特別活動~多様な他者と協働し、よりよく生きる力を育むには~

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特別活動の充実は、予測困難なこれからの時代を生きる子供たちに必要な資質・能力を育むことにつながります。そのために、小学校の教師はどのような指導をすればよいのか、今後の国の教育政策全体の方向性や目標、施策とともに、特別活動の指導のポイントを文部科学省・安部恭子視学官の講演よりお届けします〈第47回九州地区小学校特別活動研究大会宮崎大会(2023年11月9日)より〉。

講師:文部科学省視学官・安部恭子

特活安部先生写真

VUCAな時代を生きる子供たちに必要な資質・能力を育む

VUCAすなわち、不安定(Volatility)・不確実(Uncertainty)・複雑(Complexity)・不明確(Ambiguity)な時代と言われるこれからの時代。そのような複雑で理解しがたく、予測困難な時代を生きる子供たちに、必要な資質・能力を確実に育むことが大切です。そのためには、多様な他者と協働し、自分のよさや可能性を生かしてよりよく生きていくことができるようにすることです。

安部先生講演パワポVUCA

子供たちの主体的・対話的な深い学びを実現するためには、先生たちに子供たちのロールモデルとなることが求められ、先生方自身の主体的な学びが欠かせません。そのために、先生方は、「組織を生かす」「多様な考えを生かす」「語り合って共有する」こと、つまり学び合う研修が重要です。日頃から先生方の間で指導方法などについて話し合ったり、情報交換したりできる良好な人間関係が基盤となります。

指導する上では
・育成を目指す資質・能力の明確化
・具体的な目指す児童生徒の姿の明確化
・指導と評価の一体化
・PDCAを生かす
・カリキュラム・マネジメント
・地域・社会との連携
などがポイントとなります。

今後5年間の教育振興基本計画のコンセプトとは

教育振興基本計画(令和5~9年度)が2023年6月に閣議決定されました。教育振興基本計画とは、教育基本法に基づき、政府が策定する教育に関する総合計画で、今後5年間の国の教育政策全体の方向性や目標、施策などを定めるものです。
その主なコンセプトの中で注目すべきは、「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2点です。

※ウェルビーイング:身体的・精神的・社会的によい状態にあることを言い、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念。多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるとともに、個人を取り巻く場や地域・社会が幸せや豊かさを感じられるよい状態にあることも含む包括的な概念。

安部先生講演パワポウェルビーイング

子供たちのウェルビーイングに関連する項目として
・自分にはよいところがあると思う。
・将来の夢や目標をもっている。
・授業の内容がよく分かる。
・勉強は好きだと思う。
・普段の生活の中で、幸せな気持ちになる。
・友人関係に満足している。
・自分と違う意見について考えるのは楽しい。
・人が困っているときは進んで助けている。
・学級をよりよくするために何かしてみたいと思う。
・先生は自分のよいところを認めてくれる。
・困り事や不安があるときに先生や学校にいる大人にいつでも相談できる。
などが挙げられています。

教育振興基本計画に示された教育に関するウェルビーイングの要素には、自己有用感や自己実現、協働性、利他性など、特別活動において育成を目指す資質‧能力と重なる部分が多く見られます。 また、基本施策6の目標として「主体的に社会に参画する態度の育成‧規範意識の醸成」が示され、その指標とし て「学級生活をよりよくするために学級会で話し合い、互いの意見のよさを生かして解決方法を決めていると答える児童生徒の割合」が例示されました。このことからも学級活動(1)の充実が大切であることが分かります。

特別活動において育成を目指す資質・能力

特別活動において育成を目指す資質・能力の視点は、「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」です。特別活動は、学級活動、児童会(生徒会)活動、クラブ活動、学校行事の総称であり、その基盤となるのが学級活動です。そこで、学級活動の各活動の特質を踏まえた確かな指導の充実が欠かせません。

学級活動の内容は次の3つです。
学級活動(1)学級や学校における生活づくりへの参画
学級活動(2)日常生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全
学級活動(3)一人一人のキャリア形成と自己実現

※キャリア形成:社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していくための働きかけ、その連なりや積み重ね。

安部先生講演パワポ特活の資質・能力

特質の違いを踏まえた学級活動の指導

学級活動の指導に当たっては、学級活動(1)や学級活動(2)などそれぞれの特質の違いを踏まえることが大切です。

学級活動(1)で育てる力とは

児童生徒が自ら学級や学校における生活上の課題に気付き、解決するために話し合い、折り合いを付けて集団として合意形成し、協力して実践することを通して、自治的能力を育てます。
よりよい合意形成をするには、
・安易に多数決で結論を出さない。
・多数意見でまとめていくことが基本であるが、少数意見も尊重し、生かす工夫はないかを考える。
・それぞれの意見を比べ合いながら、「折り合い」を付けて合意形成を図る。
などのことに留意することが大切です。

