「保護者からの相談は信頼を得るチャンス」保護者を味方にする学級経営術 #7
学級担任なら、一度は保護者対応に悩んだ経験があるのではないでしょうか。しかし、保護者が味方になってくれたら、こんなに心強いことはありません。この連載では、保護者が担任と学級を応援したくなるような学級経営について、その月の学校状況に合わせたアイデアを紹介します。第7回は、保護者から相談を受けたときの対応術を解説します。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
4つのポイントを押さえて、ピンチをチャンスに変えよう
保護者から、子供のことで相談されることはありませんか。相談があるということは、何らかの心配事やトラブルがあったということ。対応を誤れば、保護者からの信頼を失うだけでなく、大きな問題に発展し、その解決のために忙殺されることになりかねません。
ピンチをチャンスにということがよく言われますが、まさに保護者からの相談は、信頼を得るチャンスとなります。
では、どのような対応がNGなのでしょうか。そして、どう対応するとよいのでしょうか。4つのポイントを基に解説します。
①素早く動く
保護者が学校に相談するというのは、実は心理的なハードルが結構高いものです(一部そうではない人もいて、そういう人の印象ばかりが残りますが)。ですので、保護者から相談事があったら、どんなに軽く見える内容でも、おろそかに扱ってはいけません。悩みに悩み、やっとの思いで相談している人もいるのです。
また、本音をすべて伝えてくれるわけでもありません。多くの保護者は常識人ですから、「こんな言い方をしては失礼かな?」と考えて、言葉を選んでいるのです。ですので、どんなに些細な内容でも誠実に対処することが大切です。
その土台となるのが、素早く動くということです。
やっとの思いで相談したのに、先生からのリアクションがない。これでは、信頼を失いますね。
では、「素早く」とはどのくらいの早さかというと、できるだけ早く、遅くとも24時間以内です。
例えば、朝、連絡帳で相談があったら、子供が帰るまでに何らかの回答をする必要があります(連絡帳に返信するなど)。簡単な問い合わせの場合、これで問題ないですし、実際みなさんもそうしているでしょう。
しかし、単なる問い合わせではなく、相談事の場合、そんなに簡単に答えが出ないこともあります。そこで、先延ばしにしてしまう人がいます。これは、保護者を不安にさせます。
このような場合は、現在どのような状況なのかだけでも、まずは伝えましょう。
・聞き取り調査が必要なので、明日まで待ってほしいと当日中に伝える。
→関係者から話を聞き、翌日の夕方にその結果を伝える。
・学年主任、管理職と情報共有して、今後の方針を決めると当日中に伝える。
→決定した方針を、翌日の夕方に伝える。
このように何かしらの動きをしていることを具体的に伝え、期限も示すことで保護者は安心して回答を待つことができます。
②組織で動く
簡単な質問程度ならばいいのですが、子供が学校に行きたがらない、いじめられているなどの相談の場合、担任個人ではなく、組織で動くことが基本です。相談のあった保護者にも、組織で動いていることを伝えましょう。
いじめの場合はすぐに対策会議を開く必要がありますが、相談事の中には担任の対応だけですむことも多いでしょう。そんな場合でも、保護者にひとこと「このことは学年主任や管理職にも報告しています」と伝えると、安心感や信頼感が増すのです。
例えば、あなたが高額な買い物をしたとします。しかし、せっかく到着したその商品に不具合があった。そこで、担当にクレームを入れます。その際、「すぐに対応します」と言われた場合と、「店長にもすでに報告済みです。すぐに対応します」と言われた場合、感じ方が違いませんか。後者のような回答なら、店長にも伝わっているのか、それならば安心だと感じるのではないでしょうか。
実際には、店長がどの程度信頼できる人物かは不明です。しかし、人は肩書きを信頼するのです。ですので、学校では教頭、校長をどんどん活用するといいのです(もちろん、ちゃんと報告しましょう)。
③保護者の求めていることをつかみ、ゴールを共有する
子供からの相談にも言えるのですが、相談事を聞いて、それに反応するだけの対応で終わる先生がいます。これではなかなかうまくいきません。
例えば、「うちの子供(Bさん)がAくんにいじめられているので、何とかしてほしい」というような相談はよくあるでしょう。
そこでAくんに話を聞き、指導し、Bさんに対して謝らせる。まさに、何とかしてほしいと言われたことに素直に反応し、自分なりにはちゃんと解決したつもりです。
ところが、そのことを報告したら、「Aくんにはさりげなく指導してほしかった」「仕返しされたらどうするのか」と保護者が憤慨し、余計にこじれたというようなケースがありました。
また、「Aくんの保護者からも電話がほしい」「相手の親はどう思っているのか」と苦情を言われたというケースもありました。
何がいけなかったのでしょう。単に相談事に反応するだけで、相談事の着地点、ゴールの確認が不足していたことが原因です。
ですから、相談事があったら、どうしてほしいのか、それを具体的に聞きましょう。
・加害児童から直接謝罪すればいい
・被害児童(相談人の子供)が納得すればいい
・加害児童の保護者には必ず伝えてほしい など
このように何を求めているのか明らかにしてから対応したほうが、後のトラブルを防ぐことができます。
④1週間後の学校での様子を伝え、家庭の様子も聞く
例えば、いじめの相談を受けて、加害児童が謝った。これで一件落着としてしまうのです。一番抜けがちなのがここです。
アフターサービスではないですが、1週間後や2週間後に「その後いかがでしょうか」という連絡を入れる、ちょっとした心遣いが安心と信頼を生むのです。
いじめについては、文科省の示す基本方針で3か月間はいじめがやんでいることが条件となりますから、定期的な観察が必要なのですが、いかなる場合も、せめて1週間後に再度確認の電話をしましょう。そして、「その後、学校では元気よく過ごしていますが、ご家庭ではなにか言っていますか」など、家庭の様子を聞きましょう。
こうした一手間をかけることで、この先生はその後のフォローまでしてくれるのだ、と相談前よりもぐっと信頼感が増すことでしょう。
「あなたの最も不幸な顧客が、あなたの最大の教師」だとビル・ゲイツは言っています。保護者は顧客ではありませんが、保護者からの相談事・苦情などは、自分の学級経営に足りない部分を気付かせてくれる機会になるかもしれません。そんな謙虚な気持ちで、前向きに対処していきましょう。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
イラスト/イラストAC
【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ! 授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。
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