小学校理科の評価の観点②【根拠のある予想をする】とは? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#11
「進め!理科ロード」では、小学校理科に関する基本的な考え方について、発信していきます。前回から具体的な方法や考え方についてもUPしはじめました。しばらくは、「評価」について連載していきます。
理科の評価の観点で一番理解しにくいのは、「思考・判断・表現」の観点です。平成29年の学習指導要領の小学校理科では、「思考・判断・表現」の観点については「問題解決の力」が身についているかどうかで評価をすることになりました。ここでの「問題解決の力」は、「問題を見いだす」「根拠ある予想や仮説を発想する」「解決の方法を発想する」「より妥当な考えをつくりだす」の4つの力を指しています。今回は、この4つの力の2つめである「根拠ある予想をする」力の評価について確認していきます。「根拠ある予想」は、主に4年の「思考・判断・表現」の観点として評価することになっています。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
前回※は、思考力の評価の1つである「問題を見いだす」力の評価について確認しましたが、今回は、この4つの力の2つめである「根拠ある予想をする」力の評価について確認していきましょう。「根拠ある予想」は、主に4年の「思考・判断・表現」の観点として評価することになっています。
※前回記事 小学校理科の評価の観点「問題を見いだす力」とは? はこちら
1.理科の「予想できたか」を評価する際は、「根拠が必要」ということを知っていますか?
理科の授業では、下の図のような「問題解決の過程」に沿って授業をすすめていることは皆さんなんとなくでもおわかりかと思います。ここで「予想・仮説の設定」と書かれていますが、この予想について考えていきましょう。
例えば「振り子の1往復する時間は、振り子の長さが関係していると思う」「金属の熱の伝わり方は、火のところから順に温まると思う」といった「原因は〇〇だと思う」「〇〇のようになると思う」といった原因を予想したり、結果を予想したりすることをイメージする方が多いと思います。私たちが日常生活で「予想」というと、「こうなんじゃない?」「こうなると思う!」という言い方になることを指すでしょう。
小学校理科での「予想」は、「根拠をつける予想」と「根拠をつけなくてよい予想」の2つの意味で使われるため、分けて考える必要があります。
(1)根拠をつける予想
前者の「根拠をつける予想」についてです。小学校理科でいう予想は、「根拠をつける予想」を基本として考えたい。これは、「思考・判断・表現」の評価観点として、予想の時に根拠が一緒に言えることが求められているからであり、理科での予想は、勘ではなく、根拠を付けることで可能な限り「より信頼性の高い予想」をしたいからです。そのため、予想をする際は、できるだけ「根拠をつける予想」をしたいわけです。予想の場面で評価をする際には、根拠をつけずに予想すると「C」になります。
(2)根拠をつけなくてよい予想
後者の「根拠をつけなくてよい予想」についてです。先ほど、小学校理科でいう予想は、「根拠をつける予想」を基本として考えたいと言いました。しかし、中には根拠が言いにくい予想の場面があります。例えば、「生き物は、どのようなすがたをしているだろうか」といった、「どうなっているのか観察をしたい」といった問題に対する予想や、「うすい塩酸は、金属を溶かすのだろうか」という生活経験がない予想などです。「とにかく、見てみないとわからない、やってみないとわからない」といった問題は予想する際には根拠が言いにくいと思われます。
このような「根拠が言いにくい予想の場面では、根拠ある予想を無理矢理にさせない」(評価する場面にしない)ことにも留意する必要があります。「根拠が言いにくい予想はさせてはいけないの?」と思われるかもしれません。
ここまでのことを整理すると、
①子ども自身が「根拠ある予想ができたのか」について評価をする際には、根拠が言えないと「C」になる。
②子ども自身が「根拠ある予想ができたのか」について評価をする際には、根拠が言える予想の場面で評価をする(根拠が言いにくい場面では、そもそも予想の評価をしない)
③根拠のない予想をしてもいい場合は、「先生:どうしたらいい?…子ども:〇〇したらいいんじゃないかな。」「先生:どうなりそう?…子ども:〇〇になるんじゃないかな」など、予想の正しさを問うというより、これから先を予想し、方向性を示す意図で予想する場合が多い。
と言えるでしょう。
2.「根拠ある予想をする」力とは?
