休み明け 不登校、行き渋りの子供たちの心のケアをどうするか?

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小学校では、保健室登校や行き渋り、不登校の子供が増える現状があり、大きな課題となっています。特に休み明けは、その数が増えると言われています。不登校傾向や行き渋り、保健室登校の子供の対応や心のケア、保護者への対応をどのようにすればよいのか、全国養護教諭連絡協議会常務理事であり、千葉県公立小学校の養護教諭である木原薫先生にうかがいました。

木原 薫・きはらかおる
全国養護教諭連絡協議会常務理事、千葉県養護教諭会顧問
千葉県公立小学校養護教諭ひとすじ。2019~2022年千葉県養護教諭会会長、2023年千葉県養護教諭会顧問。子供が大好き。スヌーピーが好き。子供の心と体の健康のために日々奔走している。

集団に馴染んでいない子は要注意

保健室全体の写真
保健室には、ぬいぐるみやいやしグッズなどを置き、くつろぎやすくしている。

――休み明けは特に保健室登校や行き渋り、不登校が増える傾向にあると聞きます。どのようなきっかけ、原因が多いのでしょうか。小学校の保健室登校の子供たちの実態と対応を教えてください。

木原 夏休み明けは登校渋りが増える傾向にあります。それは、宿題が終わっていない、規制のない生活を1か月程続けているため、時間に規制のある生活が憂うつになる、ゲームや動画に浸っていた生活が続き、生活リズムが夜型になってしまったなどが原因として考えられます。学校に来てイライラしている子の理由を聞くと、「早く帰ってゲームしたい」と言うこともありました。

また、SNSなどがさかんになり、自分の知らないところで人間関係が変わっている可能性もあります。休み明け、「また、○○ちゃんと仲良くできるかな?」というように人間関係が心配という理由もあります。

――不登校になりそうな子供たちはどのような様子や前兆が見られますか。そのような子供たちへはどのような対応をすればよろしいでしょうか。

木原 心配な子の様子としては、集団に馴染んでいない前は仲良くしていた子と最近はいっしょにいない遅刻や欠席が増えている保健室に頻繁に来るなどが見られます。それらの様子が見られたときには、早めに養護教諭やスクールカウンセラーに相談するのがよいと思います。

保健室に頻繁に来る子には、「これ手伝ってくれるかな?」などと話しかけ、掲示物の作成を手伝ってもらうなどしています。いっしょに作業などするなかで、家庭や家族の状況などを何気なく聞くようにしています。養護教諭の私も相談に乗りますが、相談するところが多いほうが子供が安心できると思い、そういう子供にはスクールカウンセラーの存在も伝えます。

保健室の勉強コーナー写真
保健室で勉強ができるように机も設置されている。

――不登校傾向の子供たちへの言葉がけやアドバイスはどのようにされているのでしょうか。

木原 例えば、保健室に登校した子には、「あなたは1人ではないんだよ」ということを伝えます。そして、「やれることをやれる場所でやればいいよ。○○さんのタイミングでいいんじゃない。今は教室に行くのが無理だと思うときは、無理に行かなくていいのよ」と言います。

保健室は子供たちがリラックスして、安心して過ごせることを心がけています。環境づくりの1つとして、モコモコしたぬいぐるみをたくさん置いています。子供たちは、ぬいぐるみを触ったり、抱いたりすることで気持ちが落ち着くようです。手づくりのいやしグッズも置いていますので、それもよく触っています。

「保健室に行ったら絶対教室に行かされるんだよ」ということにならないようにしたいですね。子供自身が自分の意思で決められるように支援します。

不登校の子供が学校に来たときには「学校によく来たね」と大歓迎します。ときには、自宅に迎えに行くこともあります。そのときに、子供の生活の様子をさりげなく聞くようにしています。また、子供だけでなく、機会のあるときには保護者の方とも話します。親御さんには「困った子だ」ではなく、「この子が困っている」というふうに思ってもらえるように話します。困っていることが何かということを理解することも大事にしています。

木原先生と人形の写真
ときには人形を使って子供に話しかける。人形で話しかけられると子供たちはとても話しやすくなるそう。

――不登校傾向の子供たちへのカウンセリングはどのようにされるのでしょうか。

木原 私たち養護教諭が話を聞いたり、スクールカウンセラーが相談に乗ったりします。また、小学校ではチーム学校で、ケース会議を開き、子供への対応を考えていきます。そのときには子供の意思を尊重します。教室に行けないときには、リモートにしたり、保健室で勉強したり、保健室でもリモートしたりと子供ができることをします。そして、教室に行けそうになったときに行くようにします。学校は安心できる場所でなければいけません。学校全体でその子を支援していきます。

