ギフテッドが安心して学べる場所を、どう保障するのか?ー対談「ギフテッド応援隊」代表✕是永かな子教授

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ギフテッド保護者の自助団体である「ギフテッド応援隊」は、現在、ギフテッドの子どもたちの居場所づくりを模索中です。そんな応援隊の代表理事・冨吉恵子さんが、2023年10月、高知大学大学院の是永かな子教授を訪問、対談しました。今後の学校教育のあり方、当事者支援のあり方についての示唆に富んだ、その対話の模様をお届けします。

対談中の是永かな子教授と冨吉恵子さん。
高知大学大学院 是永研究室にて。冨吉さんの話に耳を傾ける是永教授。

ギフテッドの子どもたちの未来を考える

ギフテッド応援隊とは?

冨吉恵子さんが代表理事を務める「ギフテッド応援隊」は、ギフテッド・2Eの子を育てている保護者たちのネットワークです。
2017年に発足、2021年からは一般社団法人となり、当事者である子どもたちの成長を支える多彩な活動を、全国で展開しています。その活動の背景にある思いは、以下に抜粋した代表挨拶の文面に表れています。

代表挨拶より抜粋

私がギフテッドという言葉に出会ったのは、10年前、わが子が10歳の頃です。当時はギフテッドに関する日本語の情報など、ほとんど手に入りませんでした。わが子がギフテッドかもしれないと考え、独りぼっちでさまよっていた私を支えてくれたのは、ギフテッドの子どもを育てている母親たちの手によるブログ記事でした。(中略)

仲間との交流を深めるなかで、かつての自分のように孤独な子育てをしている保護者のために、安心してギフテッドのことを語り合える場をつくりたいと考えるようになりました。その思いから生まれたのが、ギフテッド応援隊です。

ギフテッド応援隊代表挨拶より一部抜粋

北欧の教育を研究

一方、高知大学大学院の是永かな子教授は、北欧諸国の社会システム研究者です。
この「ギフテッド特集」の記事でも何度か取りあげましたが、北欧諸国ではギフテッド教育の整備が既に着々と進行中です。是永教授は、そんな北欧のギフテッド教育に関する研究と発信活動を、精力的に行っています。

是永教授の研究発表より

デンマークやスウェーデンでは「ギフテッド支援が有効な子ども」は人口の5%と見積もられており、地域の公立学校の教育の一環として位置付けられています。

ギフテッドは日本に何%いるのか?―北欧インクルーシブ先進国から学ぶ改革のヒントより是永教授の研究発表の一部抜粋―

以下、そんなお二方による対談の記録をお届けします。

「この子たちが、本当に不登校なの?」

冨吉 私たちは、今、一部の地域で、ギフテッドの居場所づくりをしています。ギフテッドの子どもたち同士が1つの場所に集まると、ものすごく楽しそうに遊ぶのです。
「キャッ、キャッ」と声を出して笑いながら遊んでる子どもたちの姿を見ながら、毎回、「この子たちが本当に不登校なの?」と、思います。
そのように子どもたちが生き生きしてる様子を見ていると、「ギフテッドの居場所を、もっとつくりたい」という気持ちは強まる一方です。

是永 ギフテッドの居場所というのは、どんな場所をイメージされていますか?

冨吉 同質…と申しますか、同じような傾向がある子が集まる場所がほしい、と考えています。
ギフテッドの子どもは、「学校という場所」には、どうしても違和感、疎外感を抱いてしまうことが多いのです。ひどい場合には、クラスメートと話が合わないなどの理由でギフテッドの子が学級から排除されてしまうこともあり、不登校につながってしまいます。

生活圏内に「居場所」が必要

是永 ギフテッドの通級や、サマースクールによる支援については、どうお考えですか? 

冨吉 通級については色々な意見はありますが、私自身は良いのではないかと思っています。同じような傾向がある子が集まれる場所であれば、形態は問いません。その子の生活圏内に、「自分には、ここがある」と思える居場所が必要なのだと考えています。
じつは、「同質である」ということにも、それほどこだわってはいないんです。
ただ、今は、まだギフテッドという概念が知られるようになったばかりなので、なかなか理解されにくく、否定的な目で見られることもあるので……。
私が「同質」とお伝えしているのは、「その子らしさを否定されない」「細かい説明をしなくとも分かり合える」といったニュアンスです。

是永 現状、ギフテッドの子どもたちは、希望すれば通級での支援を受けられるのでしょうか?

