リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #34 なまはげ|鈴木優太 先生(宮城県公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブにしつつ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は鈴木優太先生のご執筆でお届けします。
執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
5歳になった息子が「なまはげ」好きです。熱烈に好きなのです。
コロナ禍で遠出を控えていたのですが、息子のリクエストもあって、彼の生まれて初めての県外家族旅行先には、秋田県男鹿市を選びました。
男鹿市では、息子を虜にした「なまはげ面」を作る面彫師(めんほりし)さんの元を訪れました。 その面彫師さんは、
「触ってみるかい?」
と作業する手を止め、興味深く見つめる息子に声をかけてくれたのです。
今回の実践紹介についても快くお許しをくださり、私もなまはげ面に惚れ込んでいます。
2 授業の実際
対象:小学3年・4年
主題名:なまはげ
内容項目:C-16 伝統と文化の尊重,国や郷土を愛する態度
以下の写真を提示します。
発問1 ここはどんな場所だと思いますか?
●職人さんのお家かな。
●お面を作れるお店じゃない?
●白い紙が神社みたいだけど。
●外が森のような感じだから山の中だ。
●なまはげみたいなお面が掛けられているから秋田県だよ。
子供たちが写真から想像したことを交流したところで、次のような説明をします。
「ここは、お家でもお店でも、神社でもありません。この写真は、秋田県男鹿市にある『なまはげ館』で撮影したものです。」
ほとんどの子供たちが、なまはげをテレビなどで「見たことがある!」と興味津々に反応します。
なまはげ行事は、男鹿半島の各集落で大晦日の夜に行われています。
「悪ぃ子はいねぇがー!」と子供を脅す印象が強いなまはげですが、訪れた家々の幸せを願う守り神です。記録にも残っていないはるか昔から愛されてきました。
実は、面の顔や形は集落によって全く違います。いわゆる私たちがイメージする鬼のようないかめしい形相のなまはげ面は「石川面」と言います。
これは、石川泰行さん(故人)という職人の手によって広まったものです。
そして現在、このなまはげ面を作る面彫師は、2代目にあたる石川千秋(せんしゅう)さん「ただ一人」だけなのです(2023年1月時点)。そう説明すると、
「えぇええ!」「そうだったの!」と子供たちは驚きます。
石川さんの作るお面がなければ、なまはげ行事がこんなにも世の中に知られることはありませんでした。集落ごとのなまはげ面は大晦日以外は大切にしまわれ、地域の外に出ることはなかったからです。
国の重要無形民俗文化財にも指定されたなまはげ行事なのですが、近年は中止する集落も多いのが現状です。少子高齢化による人口減少、生活環境の変化、コロナ禍の影響などのためです。
石川千秋さんは、自宅や工房だけでなく、多くの観光客が訪れる観光施設「なまはげ館」でなまはげ面作りを公開し続けています。
発問2 石川千秋さんが作り続けるなまはげ面は、だれに、どんな心を届けていると思いますか?
