子供を勉強嫌いにしないために最初に学ぶべきスキルとは?ー松丸亮吾さん【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】前編

関連タグ

謎解きクリエイターとしてテレビ、雑誌で大活躍中の松丸亮吾さん。斬新な学習法を取り入れた、ひらめき学習塾「リドラボ」を開校しました。リドラボで学ぶのは “ひらめき学習”。身に付けるのは、考える力の素地となる “地頭力じあたまりょく”。子供たちを勉強嫌いにせず、課題に対し“ひらめき”を頼りに楽しんで解決する力を育むという新しい教育の試みです。2023年4月のリドラボ開校イベントにあたり、塾長・松丸亮吾さんに、リドラボの目指す教育とは何かをお伺いしました。また、同時期に上梓された書籍『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』(小学館)についてもお話しいただきました。

松丸亮吾/まつまる・りょうご
東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表を務め、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている〝謎解き〞の仕掛け人。監修の書籍『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)は累計185万部以上に。現在は「考えることの楽しさをすべての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともにあらゆるメディアに謎解きを仕掛けている。

“地頭がいい” の正体とは? 
5つの問題解決能力で、勉強も人生も乗り越えられる

リドラボ開校イベントの様子

──松丸さんが塾長を務める「リドラボ」の開校イベントでは、子供たちが生き生きと協働して学んでいる姿が見られましたね。松丸さんの「頭を使って考えることが楽しくなれば、無敵になれる」という言葉も印象的でした。

松丸 ありがとうございます。このプロジェクト自体3年間 かけてようやく出来上がり、やっとこぎ着けた開校イベントだったのですが、リアルに保護者の方や子供たちとお会いできて、とても良かったと思います。

通常の学校や学習塾では、答えが合っていて「よっしゃ!」って仲間とハイタッチするみたいなこと、なかなかないじゃないですか。リドラボでは、子供たちがコミュニケーションをとりながら、チーム一丸となって何かに取り組むという部分を大切にしているので、そういった楽しんで取り組む姿が実際に見られたのは嬉しかったです。

僕は、実は元々勉強が苦手だった時期があって、その時に “ひらめきで問題が解ける” という体験に救われた過去がありまして……。突破口がなさそうに見えることや、行き詰まった時にも、「いや、気付いてないだけで、突破口は常にあるよ!」っていうメッセージを伝えていきたいと思っているんです。

2023年4月1日に、東京で実施されたリドラボ開校記念イベント。小学生と保護者37組を招待し先行体験授業が行われた。

──“ひらめき” がキーワードなんですね。

松丸 はい。ひらめき体験については、幼い頃にやっていた「ひらめき体験教室」などのおかげで刷り込まれました。ですから、例えば勉強で「数学に関して苦手分野があって、成績が伸びない」といった時にも、「どうやったらこれを伸ばすことができるんだろう?」と、ゲーム感覚で楽しめたんですね。

僕にとっては、勉強もゲームも同じです。「勝てる方法」を考えるのが好きなんですよね。負けた時に「じゃあ、次はどうすれば勝てるようになるかな?」って考える癖が自然とついていたんです。それは、勉強が苦手な子が得意になっていく上で、すごく有効な方法論だなと思っています。

勉強は、たくさんやればもちろん成績は伸びますけれど、効率が悪い勉強法もありますよね。「勝てる方法」を考えることが好きになっていれば、 闇雲にやるのではなく、「どうすれば勉強の成績を効率よく上げることができるか」を考えて勉強することができます。そうすると成績も伸びていきやすい。「要領がいい」っていう言葉がありますけれど、その要領の良さっていうのが、いわゆる”地頭力”なのではないかと思っています。

大事なのは、“地頭の良さ”は生まれた瞬間に身に付いている力ではなく、後天的に確実に伸ばすことができる力だということです。それをリドラボでは”地頭力”と呼んでいるんです。
 

ひらめき体験教室…立正大学教授・鹿嶋真弓氏が開発した学習プログラム。『ひらめき体験教室へようこそ』(図書文化社発行)。

──地頭は先天的なものではなく、後天的に伸ばせるということですね。その”地頭力”を育成するのに、謎解きが効果的なのですか?