冨吉 学校によりますね。通級教室や支援級が定員オーバーで、ギフテッドの受け入れが認められない場合もあります。
また、「ギフテッドは取りあえずここに置いておけばいい」みたいな考えの支援級が存在するのも気がかりです。学校に居場所があるといっても、学級から排除されたギフテッドが、1人でポツンと過ごしているというだけ……。それでは、私たちがイメージしている居場所とは、全く異なります。

最も重視していることは対話

冨吉 私が最も重視しているのは、「子ども同士で対話ができること」です。ギフテッドは興味関心の深度が深いので、通常学級で探求学習をしていても、他の子どもと話が嚙み合わない場合があるんです。

是永 ギフテッドが分断されることなく、他の子とつながりながら学べる状態が必要ですよね。
デンマークは、レゴブロック発祥の地なので、例えばレゴを使った放課後活動が行われています。レゴリーグと言って、組み立てたり、それらを動かすためのプログラミングをしたりしています。ギフテッドの子どもたちは、「創りたい人」なのかもしれませんね。

冨吉 そうですね。彼ら・彼女たちは、自分で創りたい人なんだと思います。

レゴを活用した放課後活動に取り組む子どもたち

国際バカロレアのプログラムを導入した公立小学校

IB取得の原動力は、「学校を変えていく!」という思い

是永 「ギフテッドが安心して学べる居場所」について考える上で、参考になる学校があります。
国際バカロレア機構より初等教育プログラム(PYP)の認定を受けている、高知県香美市立大宮小学校です。この学校での取組は、本来の意味でのインクルーシブ教育になっていると考えています。

さまざまな取組について話す是永かな子教授。
さまざまな教育的取組について話してくれる是永先生

日本には学習指導要領がありますが、国際バカロレア機構より認定を受ければ、国際的な教育プログラムで公立小学校を運営することが可能です。

【国際バカロレア教育(IB:International Baccalaureate)とは】

国際バカロレア機構(本部:ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラムです。IBは、1968年、未来に対して責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格を与え、様々な国の大学への進学を確保することを目的として設置されました。世界156の国や地域に約5000校の認定校があります。(2019年5月現在)

【IBの使命】
国際バカロレアは、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良いより平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

高知県香美市立大宮小学校HPより抜粋

是永 高知県の香美市では、学校に行けない子どもたちをはじめ、支援が必要な子どもが多く、教育委員会に「とにかく学校を変えなければならない!」という強い危機感がありました。「何か手立てが必要だ」となった時に、IBを見つけたという流れです。

香美市教育委員会は、本気で「学校を変えていく!」と頑張っています。IBでの学校経営となると、単独の学校単位では厳しく、行政、自治体レベルでの取組が必要です。

是永 上の写真は、大宮小学校の学級の様子です。ここには学習支援が必要な子もいますし、情緒的な支援が必要な子もいます。もちろんギフテッドの支援が有効な子もいます。それでも、みんなで のびのびと学びを深めようという空気を感じます。
学び方は、子どもによって1人1人違います。原理を知り一般化から学びたい子もいれば、事実を積み重ねることで学びたいタイプもいます。そうした違いを包摂するために、大宮小の子どもたちは、基本的にPBL(Project Based Learning)で学んでいます。
日本語では「問題解決型学習」「課題解決型学習」などと訳される学び方です。
子どもたちが自ら課題を発見し、その課題を自ら解決していく過程でさまざまな能力を身に付ける学習方法のことを指します。そのような学びの場であれば、1人1人が自分のペースで参加でき、全員が飽きることなく学びを楽しめます。

高知県加美町立大宮小学校の授業風景
それぞれの子の学びに寄り添う

現在(2023年11月現在)、IBを取得しているのは、高知県内では1校だけ(公立小学校では初)で、この学校に異動すれば、どの先生もIBの理念や授業の方法を身に付けることになります。

冨吉 かなり驚きました。高知県でこうした「学校が変わっていこう!」という取組が始まっているのなら、他の地域でも、ぜひ目指してほしいと思います。

1つの学級内で3段階の支援が受けられるフィンランド

なぜ、フィンランドの教員は連携をするのか?