(1)日常生活事象や既習事項を根拠にして予想する
先ほどから述べているように、「予想には根拠」が必要で、評価する際には、根拠がなければ「C」になります。日常生活で「予想」というと、「必ずしも根拠を言わなくてもよい」という意味もありますが、理科ではそれとは異なりますので、小学校理科としてしっかり「理科では、予想にはその理由が必要」であることを教えていく必要があります。
では、「予想にはその理由が必要」ということの教える方法ですが、私でしたら、「理科では、予想にはその理由が必要」であることを教えると言っても、最初から子どもに「理科では、予想にはその理由が必要だから必ず書いてね」と頭ごなしに伝えることはしません。最初から評価をせず、教える段階をつくります。
まず、子どもが日常生活で「予想」と言われているような「こうなんじゃない?」「こうなると思う!」という根拠のない予想をまずさせます。そして、教師が「どうしてそう思うの?」と聞きなおし、「だって〇〇だから」と根拠を引きだし「〇〇さんが、〇〇と思ったのは、〇〇だからなんだね」と言いなおし、何度か根拠ある予想のモデルを示します。その後、「予想を理由もつけて書いてみましょう」という流れにするでしょう。
その後に、いずれは自分自身で根拠ある予想ができたかどうかを評価をするわけですから、「自分で予想を書いてごらん」と言うと思います。このようなことを繰り返し、理科では予想には根拠が必要であることを認識させます。
(2)「勘で根拠」を言わせても意味なし、「根拠をつけなくてよい予想」では方向性の確認程度に
授業場面すべてが「根拠ある予想」ができるわけではありません。例えば、「うすい塩酸は金属を溶かすのだろうか」という問題に対する予想ですが、この根拠は言えますか? 日常生活に経験がないので言えないですよね。また、「何が磁石に付くのだろうか」という問題に対する予想も、せいぜい生活経験から「金属が付くかな、だってこれまでは金属が付いたから」のように、3年生にとっては根拠にしていいのですが、根拠と言いにくいレベルのものもあるわけです。
前者のように確実に経験がないものは、根拠を言わずに予想し、「金属は溶けるんじゃないかな」という方向性を示す程度の確認でよいでしょう。つまり、この場面では評価はしないわけです。一方、後者の「金属が付くかな、だってこれまでは金属が付いたから」についてですが、これは状況によるので判断に迷いますね。予想と根拠が同じですし、人によって経験があるかないかで「根拠が言えた、言えなかった」ということが起こりそうです。また、これ以外の根拠も出なさそうですので、予想を学級で話し合うといってもたいして広がりが出なさそうで、確認程度で終わりそうです。
「予想に根拠をつけて説明できたかどうか」を評価するのは、主に4年生です。そのため、4年生の担当の先生が特に意識する必要があります。しかしながら、ほかの学年で「思考・判断・表現」として評価しないのかというと、ほかの学年でもできそうなら評価をすればよいと思います。
理科では、知識・技能やほかの思考の観点などの評価も求められます。問題解決の予想の場面で毎回評価するということではありません。予想ができる評価をしたければ、新しい単元の授業を始める前に、自分の学年で評価することは何かを確認し、まずは自分の学年の評価観点を優先します。そして、根拠ある予想が評価しやすい場面があれば、子どもたちができるかどうかを見取ってみてください。
(3)根拠が根拠になっていなくても、予想に「根拠」が書ければB以上になる
評価をする際に、ABCをどのようにつけるかが課題になりますね。学習指導要領には「根拠ある予想が書ける」ことが書かれています。これがB基準になりますので、Cはそれ以下の予想自体が書けない場合だけではなく根拠が書けなかった場合も指します。逆に言えば、よっぽど文脈と違う根拠を書いていれば別ですが、予想に対して根拠が妥当でなくても「とにかく予想が書ければB」ということが言えそうです。
では、AとBの違いはなにかというと、「予想に対して根拠が妥当であるかどうか」で大体は判断ができると思います。
【本記事の続きはこちら】
小学校理科の評価の観点③【解決の方法を発想する】とは?
小学校理科の評価の観点④【より妥当な考えをつくりだす】とは?
【「評価の観点」過去記事はこちら】
小学校理科の評価の観点①【問題を見いだす力】とは?
小学校理科で大きく変わった「思考・判断・表現」の評価とは!?
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。
イラスト/難波孝