました。

全体合唱

会場が温まってきたところで、全体合唱です。曲目は、「愛は勝つ」と「絆」。歌う前に、全員で円陣を組みます。

円陣を組んで、心をひとつにする
円陣を組んで、心をひとつにする

ここにいる子全員が、かつては大人を信じられなくなっていました。

花メンに来ている子供たちは、可愛がられなかった経験がある子たちです。(中略) 初めて会った時は、みんな、一言でいえば、「大人を信じていない顔」をしていました。

不登校の子が、仲間との絆で一人残らず変わる ~花まるエレメンタリースクールの挑戦~

大人を信じられず、自分の殻に閉じこもっていたことがあるとは信じ難い、イキイキとした表情の子供たち。「自分の精一杯」を表現し、大きく力強い歌声がホールに響き渡ります。

子供たちが、精一杯歌っています
子供たちが、精一杯歌っています

保護者から卒業生へ

花メンでは保護者の方々もファミリーの一員です。保護者の「花メンクイズ」に会場は大盛り上がりで、さらに一体感が深まりました。

花メンにちなんだクイズを出す保護者
花メンにちなんだクイズを出す保護者の方々
会場には在校生はもちろん、1~5年生の保護者たちもいます。
会場には在校生はもちろん、1~5年生の保護者の方々もいます。

先生から君たちへ

先生たちもパフォーマンスをします。舞台が暗くなり、パッと照明がつくと、スタッフがスタンドマイクの前に勢揃いしていました。

皆様、スタンドマイクが似合います
皆様、スタンドマイクが似合います
先生である以前に、魅力的な大人であるスタッフ
先生である以前に、魅力的な大人であるスタッフ

花メンスタッフの前職は、元プロサッカー選手やチアリーディングの指導者などで、必ずしも全員が教員免許を持っているわけではありません。けれども、子供たちが、「自分も、ああなりたい!」と憧れるような人間像を体現しています。

卒業証書授与

いよいよ卒業証書授与がスタートしました。

証書を受け取った子から順番に壇上に座る
卒業証書を受け取った子から順番に壇上に座っていく
壇上に上がる前にスタッフとハイタッチ
壇上に上がる前にスタッフとハイタッチ

卒業生の言葉

最後は、卒業生の言葉です。一人ずつマイクの前に立ち、自分の言葉で花メンで過ごした時間やスタッフへの感謝を述べました。

それぞれが「自分の言葉」を持っていた卒業生
それぞれが「自分の言葉」を持っていた卒業生

曰く。

「花メンは、心を開く場所です」「花メンでは、ぶつかることや上手くいかないこともあったけれど、『まぁ、いいか』を学びました」「勉強嫌いだった僕が、勉強が好きになりました」「先生たちの姿が、本当に恰好良かった」「大切なことを、本気で伝え続けてくれてありがとう!」……。
卒業する9人のスピーチ、それぞれに個性がくっきり出ていて驚きました。

プログラム通りでなくていい

プログラム上では、この後に「フィナーレ」として全体合唱が予定されていましたが、時間が押していたので、「卒業生の言葉」まででグラパは幕を閉じました。

全体写真は、会場で撮影する時間がとれなかったので武蔵野市民文化会館前にある広場で撮影。

はやとかげ校長が、サラッと「時間が押したので、フィナーレはなし、撮影は外です」と全体に呼びかけていました。その、「ごく当たり前のこととして伝える」、さりげない様子を見て、「プログラム通りに進まなくとも、ここでは大丈夫なんだ」と花メンらしさを感じました。

グラパを支える舞台裏

さて。

ここからは、グラパの舞台裏の様子をご紹介しましょう。

リハーサル

さながら舞台稽古のようなリハーサルの様子
さながら舞台稽古のようなリハーサルの様子

グラパの前々日のPBLの様子です。「そこの流れ、堅いかも。もう一度、考えてみて」。

何をどうするかは、基本的には子供たちが考えます。「指導」ではなく、子供たち主導で考えた流れを、スタッフが一緒に確認する、といった感じでしょうか。

はやとかげが自ら動いて、グラパを創っていく
はやとかげが自ら動いて、グラパをつくっていく

「ここは、どうしたらいいかな?」と、はやとかげが子供たちに問いかけると、返事がきます。また、「そこは、自分たちでつくってくれていいから」と、子供に任せる場面も多々ありました。