是永 私の専門のフィンランドの教育の話を、少ししましょう。フィンランドの教員は、北欧4か国の中では一番、日本の 教員に近いと考えています。
フィンランドにも日本と同様、「授業をしたい」「教えたい」「自分が能力を高め、きっちりやりたい」…そんな気持ちの教員が多いと感じているのですが、彼らはそれでも、あえて複数で連携して仕事をしています。
例えば、協働教授(Co-teaching)を導入しているフィンランドの学校を訪れたときには、30人クラスを2つ、 2人の教員が連携して担任していました。
子どもたちに教員同士が連携しているところを見せつつ、教員自身も連携やコミュニケーションの仕方を学んでいく必要がある、と考えているからだそうです。

私見ですが、学校教育において大切なことは、「仲間との学び」と「居場所の保障です。他者と関わるという実体験がないと、子どもたちの状況理解、他者理解、そういった部分は育ちにくいと考えます。

複数の教員が連携する協働教授の実際

フィンランドで私が視察したのは、5年生の算数の学習場面でした。学級は、以下の3つの集団で編成されていました。

  1. 第一集団は、応用問題も含めて課題を設定し、最も多い人数で学習
  2. 第二集団は、基礎問題を中心に中程度の人数で学習
  3. 第三集団は、基礎問題を中心に少人数で複数名の教員の支援を受けつつ学習
最も多い人数で学習する第一集団
少人数を複数で指導する第三集団

このように、フィンランドの教育の特徴は、「場」で分けるのではなく、学級内で3段階の支援が受けられる点です。結果的に、通常学級内で「特別支援」を受けている子もいます。

人口規模は無関係!?

是永 ところで、北欧の教育について紹介していると、「日本とは人口規模が違うから」と、よく言われます。でも、人口規模を基に教育を考えろと言うならば、日本はロシアやエチオピア、フィリピンから学ぶべきなのでしょうか?

人口規模の問題なのか?

是永 また、「日本は教員不足で人手が足りない」という声をよく聞きます。けれども、学級の規模は、(是永先生が勤務する)例えば高知県について言えば、じつは北欧よりも小さいのです。

冨吉 私が住んでいる地域にも、(フィンランドの標準である)30人学級より小さい学級もあります。

是永 ですから私は、良い教育実践は、北欧であれどこであれ、国を問わずどんどん取り入れていけば良いのだと考えています。

是永先生は、日常的に日本の保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校・特別支援学校などに行って研究や教育相談活動をしています。一方で年に2~3回、各3週間ほど北欧諸国の教育視察に行っています。是永先生は、それらの国々の教育実態を踏まえ、日本が学ぶべきポイントを、以下のように指摘します。

ギフテッドの学びの保障に向け、北欧諸国から学ぶべき3つのポイント

  1. 北欧の教育界では、インクルーシブ教育の文脈の中で、ギフテッドの二次障害予防は重要であり、社会的損失としてギフテッドのドロップアウトの危険性を指摘していた。
  2. 日本でも、ギフテッドを「『特別ニーズ教育』の対象」として捉えることが重要である。
  3. フィンランドでは、通常学級内における複式学級的な学習でギフテッドの学習権が保障されていた。

ギフテッド教育の未来に向けて

冨吉 是永先生のご発信には、常日頃から注目していました。

是永 現在北欧では、ギフテッドの教育ができる教員養成を、大学の課程として構想し始めています。

  • 2022年にスウェーデンとフィンランドの大学間連携で5年間のプロジェクトとしてギフテッド教育博士課程を構築
  • ノルウェー・ベルゲン大学では修士課程コース特別教育専攻、ギフテッド・タレンテッド教育が開講

是永 こうした北欧の動きを受けて、日本にもそろそろ「ギフテッド学会」が必要なのでは? と、私は考えています。

冨吉 そうですね。この先、全力で協力いたしますので、ぜひ形にしていっていただきたいです。

是永かな子 高知大学 教職大学院教授
異なった思考軸である「北欧の社会システム」を研究することで、日本の常識だけに捉われない教育提言を行う。高知大学と、北欧4か国の大学との交換留学制度を構築、北欧研究者の招聘など、北欧教育との連携には定評がある。

一般社団法人 ギフテッド応援隊
保護者による自助団体。「ギフテッドの子どもたちの健やかな成長」を理念に掲げ、子どもたちが自分のギフトを大切にし、希望を持って成長していける環境づくりに取り組んでいる。

取材・文 楢戸ひかる

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