登校してきたことをほめる

――不登校傾向の子供に対して、学級担任は、言葉がけや心のケアをどのようにするのがよいのでしょうか。

木原 登校してきたことについて、「よく来たね」などと言ってほめてあげることが大事です。過剰にほめ過ぎず、触れ合う機会を増やし、よく話を聞いてあげるとよいでしょう。会話を多くもち、何気ない会話の中から不安となっている(原因となるような)ことをつかんでいくようにします。

子供の近くにいるのは担任ですので、子供が安心できるような声かけ、安心感を与えるような声かけができるとよいし、不安となっている要素を1つ1つ取り除いていけるとよいと思います。

そうできるように他の職員も協力、アドバイスできるよう心がける必要があります。子供には、学級担任だけでなく、学校には話を聞いてくれる先生はたくさんいる、教室以外にも居場所があるということも伝えるとよいでしょう。

それから、学級担任は、自分でなんとかしようと抱え込んでしまったり、自分のせいかもしれないと思ったりされることが多いように見受けられます。気になる子がいたら、早めに養護教諭に話していただきたいと思います。学級担任は毎日子供を見られているので、いつもと少し違ったら、養護教諭に伝えてほしいですね。いっしょに考えることができると思います。

決して1人で解決しようとしないことが大切です。他の職員と連携し、それぞれが得た情報を共有し、チームとして取り組めるとよいですね。

――不登校傾向の子供の保護者に対し、学級担任はどのように対応すればよいと思われますか。

木原 子供のケアと同時に親御さんへのケアも必要と感じます。それは、チームとして、だれが対応するのがふさわしいか、学校が連携していくことが大切です。学級担任への不信感につながってしまわないよう、注意して対応する必要がありますね。
親御さんには適当な時期に、「もしも休みが続いたときには、連絡を入れてもよいですか」など前もって確認しておくこともおすすめします。
それから、休みが続いているときには、学級担任の強い思いを出しすぎるとプレッシャーを感じてしまうこともありますので、「勉強はどうしましょうか」など相談しながら進めるのがよいのではないでしょうか。
私の場合、子供を送ってきてくれたときなど、親御さんが来校したタイミングで、さりげなく近付いて会話し、つながりをつくっていきます。「いつでもお話聴きますよ~」という気持ちをさりげなく伝えるようにしています。

保健室の机といすの写真
保健室は、子供たちや保護者が落ち着いて座れるようにしている。

困っている子の味方の1人になる

――先行き不透明な今の時代に、子供たちのメンタルケアはどのような心がけが大切でしょうか。

木原 子供に対しては、「困った子」ではなくて「困っている子」と考え、話をしていくなかで、理由や困り事、心細さなどいっしょに共有して、寄り添っていけるとよいと思います。本当はがんばってほしいのですが、「がんばって」と言うと負担に感じることがありますので、「自分のペースでやっていければいいよ」「自分ができることをできる場所で、できるときにやればいいよ。選んでいいよ」ということを伝えるようにします。私は、自分に味方してくれる大人の1人になれればよいと思っています。

手づくりいやしグッズのつくり方

触ると気持ちがほっとする、こんないやしグッズを子供たちのそばに置いておくのもよいですね。


〈材料〉ふうせん、片栗粉、モール、目のシール
〈つくり方〉
1 ふうせんの口にじょうごを差し入れ、片栗粉を適宜入れる。このとき、片栗粉をこぼさないように注意。
2 片栗粉を割りばしなどで押し込みながら、ふうせんの中の片栗粉がいっぱいになるようにする。
3 片栗粉がこぼれないようにふうせんの口を押さえながら、じょうごを抜き、ふうせんの口を伸ばし、しばる。
4 モールを巻いて、目のシールを適宜貼ってできあがり。

取材・文・構成・撮影/浅原孝子

逆境に克つ力の書影

『逆境に克つ力
~親ガチャを乗り越える哲学~』
(小学館)

著/宮口幸治 ・神島裕子
新書判 192ページ

逆境に苦しんでいる子への支援のヒントが満載

どの親のもとで生まれたかによって子どもの人生が左右される現実をカプセルトイにたとえた「親ガチャ」という言葉。 『ケーキの切れない非行少年たち』の著者と気鋭の哲学者が、全ての人が幸せを追求できる社会のあり方を考えながら、逆境を乗り越えるための心の持ち方、人生を切り開く力のつけ方を、哲学・精神医学・心理学の観点から具体的に提唱する。

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