小学校理科で子どもが「見通しをもつ」こと 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#31
理科では、「子ども自身が自分の力で問題を解決できる」ことを目的の1つとしています。その際に重要になってくるキーワードは「主体性」になります。自分自身で考え、目的をもって解決できるまで取り組んでいるかが重要ということです。主体性をもって問題を解決するためには、子ども自身が「見通し」をもっていることが必要で、逆に言うと見通しがなければどのように解決していいのかわからないと困ってしまうでしょう。
今回は、小学校理科で主体性が何で、子どもが「見通しをもつ」こととどのように関わっているのかを整理したいと思います。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
目次
1.子どもが主体的に問題解決できるのは「見通し」があるから
主体性をもって問題を解決するために必要な要素について考えていきましょう。
まずは、子ども自身が問題意識(問題)をもつことです。主体的に問題を解決するということは、自分自身で「やってみたい」「解決したい」という強い気持ちが必要です。子どもたちには、「これを調べたい(解決したい)」という方向性(ゴール)を確認することで、問題解決における自分の位置付けが見通せるようになりますし、さらに強くやる気をもたせることで最後まで粘り強く取り組むことにも繋がります。3年生の思考力の評価の観点として「問題を見いだし表現する」ことができたかどうかがありますが、これはまさに「自分自身で問題意識(目的)をもつことをしないと主体的な解決に繋がらない」ために育成することが重視されている表れといえるでしょう。
次に、自分自身で問題を解決できるには、ある程度の知識・技能、考え方(物事の捉え方、考え方)をもっていることも大切になります。先ほど述べた「問題意識(目的)」だけでは、単に「やりたい」と思っているだけで、「知識・技能、考え方(物事の捉え方、考え方)」がないと、「気持ちは解決したいけど、やり方がわからない」という状態になります。
つまり、子どもたちに任せて主体的に問題を解決させたければ、「(自分が知っている)この方法で解決できるのではないか?」といった見通しを持たせることが大切です。
すなわち、子どもたちだけで解決できるように、このような知識・技能、考え方(物事の捉え方、考え方)をあらかじめ持たせた上で、主体的に問題を解決させる授業場面をつくる必要があるわけです。
最後は「メタ認知」です。カタカナ文字で「ウッ!」とくるかもしれませんが、難しいことではありません。簡単にいうと、①自分自身を客観的にみること(自分が今やっていることがうまくいっているのかどうか確認すること)、②次に自分がどうしたらいいか計画すること、の2つが意味としてあります。確かに、主体性をもって問題を解決するためには、先ほど述べた「問題意識(目的)」だけなら、「知識・技能、考え方(物事のとらえ方、考え方)」があれば「問題を解決する」ことはできそうですが、実際に自分自身で問題を解決するには「どこまで解決できているのかな」「うまくいってるのかな」と振り返ることも必要です。つまり、メタ認知は、より妥当な見通しをもつためにあり、解決するためのハンドリングを「メタ認知」が担っているといえるでしょう。
このように、主体的に問題を解決するには、「自分自身で解決できそうだ」「これを解決したい」「このようにすれば解決できるのではないか」など、解決のための「見通し」が大きく関わっています。
なお、理科で「見通し」と聞くと、実験結果が想定できている(「実験結果の見通し(自分の予想が確かならば、この実験をしたらどのような結果になるか予想すること)」を想起しやすいですが、必ずしも実験の方法が決まった時の「実験結果の見通し」だけではないということです。
2.理科の問題解決の場面で考える、「見通し」をもたせる指導とは?