子供たちは、自分事としてグラパに参加しているので、一斉指導的な動きも、すんなりと浸透していきます。もちろん、一斉指導的な動きが入りづらい子もいますが、周りがすかさずフォローしていました。

パンフレット

グラパの受付は、在校生が務めていました。来場者にパンフレットを渡します。

来場者にパンフレットを渡す。
来場者にパンフレットを渡す
いつでも 困ったとき 迷ったときは 花メンにおいで
いつでも 困ったとき 迷ったときは 花メンにおいで

花メンには、卒業しても、いつでも来ることができる安心感があります。卒業後、電車通学をする中学を選んだ子は、(花メンがある駅の)吉祥寺駅(東京都武蔵野市)が定期券の圏内にある学校を選んでいる子が多いとか。「何かあったら駆け込める場所がある」というのは、安心です…。

グラパ直前のロビー

いざ、グラパへ! の直前
いざ、グラパへ! の直前

お客様が客席に入った後、ロビーで、はやとかげが全体への最後の声かけをします。花メンの中には緊張をすると癇癪が出てしまうなど、全体での行動が苦手な子もいます。けれども、場の力なのでしょうか。みんな、はやとかげの言葉を、静かに聞いていました。

荷物を持って歩いて学校まで帰る

舞台から、急いで撤去したグラパの看板
舞台から、急いで撤去したグラパの看板

こちらは、グラパが終わった後の武蔵野市民文化会館入口です。商業ビルの一角にある花メンには、体育館や運動場はありません。文化会館を借りてのグラパ開催だったので、施設を使う時間には制限があります。

達成感が笑顔に出ているスタッフ
達成感が笑顔に出ているスタッフ

急いで撤去をしたグラパの看板を持って、学校まで歩いて帰る花メンスタッフ。「自分たちで学校行事をつくっている感」が満載だったので、思わずパチリ。

翌日にグラパを振り返る

グラパの翌日、花メンにて、グラパについてのお話を伺いました。参加してくれたのは、はやとかげこと林隼人校長と、あきこと町山阿記さんです。あきさんはかつて、オーストラリアでプロサッカー選手をしていました。

はやとかげとあき
はやとかげ校長とあきさん

早速、グラパについて伺いましょう。

― 6年生が1人ずつ発表する時に、言葉がなかなか出ない子がいて、空白の時間がしばらくありました。あの時はどんなお気持ちだったんですか?

はやとかげ 過去の僕だったら、あの空白の時間を待てなかったと思います。けれども、(壇上にいた6年生の)Yが話しかけるのを見ながら、「なるほど、サポートするのはYで、ああやって言うんだな」と、安心して見ていました。

Yがちょっとサポートをしただけで、Aの言葉が出てきました。あれが、Aの言葉です。以前の自分のままだったら、Aの言葉を聞くことはできませんでした。

― はやとかげにも、待てない時代があったんですか?

はい。僕は、むしろ待てない側の人間でした。ようやくそれができるようになったのは、ここ3年、いや、ここ2年半です。

あき 自分はあの時、「ここで待てなかったら、次に同じことが起きた時、Aは話すことができなくなる」と思って我慢していました。(他者を)待つことができる花メンの中だからこそ、Aは「話を始めることができなかったけれども、話せた」という体験ができました。

次にAが大きな舞台で発言をしなければならない場面で、また同じようなことがあったとしても、グラパのことを思い出して、自分の力で話し始めることができるんじゃないかなと思うんです。

はやとかげ (今回サポートに回った)Yは、最初に会った時、「親に騙されて、ここに連れてこられた!」と暴れて、話もせずに帰ってしまった子です。そこから2か月は、お互いに我慢比べでした。
それが今では、花メンが大好きで、積極的に友達をサポートするんですからね。そんなYの姿を見ることができて、グラパでは泣きました。

背中を見せていく

― 花メンでは、多様な個性を持った子供たちが、お互いを尊重しています。なぜですか?

