小学校での『素話(すばなし)』のすすめ ~実はガチ教材研究です~

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

勤務地には、小学校就学時前教育(保育)と小学校教育との連携を考えた研修組織として略称「幼小連」というものがあります。これは、幼児教育・保育者と小学校教員、事務局としての教育行政の三者が連絡協議会として年に数回の研修をしている組織です。すでに数十年という歴史のあるものです。隔年で、幼稚園(こども園・保育園)と小学校が交互に授業(保育)参観をし、その後協議したり、大学等の幼児教育や心理学を専門とする先生の講演などを拝聴したりしながら学んでいます。保育参観に行くと、保育士さんのさまざまなスキルの高さに驚かされます。小学校での研修では、教科書、教材(学習)材などが重視されますが、保育士さんはまさに保育士さんそのものが教科書であり、学びの環境なのだと思い知ります。わたしは学びのために「保育士試験」に挑戦中です。その中でも実技として課せられている『素話(すばなし)』について考えてみます。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

イラスト/したらみ

1 赤ちゃん、幼児への読み聞かせ

昔の教え子にとても感性豊かな子、Nさんがいました。自学ノートに時々、お話をつくってきました。「クマ先生」というのが登場してきました。体型からかわたしがモデルらしく、「クマ先生」がこんなことを教えてくれた。こんなことを話してくれたと物語風に自学ノートで語ってくれました。家庭訪問のとき、その子のお母さんにお伺いしました。

『Nさんはとても感性が豊かで、想像力があって心もあたたかいのですが、どうやって子育てなさったのですか?』

そのお母さんは、答えました。

「そんなたいそうなことをやったわけではないんです。寝る前に何か読み聞かせをすることはしていましたね。本が用意できない時は、何かお話をしてあげるとかですね。わたしは中学校教員でなかなか娘と接する時間がなかったので、読み聞かせやお話ができない時は、カセットテープでお話を聞かせました。ほんとうはだめなんでしょうけどね。苦肉の策でした。」

遠慮しながらもそんなことを話してくださいました。わたしは感激しました。ああ、毎日のこういった愛情たっぷりの親子のふれ合いの時間が、この子の心を育んでいったのだなあと思いました。

まさにこれが「素話」の原点だと思われます。

2 『素話』とは

「素話」とは、絵本や紙芝居や道具などを一切使わないで、身振り手振りと声だけで「お話」を伝える極めてシンプルな手法です。保育士実技試験だけでなく保育技術検定(高校生向け)の実技にも取り上げられていますので、保育にとっては必須スキルと言えます。しかし小学校教員養成では、ほとんど知られていないスキルではないかと思われます。

「素話」では、文字を読むということではなく、素話をする人がお話を進めていくので、幼児たちは、より注意して聞くようになり、語り手の表情や動作をよくみるようになります。そして、どんどん想像力が高まっていきます。

実はこの時、話し手の方も想像力を膨らませていきます。ちょっとした子どもの反応をみながら、話していきます。これはかなり高いスキルです。会得するためには次のような準備や心構えが必要です。

①お話を決める
お話をする対象の幼児や児童に合わせたお話を決めます。童話集や絵本、あるいは小学校低学年用の教科書に取り上げられるようなものですね。聞き手が知っているポピュラーなものでもいいです。お話は何度聞いてもいいものです。

②お話の流れを覚える
途中でつっかえてしまっては、白けてしまい聞き手の集中も途切れてしまいます。これはアウトです。お話の流れは完璧に覚えておきましょう。そのためには元ネタの絵本などを読み込んでおく必要があります。

③ポジションを決める
話し手は、立つ、椅子に座るなど聞き手よりも高いポジションにいるようにします。聞き手は、椅子に座るか、床に座るなどでしょう。聞きやすいポジションを決めます。話し手と聞き手が離れてしまうと、集中力が続かないことが多いので、適度な距離が必要です。

④スピードはややゆっくり
素話は、挿絵をみせて理解を助けるということはありませんから、「ことば」がすべてです。平易な言葉で、しかもゆったりしたスピードで話さなくてはならないです。0.8倍速くらいがちょうどいいです。

⑤登場人物になりきる
登場人物の特徴をとらえることが大切です。そして、セリフを言うときは、声のトーンや速さ、感じを微妙に変えていくことが大切です。クライマックスの場面やたんたんと流れている場面での違い、男性か女性か、小さい子か大人か、昔の人か現代人かなどでも違いますね。話のテンポなども十分に計算して話していきましょう。

⑥話す場所の環境を考える
カーテンを閉めて暗くする、または明るくする。教室の中で、集会スペースで、あるいは屋外でなど、状況に応じて場所を変えるとおもしろいですね。
かつて、夏の夜のPTA親子行事での肝試しスタート時に、暗くした部屋でわたしが創作した「学校の怪談」をして、子どもたちを送り出していきました。効果絶大でした。

