リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #21 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~|中島竜之先生(福島県公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第21回は中島竜之先生のご執筆でお届けします。
執筆/福島県西郷村立熊倉小学校教諭・中島竜之
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
はじめに
福島県西郷村(にしごうむら)で小学校の教員をしております、中島竜之と申します。
この度、リレー連載についてお声をかけていただき、全国の先生方が一枚の画像から展開される子供とのやり取りに、わくわくしておりました。
さて、わたしの勤務している西郷村は、日本では珍しく人口が2万人を越え、なお人口増加が続いている村です。最近のニュースでは、TOKIOが新プロジェクトに選んだ村として話題になりました。
豊かな自然と、都会へのアクセスのしやすさが特徴です。
また、本校では4年生で親子行事の森林体験活動、5年生で4泊5日の宿泊体験学習「セカンドスクール」、6年生で村立の小学校が合同で行う野外オリエンテーリングと、自然に触れ合う機会がたっぷりあります。
それに対して、好きなことを尋ねると「ゲーム!」と声を揃えるクラスの子供たち…。自然の中で遊ぶことの楽しさや自然環境に恵まれた地域に住んでいることのよさに気付いてほしいと思ったことがきっかけで、以下の写真を用意しました。
一枚の写真を使い、4年、5年、6年とそれぞれにねらいをもって実践を行いました。
他教科とのつながりにも触れながら三つの実践を紹介していきます。
「一枚画像道徳」の実践例①
対象:知的障害特別支援学級4年 3名
主題名:瀞(とろ)〜自然がつくった遊び場〜
内容項目:D-19 自然愛護
道徳の教科書※1を読んだ後、「自然って何だろう」という児童の問いに対して「人の手が加えられていない、ありのままの環境である」ということを確認してから、日本の素敵な自然の景色を探しました。
そして、授業のラスト10分。お互いの調べた写真を見合い、感想を述べ合ったところで、用意した写真を提示し発問しました。
発問1 「どこの写真だと思う?」
●ブランコ!? 川の!
●ブランコをぶら下げているところが木になっている!
●あー、これ知ってる、ぼく! 3年生の頃、行きました! 福島県内ですよね?
地元ということもあり、実際に家族で行ったことがあるという児童がいましたが、村内という認識はなかったようです。ここで以下の説明をします。
●学校から20分ほどの西郷村内であること
●県内だけでなく、東京や栃木、関東圏からもたくさんの人が来ているということ
●夏休みはいつも駐車場がいっぱいになるほどにぎわっていたこと
子供たちは関東などの地名にはピンとこない様子でしたが、いろいろなところから人が集まって、にぎわっていることは伝わったようでした。
そこで次の発問をしました。
発問2 「なぜ、こんなににぎわうんだろう?」
●ブランコが人気だから
●ブランコは1台しかないよ?
●川がきれいだから
●木がたくさんあるから
ここで、「西郷瀞」の紹介動画※2を見せ、写真の場所が瀞(とろ)という自然がつくった珍しい環境であることを説明しました。普段感じることのできない静けさや、メダカやオタマジャクシなど、自然とたっぷり触れ合える魅力について、わたしの実体験を交えながら伝えました。
子供たちからは、
●すごい、今すぐ行きたい!
●そこに行ってみないと分からない!
●遊びたい!
という感想が挙がり、どうやって遊ぼうかという話で盛り上がりました。
この授業を通して、普段は当たり前に存在する自然が、人間の手ではつくり出せない、偉大なものであることについて考える機会となったようです。
「一枚画像道徳」の実践例②
対象:知的障害特別支援学級5年 2名
主題名:自然たっぷりセカンドスクール
内容項目:D-20 自然愛護
本校の5年生は11月初旬になると、西郷村内の自然の家に4泊5日する行事「セカンドスクール」があります。学年で寝泊りの仕方や準備物の説明を受け、学級に戻ってきた直後に授業を行いました。
まず、写真を提示し、発問しました。
発問1 「どこの写真だと思いますか?」
●わかんない…。川の上流?
●あ、ぼく行ったことある!
●ブランコに乗りたい!
●高い木を使って作ってある。すごい! 遊びたい。
●でもこのブランコ、大丈夫? 危なくない?
