楽しみながら蹴る技能を高めるにはどうする? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #36】
「サッカーやりたくない」。昨年度1年生の担任をしていて、数人の女の子たちから言われました。「なぜ?」と問い返すと「上手に蹴れないし、ボールが怖いから」という返答でした。そんなことを言っていた子どもたちが、夢中になって取り組んだ教材があります。その教材は、「たまごわりサッカー」です。今回は、苦手意識をもっている子どもたちも夢中で取り組むようになり、楽しみながら蹴る技能も高まっていく「たまごわりサッカー」を紹介します。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・齋藤 裕
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川 譲
目次
1.コート
※コートヘのラインの引き方については#5参照。
※攻め側の番号は、蹴る順番を表しています。守りは振り向いて、次の守りに備えます。
上図のようなコートを準備します。たまごの両端にコーンを置いて目印とします。ステップ1として5mライン(1点ライン)のみ、ステップ2として5mライン(1点)と7mライン(2点)を引きます。この距離は、児童の実態に応じて変えてもかまいません。また、たまごの大きさ(6m)を広げることで、得点しやすいゲームにすることも可能です。
1つのコートで攻め4人、守り4人の計8人で運動するので、32人学級であれば4コートを準備します。人数に応じて、コートの数を決めます。
2.グループ
体育班の4人組で活動します(体育の学習班については#2を参照)。蹴る技能を測ってチーム作りをする方法もありますが、低学年は、体育班での活動をおすすめします。休みの子や学級の人数の関係で4人グループが作れないときは、3人組でも大丈夫です。
3.ルール
●1つのコートで攻め4人、守り4人とします。
●攻守は時間制(2~3分程度)で交代です。
●先攻のチームは、2人ずつ5mラインに分かれて、順番にボールを蹴ります。
たまごの手前の曲線と後ろ(奥)の曲線をボールが通過したら(割れたら)得点です。
得点した子は、帽子の色を変えます。
●後攻の守りチームは、たまごの中に4人が入り、中でボールを通されないように手足でボールを弾いたり、捕ったりして守ります。ボールを捕ったときは、次にボールを蹴る攻めの子に転がして渡します。
●コーンより高く蹴ってしまったボールは得点にはなりません。セルフジャッジが基本ですが、もめてしまったときはじゃんけんで決めます。
●守りチームが「わざと大きく蹴り出すことはしない」ことや「攻めチームにボールを渡すときは転がす」といったルールを決めておくと、スムーズに進めることができます。
4.ゲームの進め方
図に描いたり説明をしたりするだけでは、ゲームの様相を理解するのが難しいので、1つのコートでモデルゲームを行わせます。そして、全体でルールを確認します。
攻守1回ずつ行ったら、試合終了です。時間内であれば、何度も攻撃することができます。得点の多いチームの勝ちとします。同点の場合は、じゃんけんで勝敗を決めます。グループでの入れ替え戦を行い、対戦相手を変えて次の試合を行います。
5.「たまごわりサッカー」のメリット
⑴ 安心した状況でボールを蹴ることができる
ボールを蹴る時のポイントを共有しても、動きのあるゲームの中では技能の発揮が難しいことがあります。「たまごわりサッカー」では、ボールを置いた状態から、誰にも邪魔をされず落ち着いてボールを蹴ることができるので、安心した状況で運動することができます。また、必ず蹴る順番が回ってくるので、運動機会も保障されます。「強く蹴る」「空いているところをねらう」など、共有したポイントを意識して取り組むこともできるでしょう。
⑵ 攻守ともに仲間と協力して、プレイすることができる
1回ごとにプレイが止まるため、攻める時は「空いているところをねらって蹴るといい」「少し助走をつけるといい」など、仲間同士アドバイスし合う姿が見られます。守る時にも「一列に並んで守ろう」「前と後ろでジグザグで並ぼう」など、声をかけ合う姿が見られました。また、仲間の得点を一緒に喜んだり、ボールを通さないように懸命に守る姿に「ナイス!」と声をかけたりする様子もあり、チームとしての喜びを共有することもできます。
⑶ 勝敗を受け入れる経験ができる
負けるとすねる子や泣いてしまう子が出てしまうのも、低学年の授業ではよくあることです。入れ替え戦を用いることで、勝っても負けても相手を変えて次の試合が始まります。勝ったらたくさん喜ばせます。負けても負けを受け入れて「次がんばろう」というチームを見つけたら、たくさん褒めて価値づけます。どのチームにも勝ったり負けたりが当たり前のように起きる教材なので、気持ちを引きずるより「次の試合をがんばろう」と勝負に挑み続けることができます。そういう経験をたくさんさせることで、勝敗を受け入れる土壌を少しずつ耕していけます。
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サッカーを習っている子が増えていて、低学年段階でも蹴ることに大きな技能差があります。どの子も安心して夢中になってボールを蹴ることができる「たまごわりサッカー」は、技能差に関わらず運動機会が平等に与えられる魅力的な教材です。蹴る運動の教材に困り感をもたれている先生方、「たまごわりサッカー」をぜひ試してみてください。
【参考文献】
筑波学校体育研究会(2007年)『運動好きな子 明るい子 体力のある子を育てる』筑波学校体育研究会
イラスト/佐藤道子
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執筆
齋藤 裕
神奈川県公立小学校 教諭
1978年東京都豊島区生まれ。子どもたちが「夢中になって体を動かそうとする体育学習」、体育を指導することを苦手と感じている教師が「これならできそうと思える体育学習」を目指して日々研鑽中。
監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。