子供の思考を深める板書はどのように書けばよい?<中編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#31】
先生方のご相談について國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、前回に続き、板書における具体的な「思考ツール」の活用実践例や、「思考ツール」を使わない板書の構造化例などについて、ご紹介いただきます。
教員になって2年目なのですが、板書をどうしたらよいか悩んでいます。「子供の思考を促す板書」とか、「ふり返りをしっかり書けるような板書」が大事だと聞きますが、具体的にどのような工夫をすると子供が深く考えてくれるような板書になるのでしょうか。(小学校、20代)
子供の思考を促すために情報を構造的に整理し、黒板でビジュアル化する
前回、「思考ツール」の発想を活用し、板書を構造化するというお話をしました。授業中、音声言語だけで理解したり、深く思考したりできる子供は限られますから、すべての子供がより深く学んでいくために、「思考ツール」を活用して板書を構造化することで、思考を誘い、促すことが大事だということです。
ただし、板書全体を構造的に書かなければならないというわけではありません。思考を促し、深く考えさせたい部分だけでよいのです。例えば国語の学習で、板書の最初に学習のめあてがあり、その日に学習する場面の状況確認をしたら、それを板書し、そこに場面の挿絵のようなものが貼られていてもよいと思います。そこから、登場人物2人の性格の比較を行っていくなら、そこだけは「ベン図(比較する)」で整理をするというような形でよいのです。黒板という平面全体の中で、情報の関係がどうなっているかを意識して構造化し、板書することが大事で、それが思考を促すことにつながっていきます。
さて、では他の「思考ツール」を活用した板書の事例を紹介していくことにしましょう。
例えば生活科で、子供たちが「まちたんけん」に行った後の授業では、中心に「どんなHEROになれた(どんなことができた)」と書かれており、その周囲に子供たちがいろんな人に出会って話をするときに大事にしたこと(よく聞く、マナーなど)が書かれています(写真1参照)。その外側の周囲には、それに気を付けてコミュニケーションした結果、どうなったか(仲良くなった、ステキを見付けた、など)を書いています。さらに最も外側には、子供たちが「まちたんけん」で出会った人たちの名前が書かれています。子供たちが体験を言語化する過程で、それら一つ一つの言葉が表れ、つながり、「どんな人と出会い、どんなことに気を付けて関わり、どのように関係がつくれた」とイメージが広がっていきます。これは、「ウェビング(広げる)」の要素と「同心円チャート(時間、距離などの変化を捉える)」の要素を取り入れた板書です。ただし、これは生活科の学習であり、学齢も考えて、「ウェビング」とか「同心円チャート」といったことをあまり表に出さないように板書されています。
同様の学習場面での別の板書(写真2参照)では、中心に地域の名前を大きく記し、そこで出会った人をぐるりと大きな輪にして描くことで、地域のいろんな人たちに見守られているというようなイメージを、シンボリックに構造として示しています。
「ピラミッドチャート(構造化。上から下に向かっては具体化など。下から上に向かっては焦点化など)」などもよく活用されています。ある学級で、自分の成長について文章にまとめるときに、子供たちが下段に経験した事実を書き、中段にそれらをまとめ、上段にそうした経験を通して自分はどう成長したかという主張を書いています。先生はそれらをまとめて、大きな「ピラミッドチャート」を描いているのですが、このように個々で「思考ツール」を使って考えを整理し、それを板書で共有していくような例もあります(写真3・右側上下段参照)。
また別の実践例では、総合学習で地域の人に出会った後、その人たちとの関わりを通し、自分はどんな人になりたいと思ったかを「クラゲチャート(理由付けする)」を使って子供たちが整理した後、先生がクラスの子供たち一人一人がどのように生きたいと感じているか、「Yチャート(多面的に見る、分類する)」を使って分類し、多様な考えを整理しています(写真3・左側上下段)。
このような板書をしていくとき、先の生活科の例でも触れたように、「思考ツール」を明確に描いて板書される先生もいますし、「思考ツール」をバックボーンに置きながら、ツールらしさをあまり見せないように板書する先生もいます。例えば、前回紹介した国語の「お手紙」の授業では、がまくんとかえるくんの性格の特徴と共通点を「ベン図」で整理していましたが、「ベン図」を描かなくても、がまくんとかえるくんのイラストの側に特徴を書き、両方に共通することはその中間に書いていけば、整理されたことは同様に一目で分かります。
ただし、ここで大切なのは、事前にどんな力(思考力)を育むことをめざすかが明確になっていることです。それが明確にあれば、「ベン図」を使わなくてもそれぞれの性格の特徴を一定の距離を置いて板書し、共通点については真ん中に集めて書くことができます。しかし、事前にその意図がなければ、バラバラに出されてくる子供の意見を、そのようにうまく構造化して書くことはむずかしいでしょう。だからこそ、その単元や授業を通して育みたい資質・能力を明確にしておくことが重要なのです。
ちなみに、「思考ツール」を明示するか、明示せずに板書するかについては、どちらでもよいと思います。先生のキャラクターもありますし、子供の学齢や実態も異なりますから、その状況に応じて選択していけばよいと思います。
「思考ツール」を使わずに子供たちの思考を促し、構造化して整理する方法
子供たちの思考を促すために、「思考ツール」を活用して板書すると、どの子にとっても分かりやすいわけですが、重要なことは情報を構造化することですから、「思考ツール」を使わずに子供たちの思考を促し、構造化して整理していく方法もあります。例えば、理科の「もののあたたまり方」の単元の学習で、それまでに学習してきて学んだ知識を使って、いくつか用意された別の現象を説明することに取り組んだ、とある授業実践を紹介しましょう。そのときの板書は、左上に学習のめあてがあり、その下に、それまでの学習を通して得た主要な知識がいくつか示されています。その主要な知識を使って、用意された現象(例えば、電車のレールの隙間の幅が夏と冬で変わるなど)を説明していくわけで、子供たちはグループに分かれて対話しながら考えを整理し、ホワイトボードにまとめていくという授業でした(写真4参照)。
ここでポイントとなるのは、現象を考えていく上で鍵となるいくつかの主要な知識が板書に示されている、ということです。これまでの学習では、この主要な知識は明示せずに、子供たちに考えさせる傾向があったと思いますが、この板書ではそれを見える化し、板書しています。子供たちは学習の「めあて」の実現や「課題」の解決に向けて、その主要な知識を使って考えていくわけです。これは、「思考ツール」を活用した板書とは異なりますが、単純に時系列で書いていった板書とも異なり、かなり構造化されたものと言えるでしょう。問題解決すべき事象と、問題解決をするための道具が、黒板に分かりやすく構造化されて示されているので、子供にしてみれば、「ああ、あれを使って考えていけばいいんだ」と考えられるし、その結果としてみんなが考えたことも分かりやすいわけです。
もちろん、この事例のようにいくつかの事例に対していくつかの知識を示し、どのように使うかを考えさせる場合もあれば、一つの事例に対して複数の知識を示して、どのような知識をどう使って解決するかを考えさせる場合もあるでしょう。しかし、いずれにしてもただ単に知識を記憶に留めるかではなく、いかに積極的に活用するかにウェイトが置かれるようになっていると思います。ですから、思考を促すために情報を構造的に整理し、黒板という平面にプロットしてビジュアル化することが大事なのです。
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前回(前編)、今回(中編)と「思考ツール」の活用を中心に、構造化された板書の整理の仕方について説明していただきました。次回は、ICT時代の板書について「快答」していただきます。
【田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、10月12日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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