1 観光で訪れた人に、幸せを届けている。
2 なまはげを知った人に、感動を届けている。
3 男鹿で暮らす人たちに、勇気を届けている。
4 なまはげが訪れた家の人たちに、家族の絆を届けている。
5 なまはげ役の人に、地域を大切にする心を届けている。
6 子供たちに、しつけの重要さを届けている。
7 私たちに、日本の宝物を大事にする気持ちを届けている。
8 日本全国の人たちに、「頑張ろう!」と元気を届けている。
9 全世界の人々に無病息災の願いを届けている。
10 天国の石川泰行さんにも、伝統を守る心が届いていると思う。
児童の考えを一つか二つ、モデルとして取り上げます。
児童の実態によっては、「誰に」と「どんな心」を分けて考えた方がスムーズな場合もあるでしょう。
教師が板書する際、そして子供がノートやワークシートへの記入を箇条書きする際にも、「番号を付ける」(ナンバリングする)ことをポイントにしています。「ナンバリングメモ」というテクニックです。
「まだまだありそうだね。」と促し、ペアやグループで交流しながら番号を増やします。「いくつ書けましたか?」と「数」を確認します。
「量」を求めることで、「質」の高いものに辿り着く確率が上がります。
「みんなでたくさん考えられた!」という満足感も大きい学び方です。多様な考えを出し尽くした中から、自分なりの「今日のベスト1」を選んだり、まとめたりすることも有効です。
「男鹿のナマハゲ」は2018年に、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。
世界中のみんなの宝物だと認められたのです。世界からも注目を集める石川さんのなまはげ面作りの様子は、動画で見ることもできます。
参照:YouTube『「愛しきものたち」第24回 なまはげ面彫師 石川千秋』」(株式会社ナカニシ)
後継者不足が深刻な伝統工芸ですが、2021年に石川さんの後継者になりたいという人が現れ、現在修行を積んでいるそうです。そう子供たちに伝えると、
「やったぁああ!」「すごい!」と拍手が湧き起こりました。
3 どこにどのようにつなげるか
子供たちにとって、町や市や県の伝統や文化、後継者不足や行事の衰退などの問題は、どこか縁遠いものになりがちです。
そこで、「なまはげ面」です。
なまはげは、不思議と子供たちを惹きつけます。子供たちの心に強烈な印象として残るなまはげの衝撃を、地元の伝統工芸や行事に関わる授業に結び付けましょう。
なまはげの授業と「同じフォーマット」で展開すれば、教師も子供も迷いません。
自主教材開発のはじめの一歩として、以下のような流れで「一枚画像道徳」の授業づくりにチャレンジしてみてください。
「実は、私たちの町にも、こんな場所があります。」
そう伝えて1枚の写真を提示します。
発問1「ここはどんな場所だと思いますか?」
子供たちの発言を口頭で共有します。
発問2「〇〇〇〇は、誰に、どんな心を届けていると思いますか?」
ペアやグループでの交流を通して、ノートやワークシートに「ナンバリングメモ」で多様な考えを書き足していきます。自分なりの「今日のベスト1」を選んだり、まとめたりします。
また、3年生の社会科では「地域のうつりかわり」、4年生の社会科では「県内の特色ある産業や文化」について学ぶ単元があります。
全国的に一般性のある教材と地域に密着した具体的な教材との「往還」が「深い学び」を促すと私は考えます。
インパクトの大きいなまはげ面を入口に、子供たちが「自分事」として我が国の伝統や文化を捉えていける「深い学び」が展開されることを願っています。
4 おわりに
家族旅行の後日談です。
さて、男鹿で石川千秋さんが彫った本物のなまはげ面を手に入れた息子。
自宅に飾ろうとするも、本物のなまはげ面のあまりの迫力に、「怖い!」と言って箱にしまっている時間のほうが長いです(笑)。成長した息子と共に、また男鹿を訪れる日が楽しみです。
【参考資料】
日本海域文化研究所/編、2004年、『ナマハゲーその面と習俗ー』、日本海域文化研究所・秋田文化出版
小賀野実、2019年、『なまはげ 秋田・男鹿のくらしを守る神の行事』、ポプラ社
タカハシコウキ、2022年、「なまはげ面彫師・石川千秋さんのこれからとは?歴史や想い、変化について伺いました」オマツリ ジャパン
今後の連載予定
第35回 肥後漱一郎(埼玉県・戸田市立笹目東小学校)
第36回 吉川裕子(京都府・立命館小学校)
第37回 永井健太(大阪府・大阪市立明治小学校)
第38回 櫻井里佳(北海道・旭川市立知新小学校)
第39回 有我良介(北海道・函館市立桔梗小学校)
第40回 山崎克洋(神奈川県・小田原市立足柄小学校)
第41回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
第33回 五輪で戦うためには…