また、「見方を変える」「視点を変えて比較する」「何が違うのかを明確にする」「理由を明確にして話し合う」「互いの意見を理解し合う」「相手の立場に立って共感的に理解する」などの視点を生かし、様々な意見のよさを生かして、みんなが納得できるようにすることが大切です。

終末の教師の話のポイントは、前回と比べてよかったこと、次回に向けての課題、司会グループへのねぎらいなど、話合い活動に対する指導と評価とともに、実践への意欲付けを行います。
また、事後の活動の指導ポイントは、「実践でも、提案理由に立ち返り、めあてをもって活動できるようにする」「分担した役割ごとの進捗状況などを確認し、活動意欲を高める」「実践後の振り返りにより、互いのよさやがんばりを認め合う」などがあげられます。

安部先生パワポ特活(1)(2)(3)

学級活動(2)(3)で育てる力とは

児童生徒が自ら努力目標を意思決定し、その実現に取り組めるよう、生徒指導の機能を生かす展開を工夫することを通して、自己指導能力や自己実現を図る力を育てます。
その際、一人一人の意思決定がポイントになります。

よりよい意思決定をするには、
・事前アンケートなどを活用し、「自己の生活上の課題を解決する」という意識を高める。
・小グループで話し合い、多様な解決方法を見いだす。
・「学級での話合い」を生かして意思決定する。この際「グループごとに話し合って発表して終わり」になっていないか気を付ける。
・自分に合った具体的な目標や実践方法を意思決定する。
などが大切です。
学級での話合いを生かして、一人一人が意思決定して実践できるようにします。

学級活動における「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善ポイント

主体的な学びの授業改善のポイントは、「適切な議題選定や題材設定」「問題に気付く目を育む」「議題や題材を自分事として捉える」などです。

また、対話的な学びの授業改善のポイントは、「多様な意見のよさを生かした合意形成」「学級での話合いを生かした意思決定」「協働的な学びを通して思考の質を高める」「ICT末端などの活用」などです。
さらに、深い学びの授業改善のポイントは、「一連の学習過程を大切にする」「振り返りを生かす」などになります。

学級経営の充実を図るには

学級活動(1)における自発的、自治的活動を中心に学級経営との関連を図るようにします。多様な集団活動の経験の中で、集団活動の運営や役割を果たす活動を通して、自分なりの考えを深め、集団の一員として役割貢献、リーダーシップの発揮などのあり方やめあてをもって取り組むことができるように、場や機会の充実を図ります。様々な集団での活動を通して、自治的能力や主権者として積極的に社会参画する力を育みます。

安部先生講演パワポ学級の雰囲気づくり

特別活動は生徒指導の要

今を生きる児童生徒は、「児童虐待」「いじめ」「ヤングケアラー」「貧困」「不登校」「自殺」「暴力行為」「性被害、犯罪被害」など厳しい状況に取り巻かれています。厳しい状況に流されないように、特別活動を充実することが大切です。

そのためには、生徒指導の充実が不可欠です。そして、児童生徒が自己の生活上の課題や将来に向けた課題を解決するために学級で話し合い、自ら目標を立てて実践して「自己指導能力」や「自己実現につながる力」を育む特別活動は、生徒指導の充実に資すると言えます。

安部先生講演パワポ特活は生徒指導の要

特別活動の基本的な性格と生徒指導の関わりは、生徒指導提要にも示されていますが、
・所属する集団を、自分たちの力によって円滑に運営することを学ぶ。
・集団生活の中でよりよい人間関係を築き、それぞれが個性や自己の能力を生かし、互いの人格を尊重し合って生きることの大切さを学ぶ。
・集団として連帯意識を高め、集団や社会の形成者としての望ましい態度や行動の在り方を学ぶ。
などです。

このことから、生徒指導の充実には特別活動の充実が大切であることが分かると思います。

特別活動の実践を通して「自分たちの学級・学校である」「楽しく豊かな学級・学校生活を自分たちでつくる」という意識を高めます。また、「何のために話し合うのか」「何のための活動か」を明確にし、「やらされる活動」にしないようにします。これらは、学校全体で共通理解を図り、共通指導を行うようにすることが大切です。

よりよい学級・学校生活に向け、子供たちが集団や自己の生活上の課題に気付き、創意工夫して自ら解決する力を育みましょう。

取材・文・構成・撮影/浅原孝子

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