先ほど主体性と見通しについて考えてみましたが、子どもたち自身が「自分自身で解決できそうだ」「これを解決したい」「このようにすれば解決できるのではないか」など、解決のための「見通し」という視点で考えた際に、問題解決の各場面で気を付けることが見えてくると思います。ここでは、「見通し」をもたせる指導を理科の問題解決の場面ごとで考えたいと思います。
以下は、問題解決の各場面で行うことを整理したものです。
①自然事象と出合い、追究する対象に注目する
②問題を見いだし、解決する方向性を決める
③予想し、事象の原因に着目する
④実験方法を考え、事象の原因が予想通りか(実際どうなっているのか)調べるための検証方法をはっきりさせる
⑤観察・実験を行い、事実が何か確認する
⑥結果を整理し、事実から何が言えるのか、問題が解決したのか確認する
⑦考察や結論をまとめ、 わかったことから新たな疑問や問題を見いだす
上述の①から⑦の場面をどのように「見通し」をしているのかという視点で見てみると、
①②:問題解決の対象や方向性に注目する
③:「事象の要因はこうなのではないか」と見通す(予想する)
④:予想の場面で見通した事象の要因を「解決する方法はこうなのではないか」と見通す(実験を計画する)
⑤⑥:「見通し」はなく、見通し通りか事実の確認をするのみ
⑦:わかったことから「結果がこうだったら、この場合はこうなのかな」と見通す(新たな疑問や問題を見いだす)
と考えられます。次に理科の問題解決の場面で考える、「見通し」をもたせる指導として気を付けることを整理します。
①②の場面(事象との出合いの場面・問題を見いだす場面)では、一般的に言う解決の「見通し」とは言いにくいかもしれませんが、問題に着目すること自体が「見通しをもっている」と言えなくもないと思います。ここでは、「何を解決するのか」を決める場面になりますが、①②の場面で「見通し」をもたせるためには、「子ども一人一人の問題をはっきりとさせる」ことが必要といえるでしょう。これは、学級として統一の問題を意識しているというより、子ども一人一人が自分事として「これをやりたい」と思うことが重要といえます。指導としては例えば、ある程度個人の問題を広く許容し解決することが複数できるようにすることや、(予想の場面に少し入りますが)子どもの異なった予想をぶつけ合い、「(みんなの考えがバラバラだけど)実際のところどうなのか?」という気持ち(やる気)を醸成することなどが考えられます。
③の場面は、予想の場面になります。予想すること自体が解決の「見通し」といえます。つまり、③の場面で「見通し」をもたせるためには、「子ども一人一人の予想や根拠をはっきりとさせる」ことが必要といえるでしょう。指導としては例えば、他人の予想に乗っかってしまわないように一斉指導で済ませるのではなく、普段より少し時間をかけて予想とその根拠を個別に書かせ丁寧に確認することや、複数予想がある場合に自分がどの考えに近いか挙手させたり、黒板のネームカードを動かしたりして自分の立場をはっきりさせることなどが考えられます。
④の場面は、実験方法を考える場面になります。実験方法を考えること自体が解決の「見通し」といえます。つまり、④の場面で「見通し」をもたせるためには、「子ども一人一人の問題や予想を解決するための方法をはっきりとさせる」ことが必要といえるでしょう。指導としては例えば、調べたいことを明確にするために子どもが発表した実験条件を教師が整理することや実験が決まった際に、一人一人に「実験結果の見通し」をさせることなどが考えられます。
⑤⑥の場面(観察や実験の場面・結果を整理する場面)では、解決の「見通し」をもつことはできません。なぜならば、この場面は、見通しをもって「確認する」場面だからです。ここでは、強いて言えば「見通しをしっかりと意識させながら、結果がその通りかどうか、事実を確認する」ことが重要といえるでしょう。指導としては例えば、観察や実験の前に子ども一人一人の「実験結果の見通し」を再度確認して、観察や実験中に何をみるのかをはっきりさせることなどが考えられます。
⑦の場面は、考察や結論をまとめる場面になります。学習内容によりますが、学習したことから次の授業や日常生活の場面に繋げるような時があります。
これは、ある問題解決をしたことで、新しい疑問や問題が出てくる(次の問題に着目する)こと、別の場面において学習したことを適用する(他の場合だとどうか、という問題に着目する)ことを意味します。
⑦の場面で「見通し」を持たせるためには、「結果から妥当な考察や結論をまとめる」ことや、「まとめた考察や結論から新しい疑問があるか、日常で言えることは何か、やってみて何を考えたか」など確認することが必要といえるでしょう。
指導としては、例えば、考察や結論をまとめる際に、どの結果からそれが導き出されるのかを確認する時間をつくること。そして、たんに考察だけで終わるのではなく、感想を書く時間までも、しっかりと確保することが大切です。
以上のように、子どもたちに常に見通しをもつような指導をすれば、自分が何を考えているのか、これから何をすべきなのかがはっきりし、主体性をもって問題を解決することができるのではないでしょうか。
イラスト/難波孝
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。