はやとかげ 「ちょっと浮いているな」とか「急に奇声を発するな」といった子に対しての僕らの行動を、子供たちは見ています。子供は、全部を自分で感じていくのです。

だからこそ、「先生が、 どんな態度でいるのか?」は重要です。子供たちは、奇声を上げている子への先生の対応を見て、(温かく受け入れて、よしよし、可愛いなという感じで接するので)「先生、笑ってんじゃん。え! そっちの対応なの?」みたいなことの連続で、徐々に多様性を受け入れていくのだと思います。

僕は、「大目に見てやれよ!」という言葉をよく使います。
例えば、ドッジボールの線を越えてボールを投げてしまった子に対して、「線を越えた!」と大騒ぎする子がいたとします。間違ってはいませんが、人間同士ですから、そういうことをいちいち指摘していたら、人との関係性は築けません。
そんな時、「まあ、大目に見てやれよ」と伝えます。そうすると、その子なりのフィルターがスッとできあがってくるんですよね。

― フィルターができあがるとは、どういう意味でしょう?

はやとかげ 心の拡張ですね。物事の捉え方を広くしていく、というような意味でしょうか。「この場面では、こんなふうに捉えると、自分は(その物事を)受け取りやすいんだな」みたいな感じです。

そもそも人は多様で、いろいろな人がいます。自分と異なる意見の人は、どこに行ってもいるものでしょう? その時に、異なる意見の人間に対する自分なりの捉え方を学んでなかったら、話し合おうともせずにびっくりして排除するような行動をとってしまうかもしれません。

あき それを小学生の時に、空気感として、自然に伝えていくことは大切です。日本社会の中だけで育つと、「異質なものは、遠ざける、排除する」という感覚に陥りがちです。

大人になってしまった後では、海外にでも行かない限り、多様性を受け入れることは難しいのかもしれません。けれども小学生はピュアですから、僕たちが背中を見せていくことで、空気感を味わってもらえれば変わっていきます。

「ふつう」と異なることはカッコいい!

はやとかげ 「ふつう」と異なることは、むしろカッコいいことなんだ、という感覚で僕らは生きています。「変わっている」は、花メンでは褒め言葉です。

たとえば、うちは日本一落とし物が多い学校だと思うんですけれど、「あいつ、天才肌だからだよ」なんて言いながら、僕は落とし物を拾っています。

もちろん、時折、「物を大切に!」という話はします。けれども、大前提として、「今、社会に出て面白いことをやっている大人の中には、何かが抜け落ちてしまっている人がたくさんいるんだぞ!」みたいな話はしています。 

そんな話をしておくと、「落とし物をしまくる奴」も、「面白いキャラ」として子供たちは受け入れていくんです。「K、また落としてるわ。 可愛いな」と、子供たちの受け止め方も変わってくるんですよ。

また、癇癪を起こしがちな子が癇癪を起こした時、うちではみんなが笑います。それは、バカにした笑いではなくて、「久々に、Wのアレが聞けたよ」と本気で皆が喜んでいるんです。

あき 癇癪を起こした子への対応は、奥が深いですよね。「この子は、なぜ、癇癪を起しているのか?」「この癇癪を起している子に、どう言えば伝わるのか?」、一人一人、みんな異なります。

グラパでは、慣れない場所で緊張したせいか、至るところで癇癪を起こしている子が複数いました。
はやとかげ校長とあきさんは、グラパの日のそれぞれの子に対しての癇癪対応のエピソード~「あの子は、△△したんだよ」~を、心から愛おしそうに、楽し気に話し合っていました。

こんな背中を見て育てば、「久々に、Wのアレが聞けたよ」と子供たちが思うのも納得です。

いかがでしたでしょうか? 

子供が学校に行けなくなるのには、何らかの理由があります。ともすると「学校に行けない」という表面上の事象に慌てたり、「とにかく登校させなければ」と、形に捉われてしまっていませんか?

「学校に行けない」という事象の奥にある、子供からのSOSメッセージを見逃さない。そして困っていることの本質を探り当て、適切な手当てをする…。そういったことの方が、よっぽど重要なのだと、花メンスタッフと話をすると感じます。

花まるエレメンタリースクール 「メシが食える大人に育てる」花まる学習会が運営するフリースクール。これからの時代に必要な力を”体験”を通して”五感”を使って身に付ける。不登校の子、不登校でなくても才能を伸ばす新たな学びの場を探している子が通っている。HPは、コチラ。インスタグラムは、コチラ

取材・文 楢戸ひかる

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