小学生女児にいたずらをした少年<前編> ~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド⑧~
虐待、貧困、毒親、不登校──様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。
Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。
小学生の女児のパンツに手を……
「野中さん、1年生の幹人という男子生徒のことで、ちょっと深刻な事態が起こったけ、すぐに来てくれんね?」
校長先生から連絡を受けた私は、すぐにA中学校に向かいました。
「うちの校区のB小学校に通っている小学2年生の女児の母親から連絡が入ったんですが、幹人が女児に性的いたずらをしていたようで……」
内容が内容だけに、校長先生の表情は憔悴しきっていました。
被害者の母親の話によると、突然、幹人が「真奈美ちゃんはいますか?」と自宅を訪ねてきたそうです。真奈美ちゃんが「会いたくない」と言うので、幹人にそう告げると、「わかりました」と帰っていった。不審に思った母親が「あの子は誰? 何かあったん?」と尋ねると、娘が「よう知らんけど、前にパンツに手を突っ込んで触られたことがある」と打ち明けた、と。
「今まで4回そういうことがあったようで、娘がいやがっている。同じ校区なので、あまり大ごとにして変な噂が立つのも困ります。きちんと調べてしかるべき対応をお願いします」と母親が訴えてきたといいます。
「すぐに幹人を呼び、事実を確認したところ、本人が素直に認めたので、彼の保護者に連絡をしました」
学校に来た幹人の母親に事情を説明するも、「はあ、そうなんですか」と、何やら他人事のような態度。「対応を間違えたら大変なことになる」と危機感を抱いた校長が私に連絡をしてきたのです。
性的いたずらをするようには見えない幼い中1
生徒指導室に入ると、沈痛な面持ちの教頭先生と担任、生徒指導教諭、ことの重大さに気づいていない幹人と母親が待機していました。
「教育委員会からも来てもらったけ、もう一度話をして」と教頭先生が言うと、“教育委員会” という言葉に怖気づいたのか、母親の態度が一変しました。
「罰を与えんとわからないけ、この子にはきつく言い聞かせます。ちゃんと責任を取らせます」と、いかにも良識ある母親ぶりを見せたかと思うと、突然逆ギレして、「学校でストレスがあったけ、こんなことをしたに違いない!」と学校に責任転嫁してきました。
一方、幹人はおびえることも悪ぶることもなく、私の問いかけにも冷静に受け答えしていました。中学1年生にしては、小学校中学年ぐらいにしか見えない体つきで、性的いたずらをするようには見えないほど、幼く見えました。
病院から受け入れを拒否された
現状としては、加害者である幹人を、被害者の近くから即刻引き離すことが最優先です。
事件を起こした精神的な背景を探るためにも、まずは医療機関に連れて行くことが必要だと思い、県内の児童・思春期専門外来のある病院にコンタクトを取りました。
この病院は、発達障害や精神的な要因による体の不調、情緒不安定な症状はもちろん、摂食障害やリストカット、薬物依存など重篤な症状の子供たちも受け入れています。この地域から少し離れていますが、私は担当した子供をこれまで何度か診察に連れて行ったことがあり、病院との関係性ができています。
今回も緊急的に即受け入れてもらえるだろうと考え、病院に事情を話しましたが、「性加害のケースは受け入れられない」と即答されてしまいました。
(この病院で断られたということは、医療機関に対応してもらうことは難しそうだな)
そう考えた私は、児童相談所に連絡をし、幹人の一時保護を依頼しました。
一時保護の措置を説明すると、本人は抵抗することなく受け入れました。
母親も「一時保護でも何でもしないと、本人はわからないですよね」と、さも被害者側のような口ぶりで承諾しました。
こうして、幹人の児童相談所での一時保護が決まったのです。
(後編に続く)
*子供の名前は仮名です。
取材・文/関原美和子 撮影/藤田修平 イラスト/芝野公二