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2019年度全国学力調査総括~学力向上の鍵はアクティブ・ラーニング

2019/11/5

文部科学省の「全国的な学力調査に関する専門家会議」の委員として、長年、学力調査の方向性に関する議論を推進してきた早稲田大学教職大学院の田中博之教授に、2019年度の調査について総括していただきました。

早稲田大学教職大学院教授・田中博之

田中博之(たなか・ひろゆき)●1960年北九州市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中に大阪大学人間科学部助手となり、大阪教育大学教授を経て、2009年4月より現職。2007年度から2018年度まで文部科学省「全国的な学力調査に関する専門家会議」の委員を務める。『アクティブ・ラーニングによる新全国学テ・正答力アップの法則』(学芸みらい社、2019年)など著書多数。

2019年度の問題の傾向

2019年度の全国学力・学習状況調査の問題を見てみますと、小学校の国語は、これまでは100字の記述式問題が1問だけでしたが、今回は字数が減ったものの、記述式問題が3問に増えました。普段から文章を書く活動をあまりしていない子どもにとっては、難しかったのではないかと思います。

それから、中学校の数学の問題を、とても難しいと感じた方も多かったかもしれません。 2019年度出題された統合的・発展的問題は、現在の教科書にはほとんど載っていませんし、私たち教育学者の目から見ても、これは高校レベルなのではないか、中学校の学習指導要領を超えているのではないか、とも思える内容でした。ただ、文部科学省は「深い学びとは何か」という説明の中で、「数学は統合的・発展的にまで考えられるようにしてください」と、3年ほど前から言ってきていたのです。

また、 2019度から中学校で英語が実施されましたが、「即興」と「技能統合」の問題は新学習指導要領に入った内容です。まだ実施されていないわけですから、この問題ができなくても仕方がないでしょう。

このように 2019度の全国学力・学習状況調査の問題は、どの教科も新学習指導要領の趣旨を非常に正確に問題に反映してはいるのですが、先取りしすぎて小学校でも中学校でも非常に高度な、難問に近いような問題が出題されていたことは事実です。しかも、国語と算数・数学はB問題を中心にA問題を一体化したわけですから、一層難しくなっています。

しかし、これは今後を占うといいますか、新学習指導要領の方向性を示しています。「このような問題ができるように準備をしてほしい」という文部科学省からのメッセージであり、新学習指導要領の趣旨を徹底する意味で出題されているのです。

今から12年前、2007年度の全国学力・学習状況調査で初めて国語と算数・数学のB問題を出題したとき、その正答率は2割を切っていました。そのため、国会で批判を受けるほどの騒ぎになりました。それから10年後、B問題の正答率は4割程度になりました。全国学力・学習状況調査は日本の教育の先取りをしているのです。現場の先生方は今回の結果をあまり悲観せずに、10年という長いスパンで対応を考えていくことが重要なのではないかと思います。

指導法をどう変えるか

では今後、どのように指導方法を変えるべきか、ということですが、算数・数学では、かつてのA問題のような基礎基本の問題については、必ずしも指導方法を変える必要はないと思います。

B問題のような活用問題は、発展問題や巻末の問題という形で、現在使われている各社の算数・数学の教科書にも入っています。ただ、指導書を見ると、配当時間数がゼロであり、取り組む時間がありませんでした。意欲的な学校、先生方の意識が高い地域などではそれでも取り組んでいたようですが、C層D層の子どもが多い学校ではあえてやってみようとは思わなかったのではないでしょうか。

しかし、新しい学習指導要領では、活用問題的な学力観が重視されます。もうすぐ新学習指導要領に基づいた新しい教科書ができあがりますが、活用問題への指導書の配当時間数が、少しは増えるのではないかと予想されます。もしも1時間でもあれば、学期に1問だけでもいいので、活用問題に取り組んでみてほしいと思います。

その際に注意してほしいことがあります。それは、活用問題を子どもに解かせるときに丸投げをしない、ということです。丸投げというのは、教員は机間指導で見て回ってアドバイスはするものの、基本的に「はい、これを解きなさい」と言って、子どもに自力で解かせるやり方です。

子どもたちが活用問題を解けない理由は二つあります。一つは論述する力が弱いことです。これは決定的な問題ですから、問題解決の過程や根拠を文章で書く練習をしなければなりません。もう一つは、どんな既習の知識や技能を使えば解けるのかを、正しく思い出せないことです。既に学習した知識や技能を活用せず、やみくもに解こうとしてもできませんから、「難しくてできない」と言い出すのです。

かといって、「教えすぎると、子どもの考える力を奪ってしまうのではないか」と懸念する先生方もいることでしょう。それは正論ですが、活用問題は難しいのです。丁寧な指導が必要です。

子ども時代に、自転車の乗り方を覚えたときのことを思い出してみてください。いきなり一人で乗ってごらん、と言われて乗ろうとしても、多くの子どもはすぐに転んでしまいます。ですが、補助輪をつけて1か月ほど練習し、外すと乗れるようになります。一人で乗れるようになると、とてもうれしいものです。あのような感覚を味わわせるには、勉強でも補助輪つきの期間が必要なのです。

活用問題を解くときも同じです。授業中に補助輪つきの時間を、5分でもいいのでとってほしいと思います。活用問題はテクニックを覚えればできるわけではありません。一種のひらめきが必要であり、低位層の子どもがひらめくためには、どの知識が使えそうなのか、どんな公式が使えそうなのかなど、問題を解くための手がかりになるような既有知識を想起させることが重要です。例えば、必要になる既習の計算の技をヒントカードにして「ヒントが欲しい」子どもに挙手させて配るなど、見通しレベルの既有知識の想起をしてほしいと思います。

アクティブ・ラーニングと学力

おそらく先生方の中には、「アクティブ・ラーニングは学力向上と関係ない」と考えている方もいらっしゃるでしょう。確かに基礎基本の問題だけならば、ドリルを練習すればいいので関係ないと思います。

しかし、2019年度の問題を見ると、小中のどの教科もアクティブ・ラーニングの場面が問題になっていることがわかります。

例えば、英語では1枚の写真を見ながら二人が話している場面で、「あなたは、私のお母さんや兄(弟)についてほかに何か質問はありませんか」と尋ねられ、その前のやり取りを踏まえて適切な質問をすることが求められています。このように日常生活の中で、主体的に対話している場面が、問題のシチュエーションになっています。

また、討論や提案、スピーチ、プレゼンテーションの場面が、そのまま出てくる問題もあります。

これらの問題は、過去の問題だけを繰り返し練習していれば解けるようになるわけではありません。アクティブ・ラーニングを普段から数多く経験し、その中で実際に資料を読む、自分の考えを書く、人の前で意見を発表する、他者の発言を聞く、複数の人と話し合う、といった経験をしておく必要があるのです。このことを管理職は先生方に必ず伝えてほしいと思います。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2019年11月号より

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