リドラボ開校イベントの様子

松丸 いえ、必ずしも謎解きに限らないと思います。僕ら(リドラ株式会社)はもともと、謎解きを作るエンターテインメント集団でしたが、あらゆる問題を作っていくうちに、「問題によって様々な力を働かせることで、解くことができるんだ」っていう発見があったんです。

それらの種類を分類していったら、5つに集約できました。つまり、逆に言うと、この5つの力っていうのは、あらゆる問題提起に対して効率よく解決することができる力のことであり、「問題解決能力は5つのジャンルに分かれる」という発見につながりました。具体的には、以下の5つです。

1 多角的思考力
2 論理的思考力
3 発想力
4 試行錯誤力
5 解釈表現力

これらがたまたま謎解きでも使える、ということです。謎解きだけでなく、自分の人生設計にも、受験の成功にも、仕事にも、この5つの力は使えます。何かしらのハードルを乗り越えるための問題解決能力というわけです。

保護者からの熱烈な反響
教科学習だけではない教育を求めるニーズは高い

──松丸さんが、リドラボを設立した経緯、教育への興味関心が高まったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。

松丸 僕、純粋に子供が好きなんです。子供のために、いろんなことをしてあげたいっていう思いがありまして。子供向けのイベントを開いたりとか、子供とコミュニケーションできる機会を今もなるべく作っていますし、講演会のようなオファーはできるだけ引き受けて全国各地を回っています。

そうして全国を巡った中で、保護者の方からの声で一番多かったのが、「うちの子、勉強ができません。どうやったらできるようになりますか?」というものでした。「僕はこういう方法でやりましたよ」って言うと、「やっぱり松丸くんは、頭の出来が違うんですね。うちの子は無理だわ」とか「うちの子には、ちょっとできないので」と言われて、それを聞くたびに疑問に感じていたんです。

僕は生まれた時から勉強ができたわけじゃないですし、 勉強ができなかった時期もあって……。それを乗り越えたきっかけは、頭を使うことを楽しめるようになったことだったんです。具体的には僕の場合は、「IQサプリ」でしたが、要はきっかけ次第だと思うんです。

今の子供たちにとっては、それは「ナゾトレ」かもしれないし、「リドラボ」かもしれないし、そういうきっかけを生み出すものに、明確な教育的価値を付けたいな、と。こうした “頭を使うことが楽しめる塾”は、今のところあまり開発されていないんですよね。

IQサプリ…バラエティー番組「脳内エステ IQサプリ」(フジテレビ)

やっぱり日本社会全体が、教科学習に偏っている側面がありますので。それが、勉強嫌いが増えている原因かもしれないなと思っています。

つまり、“思考力を伸ばす前に「勉強」に立ち向かう” のって、ゲームで “レベル上げする前にラスボスに挑む” みたいな難しさがあると思うんです。でも、「頭を使うと楽しい」って思えたら、難しいレベル上げも楽しめて、どんどん子供が勝手に成長するのではないでしょうか。

その装置を先に作らないと、勉強嫌いの子は増えてしまう。それが、おそらく頭の出来・不出来と言われる正体になっているのではないかと思います。

だから、思考力を純粋に伸ばすことができる「地頭に特化したカリキュラム」は、社会的にも必要だし、謎解きを作ってきた僕であれば、それを開発できるかもしれないと思ったんです。

4年ほど前に、そんな話を東京大学准教授の藤本徹博士としたことがあって、それがどんどん実現していって、気が付いたら「リドラボ」というサービスになっていたという経緯です。

東京大学大学院准教授・藤本徹さんと松丸さん
東京大学大学院准教授・藤本徹さんと松丸さん

──反響はどうでしたか?

松丸 想像以上に大きかったです。「最初は謎解き好きな人が集まって来てくれるのかな?」くらいに思っていたのですが、結果は全然違っていて、 謎解きという文脈ではなく、詰め込み型の教育に疑問を感じている多くの保護者が反応してくださいました。

「うちの子は、教科学習だけしていって、社会でやっていけるんだろうか?」とか、「受験向けの勉強をすることだけが、果たして子供にとって幸せなことなんだろうか?」と悩まれている方がこんなに多かったんだと気付かされました。 まだスタートしたばかりですが、こうした声はもっともっと潜在的にあるのでは?まだまだこの輪は広がっていくのでは?という感触を得ています。

教科学習で取りこぼされがちな「主体性」と「協調性」
この2つの力を特に育みたい

──学校教育で「教科学習が多すぎる」との声もある中、さらに教科学習が増えている現状もあります。現在の日本の学校教育についてどうお考えですか?

