学校崩壊の発想【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #9】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第9回は、<学校崩壊の発想>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
低すぎる適応感
前回取り上げさせていただいた「侍校長」A先生が赴任した学校をB小学校とします。B小学校は、小学校としてポピュラーなサイズです。別室登校や保護者の信頼が得られていないことや学級崩壊などの問題もありましたが、私がもっとも注目したのは、子どもたちの適応感の低さです。B小学校では、楽しい学校生活を送るためのアンケートQ-Uを実施し、子どもたちの適応感を定期的に測定していました。
Q-Uは、河村茂雄氏が、いじめや不登校などの早期発見や学級経営の状態を測定するために開発し、全国の多くの学校で実施されています。読者の皆さんの学校でも実施しているところもあるのではないでしょうか。Q-Uは、2種類の質問紙から構成されていますが、その一つに「学級生活満足度」という尺度があります。これは、子ども一人一人の学級への適応感の度合いを見ることができます。その得点によって四つのグループに分かれます。適応感の高いグループを学級生活満足群、侵害行為を受けている可能性や人間関係上のトラブルを抱えている可能性の高いグループを侵害行為認知群、いじめなどのトラブルの可能性は低いが、学級内で認められることが少なく自主的な活動が少なくなりがちなグループを非承認群、そして、学級に居場所が見いだせず不適応になっている可能性が高いグループが学級生活不満足群です※1。
学級生活不満足群の割合の全国平均は、20~30%くらいです。しかし、B小学校では40~50%いました。約半数の子どもたちが、不適応のリスクを示していたのです。学校支援において、多くのQ -Uを見てきましたが、学校全体の平均がこれほど高い学校は、他に見たことがありませんでした。
徒党を組む子どもたち
B小学校に招聘されたのは、初夏の晴れた日でした。ちょうど、3時間目が始まる直前の休憩時間でした。A校長から学校の現状をお聞きしているうちに、3時間目が始まる時刻になりました。少しして、男性の職員がグラウンドにいる子どもたちに呼びかける声が聞こえました。
「お~い、授業始まっているよ~」
グラウンドの砂場にいたのは、5年生の男子5、6名でした。
A校長が、彼らを見ながら、
「実は、あの子たちです」
と、彼らについて話を始めました。
彼らの学級は、4年生のときに、担任による授業が成り立たなくなりました。いわゆる、学級崩壊の状態です。いつの間にか、一人の男子児童に、数人の男子が付き従うようになり、私的グループを形成しました。グループは、教師の言うことは無視しても、彼の言うことには、絶対服従のような行動を取り始めました。そのうち、彼の許可がないと、トイレも行かないような子も出始めました。乱暴な言葉で乱暴な行動をするので、女子も怖がり、極力、彼及び彼のグループと接しないようにしているうちに、一人の女子が「学校に行きたくない」と言い出し、保健室登校を始めました。
そんな話をグラウンドにいる彼らを見ながら聞いていました。やがて、彼が校舎に向かって歩き出すと、リーダーが飛び立つと一斉に飛び立つ水鳥のように、グループが歩みを始めました。グラウンドに面した校長室の窓の下を彼らが歩いていくときに、彼と目が合いました。私がニッコリ笑うと、
「は? 誰……?」
と吐き捨てるように言い、子分を引き連れるようにして去っていきました。
「今は、どうなっているんですか?」
とたずねると、
「担任は、よくがんばっていると思います。しかし、苦戦していますね」
との答えでした。担任が代わり、昨年よりは、少し落ち着いたようですが、相変わらず、彼らは徒党を組み、また、保健室登校の女子はそのままでした。
叫び声と怒鳴り声
A校長に案内されて各学級の様子を見にいきました。階段を上がろうとすると、「ギャー!」という子どもの泣き叫ぶ声と、何事かを怒鳴っている教師の声が聞こえました。教師の怒鳴り声と子どもの叫び声の因果関係はわかりませんが、通常の学校生活では、あまり耳にしない音であったことは間違いありません。教室に入ると、黒板の脇でしゃがみ込んで泣いている子、立ち歩いている子、また、手いたずらをしている子、そして、隣とおしゃべりしている子、騒然とした中で授業を受ける子どもたちの姿が目に飛び込んできました。もちろん、ノートを開き、課題に取り組んでいる子もいました。しかし、一見して、学級の機能が著しく低下していることはわかりました。
このような状態のクラスもありながら、一方で、まるでそこだけ別世界のようなあたたかで楽しげな授業が繰り広げられている教室もありましたが、あまりにもその割合が少ないのです。子どもたちの適応感の低さを納得させるには、十分な光景を目に収めて校長室に帰ってきました。
皆さんが、このような状態の学校のマネジメントをする立場だったら、何から取り組むでしょうか。似たような状態の学校があることを知っています。そして、その学校の中には、こうした状態にもかかわらず、ひたすら「授業改善のみ」をやっている学校があることも知っています。「学校レベルで起こっている混乱」を、「担任一人でなんとかしようとしている」のです。
学級崩壊が起こったときに、それを担任個人の責任にしていること、それがすなわち、学校崩壊の始まりであることを認識しておくべきでしょう。
※1 河村茂雄・藤村一夫・粕谷貴志・武蔵由佳・NPO 日本教育カウンセラー協会『Q-Uによる学級経営スーパーバイズ・ガイド 小学校編』(図書文化社、2004)
※ 本文におけるQ-Uの解釈は、筆者のものです。詳しくは、関連の書籍をご覧ください。
『総合教育技術』2017年12月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。