24時間をデザインする力【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第24回(最終回)】

連載
妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」
特集
小学校教員の「学校における働き方改革」特集!

学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人一人のちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。

執筆/教育研究家・一般社団法人ライフ&ワーク代表理事・妹尾昌俊

半径3mから

「国がもっと予算を付けてくれないと、学校でできることには限界がある」
「学校で既に見直せるものはやっている。絞りきった雑巾をさらに絞れと言うのか」

学校の働き方改革をめぐって、校長や教職員の反応、反発のなかには、上記のようなものも少なくない。読者の皆さんもいかがだろうか。賛同する、共感するところもあるかと思う。

確かに、文部科学省や財務省の役割は大事だ。教職員の増員を含めて、もっと教育にカネをかけないといけないと思う。

それに、文部科学省は学校にスクラップ&ビルドを求めているのに、自身の施策はビルド&ビルドである。学習指導要領がその典型であるし、そのうえ、キャリアパスポートだ、観点別評価だなどと、学校に負担を増やす一方に見える。GIGAスクールで一人一台コンピュータを整備するのはいいが、メンテナンスや更新で学校側、とりわけ情報担当教員の負担が増大している例は多い。

国に対する批判、政策提案は声を大にしていきたいと、私も思う。だが、同時に思うのは、他人のせいや愚痴を言うだけではダメだろう、ということだ。

何より、今日の学校の過酷な状況は、教職員にとっては自分事である。自分と同僚の命、健康を守るためにも、またよりよい教育活動にしていくためにも、教職員に余力を取り戻す必要がある。

この連載も、今回で最終回を迎える。〈半径3mからの「働き方改革」〉というタイトルにしたのは、「学校のごく身近なところでできることは、まだまだ多いのではないか、もっとこんなこともやってみては」という思いからだ。理想の24時間を描くワークや、運動会や部活動はなんのためという問いかけ、採点は聖域か、刃を研ぐなど、かなりいろいろなことを取り上げてきた。 「学校にできることは、たかがしれている」と思う読者(その知人も含めて)は、過去回を参照いただけると、多少考えが変わるかもしれない。あるいは、実践している現場も増えたから、見に行ってほしい。

24時間をデザインする力

熊本県宇城市教育長をされている平岡和徳さんは、高校教諭時代、サッカー部を全国大会の常連校に育て、約50人のプロ選手も輩出した名将として知られる。平岡さんは過去にインタビューでこう答えている。

(引用者注:サッカー部の指導で大切にしてきたのは)24時間をデザインする力を生徒に育むことです。まず、部活動の練習時間は1日100分間とし、居残り練習を禁止しました。限られた時間内で何をすべきか生徒が自ら考え、行動できるようにすることがねらいです。さらに、食事や睡眠のための時間や、学習したり家族と過ごしたりする時間を確保する目的もありました。(中略) そうした練習を積み重ねていけば、普段の生活でも自分なりの目標を持ち、達成に向けて時間の使い方を考え、諦めずに努力するようになります。それは、人生を築く力そのものです。そうした力を本市の子どもたちにも育みたいという思いが、様々な施策の根幹にあります。

「ベネッセVIEW21教育委員会版2019年vol.3」

当たり前だが、時間は有限。これをどうデザインするかが試されている。

私自身は、手帳を使って、その日その日の最重要目標(達成したいことや確保したいこと)を書いている。例えば、「○月△日、総合教育技術の原稿をアップする」といったことだ。そのうえで、何時から何時まで、どんな活動をしたか、簡単なメモをとっている。そして、ものの1分程度のことだが、翌日には前日の最重要目標がうまく進んだか、ついついゲームなど時間泥棒に占領されなかったかなどを振り返る。私にとっての半径3mからの実践の一つだ。

さて、ITはどんどん進化しているが、人々は、情報の渦に巻き込まれて、ますますせわしなくなっている。いまの子どもたちが生きていく未来も、おそらく、そのあたりはもっと大変になっているかもしれない。

現在読んでいる本にも、「今は危険な時代だ。これほど多くの人々が、これほど大量の知識へのアクセスをもち、それなのに何も学ぼうとしない時代はかつてなかった」とあり、ドキッとした(※)。

※トム・ニコルズ著・高里ひろ訳『専門知は、もういらないのか』(みすず書房)

こうなると、教育に携わるわたしたちが、文部科学省が悪いとか他人のせいばかりにせず、率先して、時間をデザインする力を示し、学び続ける姿勢を子どもたちにも見せていきたいものだ。

ただし、この連載で強調してきたように、学校の働き方改革は、タイムマネジメントのちょっとしたテクニックだけでは不十分である。教員個人の意識や仕事能率の問題とだけ捉えるのではなく、チーム、組織の問題として対処していくことが肝要だ。ときには大胆に、業務や教育活動を見直していくことが必須となる。

日本中の先生方が、ご自身の24時間と学校の業務をデザインしなおして、ハッピーな日々を増やしてほしい。私も自分のできることをこれからも続けていく。

『総合教育技術』2020年3月号に加筆

※本連載は今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。

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