松丸 前提として、僕は教科学習に関しては必要だと思っています。受験に関しても、勉強が軸になっていることは、悪くないことだとは思っています。

勉強って、自分が知らなかったことや、そもそも関心がなかったこともたくさん覚えなきゃいけないじゃないですか。例えば、数学が好きじゃない子からすると、三角関数って公式が突然与えられて、「一体これ、何に使うんだろう?」とか思ったりしますよね。だけど、その苦手意識のために「楽しくない、やりたくない」と全部放棄していったら、多分社会人としてはうまくいかないと思うんです。社会に出ると、嫌なこともたくさん与えられるし、やったことのないプロジェクトにも参画させられます。そんな中で、困難やハードルを、できるだけ楽しんで乗り越えられる力が育めればいいなと僕は思うんです。やりたくないこと、難しいこと、難解なことをたくさん押し付けられるのが勉強だけど、 それらを通して克服する力が付いていくという側面がある。そういう力を育むことも、ある程度は必要ではないかと思っています。

ただ同時に、教科学習だけでは教えてもらえない部分もあるなと思っていて、それが「表現力、協調性、主体性」の3つかなと思います。特に、「協調性」「主体性」については、今の学校教育でうまく取り組めていない感覚があります。

──確かにそうですね。

松丸 これら3つは、社会に出てからもとても重要な力です。特に後ろの2つの力…「協調性」「主体性」については、学校とは別に学べる場を立ち上げる必要があると考えました。僕からすると、それを叶えるのが、まさしく「謎解き」だったんです。 子供たちって、 教科書の問題って言われるとやりたくないと思うけど、「謎解き」って言われた瞬間に、主体的に集まってきてくれます。

リドラボ開校イベントの様子

──学校では主体性を意識した授業は、意図的に取り組んでいかないとできない、難しいものです。そこに特化した教育の場があることは、すごくいいですね。

松丸 主体性ということで言うと、リドラボでは解法を教えないんです。 全てのプロジェクトに関して、子供たちが自分で気付くまで繰り返しやってもらう。ただ、ヒントは出します。

分からなかったら先生が教えてくれたりもしますけど、解法を教わってそれを繰り返すのではなくて、その子が自分で解法を突き止めるまで付き合うっていうのがコンセプトの1つにあります。

学校の勉強って、“先生に教えられて繰り返すから解ける” という仕組みですよね。なので、1からの自分の力ではなくて、あくまでも教えてもらったからできるよねっていう部分があります。でも、リドラボに関しては、自分で気付いてもらうことを一番大事にしています。

1から、自分の力により、目標をクリアすることができること。それによって「自分って、できるかも」「自分って、もっと頑張れば、 頭を使って何かひらめくことができるかも」って思えることをすごく重視しています。それが主体性につながると思います。

(後編に続く)
後編では、さらに学校教育などの様々な問題に話題が広がります!
▶︎テストでバツになるのは悪いことではない!? ポジティブに捉えよう!ー松丸亮吾さん【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】後編

<参考URL> 
地頭力を育てるひらめき学習塾 リドラボ edu.riddler.co.jp/ridlabo/


『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』

著/松丸亮吾 小学館刊

謎解きクリエイター・松丸亮吾さんと教育界の10人のカリスマたちとの対談集。

【対談者】高濱正伸さん(花まる学習会 代表)/宝槻泰伸さん(探究学舎 代表)/藤本徹さん(ゲーム学習論研究者)/石戸奈々子さん(CANVAS代表)/齋藤孝さん(教育学者)/中島さち子さん(数学者・ジャズピアニスト)/工藤勇一さん(横浜創英中学・高等学校校長)/中室牧子さん(教育経済学者)/小宮山利恵子さん(スタディサプリ教育AI研究所所長)/篠原菊紀さん(脳科学者)
これからの社会で生きるための子育てについて、リアルな教育現場や世界の実証データをもとにした説得力ある教育論が満載です。


取材/武村愛雛・並木未菜・千葉菜穂美(以上、EDUPEDIA編集部)
写真/五十嵐美弥(小学館)
文・構成/田口まさ美

●これと関連したインタビュー記事が「EDUPEDIA」でも配信されます。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました