教師人生を変える出会いとは?【伸びる教師 伸びない教師 第38回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「教師人生を変える出会いとは?」です。若いころの様々な先輩教師との出会いは、自分の教師人生を変えるほどの大きな影響があり、それを大切にしようというお話です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
若いときの出会いを大切にしよう
本校主催の大きな研究発表会を終えた後、授業者だった若い教師に「いい授業でしたね」と声をかけました。
すると、「〇〇先生のご指導のおかげです」という言葉が返ってきました。
本校ではメンター制度をとっていて、ベテランの教師と若い教師がペアを組み、いろいろなことを相談できる仕組みになっています。
研究授業をするに当たっては学校全体で指導案検討をしてきましたが、細かい点についてはベテランの教師からいろいろなアドバイスをしてもらっていました。
また、若い教師の授業をベテラン教師に見てもらったり、ベテランの教師の授業を若い教師が見たり、ときにはベテランの教師に若い教師の学級で授業をしてもらったりしながら若い教師とベテラン教師が二人三脚で研究授業に臨みました。
私は、その若い教師がいい出会いをしたなとうれしく感じました。
若いときに、どんな人に出会ってどんなことを学んだかは、その後の教師人生に大きく影響します。
A先生との出会いが教師人生を変える
私もこれまで、学級経営のイロハを教えていただいた学年主任、教師の在り方を教えていただいた管理職など、数えきれないくらいたくさんの人との出会いがありました。
なかでもA先生との出会いは私の教師人生を変えるものとなりました。私が教師になって1年目が終わろうとしていたときのことでした。
当時の教務主任の先生から「もし勉強する気があるなら」と勉強サークルを紹介されました。
メンバーは私を入れて4人、一番年配の先生は30代半ばで私が一番年下でした。毎月2回、顔見知りの喫茶店の一角を借りて3時間ほど、それぞれが持ち寄った実践について検討をしていました。
実践の教科は決まっておらず、日々の授業実践から学級通信まで、自分が今取り組んでいることを文章にまとめ、毎回、ひとり1実践以上を持ち寄ることになっていました。
初めは、自分の実践を持っていくことができず、メンバーが検討している内容をじっと黙って聞いているだけでした。
参加して5回目くらいだったでしょうか。自分も実践を持っていかなければと思い、本で見付けた授業を自分の学級で実践し、持っていったのですが、メンバーから「この発問の意図は?」と質問され、答えに詰まった記憶があります。本に書いてあったものをただまねただけだったので、自分の意図などなかったからです。
黙ってしまった私に、リーダーのA先生は、この実践の足りないところ、こうしたらよくなるという代案を論理立てて説明してくれました。
その後も、私が提出する拙い実践に対して、毎回同じように指摘してくれました。
それから3年ほど経った頃、体育の実践を持って行ったときに、初めて「これはなかなかおもしろい」とA先生からお褒めの言葉をもらいました。
それまで実践は指摘されるものと思っていたので、びっくりしました。その後は、このことがきっかけで体育の実践を持っていくことが多くなり、気が付いたら体育が自分の専門教科になっていました。
また、A先生からは指導に関することだけでなく、教師としての姿勢も学びました。
雑談の中で、私が「忙しい」と学校の愚痴を漏らしたことがありました。A先生はそんな私に「みんな自分は忙しいと思っている。それは否定しないが、忙しいからどうするかを考えなくてはだめだ」と諭してくれました。
私も含めて、メンバーは実践を提出できないことが何度かありましたが、A先生は毎回少なくともふたつ以上の実践を提出していました。そんなA先生の言葉だからこそ、心に響くものがありました。
A先生になんと指摘されるだろう
その後、勉強サークルの活動は15年以上続きました。
今はなかなかメンバーが集まれなくなり、活動をしていません。しかし、集まれなくなってからも、日々の授業で「A先生がこの授業を見たら、なんとコメントするだろう」と考える自分がいました。
私の中では、今後自分がどれだけ成長してもA先生を超えることはないのだろうと思っています。それくらいこの15年間でA先生から学ばせてもらったことは数え切れませんし、今でも深く感謝しています。
そして、今、私にできることは、A先生から教えてもらったように、若い教師へ自分のこれまでの経験を伝えることだと思っています。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。