この時期の5年生は、理科で「川のはたらき」の学習をしていることもあり、上流か下流かを問う問題だと受け取ったようです。もう一人の児童はこの夏休みに行ったとのことでした。
「西郷瀞」の紹介動画※2を見せた後で、以下の説明をしました。
●学校から20分ほどの場所で、宿泊体験活動「セカンドスクール」が行われる自然の家の近くであること
●県内だけでなく、東京や栃木、関東圏からもたくさんの人が来ているということ
そこで次の発問をしました。
発問2 「この場所で遊ぶとき、どんなことに気を付けたいですか?」
●虫とか、魚とかが結構いるよ。
●川で泳ぎたい。きれいな水だ。
●汚さないようにしたい。
写真の場所が瀞(とろ)という自然がつくった珍しい環境であることを説明すると、改めて驚いた様子でした。
また、訪れた人たちがこの場所を大切にしていることや、自然のよさについて、ここに行ったことのある児童と私の体験とを共有しました。
授業後の感想では、
●また行きたいから、自然を大切にしていきたい。
●ここに行ったときには、ごみとかを落とさないようにしたい。
といったものが挙がりました。身近にある自然に気付き、それを大切にしていこうという気持ちが高まったことを感じます。
他教科とのつながりとして、4泊5日のスケジュールの中に、理科「川のはたらき」の学習と関連して沢歩きがあります。
授業後の休み時間に「セカンドスクールが楽しみになった」と話していた様子からも、自然に親しむ心構えができたのではないかと感じています。
「一枚画像道徳」の実践例③
対象:知的障害特別支援学級6年 1名
主題名:マナーからルールへ、そしてマナーへ
内容項目:C-12 公徳心
道徳の教科書※1の教材「マナーからルールへ、そしてマナーへ」を読みました。
いっこうになくならないたばこのポイ捨てに過料を設けたら、ポイ捨てが激減したという話です。
「罰則でみんなを縛ることは望ましい姿ではないということがわかる」というねらいがありましたが、この段階ではなかなか理解しきれない様子でした。
そこで、「ルールがなくてもうまくいっている例があるよ。」と伝え、例の写真を提示しました。
発問1 「どこだと思いますか?」
●公園かな。でも、川だな。
●水が飲めそうなくらいきれい。
●福島県? 自然の家?
この場所が西郷村内であることを伝えると少し驚いた様子でした。
地図アプリを使って学校から西郷瀞までの道路を巡り、西郷村の動画※2でその場所を確認しました。
児童は改めて写真のブランコを拡大して、「ずいぶん錆びたブランコだな…。」とつぶやきました。注目してほしいブランコに焦点が当たったところで、以下のことを伝えました。
●県内外からたくさんの人が遊びに来て、バーベキューや川遊びでにぎわっていること。
●ある日、ロープが一本だけ切れて乗れなくなっていたが、次の週に訪れたときにブランコが直っていたこと。
そして、次の発問をしました。
発問2 「このブランコは、誰が誰のために作ったと思いますか?」
●地元の人が作ったと思う。
●みんなに遊んでもらおうとして、作ったと思う。
「西郷瀞」には、県内外から多くの人が訪れる場所にもかかわらず、ごみがほとんど落ちていないことや、使う人同士でブランコを譲り合って使っていた様子を伝えました。改めて児童に感想を聞くと、以下のように答えました。
●ごみを捨てる人が反省するだけでなく、これまでポイ捨てしてこなかった人たちが、これからもごみを捨てないことを続けているのが大切だと思った。
●これから、人任せにしないでみんなできれいになるようにするという気持ちを続けていく。
教科書のたばこの話と西郷瀞が結び付き、訪れた人たち全員の「この場所を大切にしよう」という気持ちが行動につながることに気付けたようです。
おわりに
1枚の画像から、4年生と5年生のD「自然愛護」、6年生のC「公徳心」につながる授業を展開することができました。
しかし、本当の意味でこの授業が生きるのは、実際にこの写真の場所や似た場所を訪れたときだと思っています。
素晴らしい自然環境の画像はインターネットを検索すればたくさん出てきますが、子供たちにとって身近で訪れやすい場所にこだわりたくて、この写真を用意しました。
特別支援学級の子供たちと少人数でじっくりと話し合う中で、児童に身近な場所がいかに魅力的な教材になるかを実感することができました。
これからも児童にとってよりよい学びについて研究を続けていきたいです。
バトンをつないでいるみなさんと一緒に道徳について考えることができたこと、そしてこのような機会をいただいた藤原先生に感謝して、次回の曽根義人さんにバトンをつなぎます。
<参考サイト>
※1 令和2年度版『小学道徳 ゆたかな心』(4~6年) 光文書院
※2 清流と岩山の景勝地「西郷瀞」
今後の連載予定
第22回 曽根義人(宮城県・仙台市立愛子小学校)
第23回 池田虹香(北海道・長万部町立長万部小学校)
第24回 大野睦仁(北海道・札幌市立平岡中央小学校)
第25回 千葉孝司(北海道・公立中学校教諭)
第26回 中條佳記(京都府・京都市立百々小学校)
第27回 三浦真司(青森県・八戸市立根城小学校)
第28回 樋口綾香(大阪府・池田市立神田小学校)
第29回 高橋朋彦(千葉県・袖ケ浦市立平岡小学校)
第30回 駒井康弘(青森県・弘前市立堀越小学校)
第31回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前