⑦アドリブを入れる
聞き手の反応をみながら、アドリブでオノマトペやお話の筋にプラスしたセリフを入れたり、効果音を入れたりします。こうしてお話の中にどっぷりひたらせていきます。

この7つのポイントで、聞き手をお話の世界に誘います。まるで自分がそのお話の中に入っていくように…。

3 チャレンジしてみると…教材研究にも発展

小学校教員でしたら、例えば、1年生の教科書で取り上げられる『大きなかぶ』などはどうでしょう。教科書に示された文章を音読してしまえば、だいたい2分ちょっとで終わります。これを保育士実技試験で課される3分に広げていってみます。そうすると、何をつけたせばいいのでしょうか。

小学校教員はどうしても文字に注目してしまいます。国語の学習ですから、これは当たり前です。
例えば、教材研究の手法として、じっくり文章を精読し、文章を書き写すということがありますが、書き写しながら、これを「語る」としたら・・・、

①「うんとこしょ、どっこいしょ」ってどんな感じでいうか。

②副詞として「けれども」「それでも」「やっぱり」「まだまだ」「なかなか」「とうとう」と変化していく中で、場面をどう捉えるか。

(『おおきなかぶ』の訳者によって、表現が違います。これは光村図書版です。)

などに気づいていきます。
「素話」を意識すると、文字を離れた視点に注目するようになります。つまりより聞き手の思考過程を意識するようになります。
例えば…。

①なぜ「かぶ」なの?
「かぶ」って、日本の子どもには、あまりなじみがないなあ。どんな補足説明をするといいのかなあ。日本の日常の食生活とは違ったものをどう伝えるかなあ。

②大きなかぶが実際にあったらどれくらい?
聞き手にかぶの大きさをどのように伝えたらいいのかなあ。何か比較対照するものを考えようかな。

③かぶの抜き方に問題がないの?
どうやったら抜けるのか。引っ張るって、どこをどうすると引っ張ることになるのかなあ。真上には引けないだろうし、畑の土は柔らかいことも関係するのかな。

④登場人物はどんな関係なの?
なぜ、おばあさんや孫、小さな動物たちになったのだろう。馬や牛などパワーのある動物ではだめなのだろうか。一気に強い力だと、かぶが痛むから?

⑤どんな言葉で呼んだの?
自分が知っている人を呼んでいくけど、どんなふうに呼んだのかなあ、どんな呼び名で呼んだのかなあ。例えば、「おばあさんは、まごをよんできました」とあるけど、孫娘を呼ぶときは、絶対名前を呼んでいるよなあ。なんていう名前にしようか。

⑥力のかけ方は?
最後に小さな力のねずみが加わって抜けるのは、徐々に少しずつ力を加えていった結果? 最後のかけ声はどうすればいいのかなあ。一つ一つのシーンでのかけ声をどうやって表せばいいのかなあ。

ざっとこんなことを考えました。実際の保育士実技試験では、なかなか3分にまとめきれずに、時間オーバーとなる受験者が多いようです。アドリブをどんどん入れていくと、文字を読む音読よりかなり時間がかかるようです。聞き手の集中力を考えると3分という時間はいい設定だとは思いますが、なかなか難しいです。うまくまとめていきたいです。

わたしの同期で初任者研修指導をしているAさんが、初任者とともに教材研究を進め、対話を通して普通の教材研究ではなかなか気付きにくいところを調べ、レポートにしたものを見せてくれました。
詳しい内容は割愛しますが、わたしが素話にチャレンジしている時、動作を考えたり、行間のアドリブを考えたり、次の展開は何だったか思い出したりするときの視点と似ているなあと思いました。
さらにこれらの疑問の回答は、けっこうスマホから調べられるということでした。検索キーワードを入れると、確かにいろいろなレベルで情報がおいてあることがわかります。
Aさんからヒントをもらいました。

精読、視写を確実に行うことは教材研究で大事ですが、そこに「素話」の視点を入れ、聞き手がいるという前提、つまり対話の相手がいるということを仮想してみましょう。これを基盤に発問や学習過程を構想していくことで、教材研究をさらに高みへと導くことができます。

そしてもちろん、素話は、豊かな情感や創造力を育むことに他なりません。生育環境によっては、この体験に恵まれていない子どももいるかもしれませんし、保育士さんだけのスキルにしておくのはもったいないです。ぜひ、みなさんもチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

(参考図書)阿部直美『語りきかせ・素ばなし集 せんせいお話きかせて』(ひかりのくに・2017【月刊保育とカリキュラム付録】)


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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。

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