子供の姿は先生の姿を映す鏡です【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑩】
全国での取材校数900に及ぶ「教育技術」担当記者が、取材時の学校現場で見聞きした、先生方の役に立つ、ちょっとしたネタを披露します。
目次
1年、2年、3年・・・と学齢に沿って授業見学
全国学力調査の結果が安定して良好だということで知られるある県(数県に絞られてしまいますが)に、取材に伺ったときのことです。その県には何度も取材で訪れたことがあったのですが、そのときは珍しく、4月末という年度の中でも非常に早い時期に学校を訪問させていただきました。
このときの取材は「総合教育技術」のものでしたから、主たる対象となるのは、校長先生と教務主任・研究主任の先生方でした。お二人の主任は午後から手が空くのだけれど、校長先生は午前中のほうが時間がとれるということで、朝から学校を訪ね、あらかた取材が終わったところで校長先生が、「午後まで時間がありますが、どうされます?」と心配して声をかけてくださったのです。そこで「食事でもして時間を潰したいと思いますが、それにしてもまだ時間があるので、授業を見せていただけませんか?」とお願いをしました。すると「どうぞ、どうぞ」と快諾をしてくださり、「一緒に回りましょう」と校内を案内してくださったのです。
最初に訪ねたのが1年生の教室で、ちょうど3時間目の授業が始まるところでした。教室に入ると、子供たちはまだ後方のロッカーへ、教科書や教材・筆記用具などを取りに行くためにワラワラと立ち歩いています。「さあ、チャイムが鳴っていますよ、このチャイムは何のチャイムですか」などと担任の先生は声をかけていたのかもしれません。恥ずかしながら、子供たちの様子に見入っていたため、このときの担任の先生の言動については、少々記憶があやふやなのです。始業時間から少し経って、やっと子供たちが席に着いて挨拶をし、授業が始まると、少しずつ落ち着き始めますが、それでもその県の子供たちとしては、意外なくらい子供らしくフワフワと落ち着きのない感じが漂っていました。
少し授業の様子を見学した後、校長先生に声をかけられるままに、2年、3年、4年…と学齢に沿って見ていったのですが、子供の育っていく様子が手に取るように分かったのでした。
子供たちが伸びないのは、子供自身や家庭教育の問題?
3時間目の間に全学年の授業を見て回った後、校長室に戻ると、「この県の子供たちでも、この時期には落ち着かないものなのですね。1年生の子供たちが始業のチャイムが鳴ってもワラワラと歩き回っているのを見て、何だか安心しました」と校長先生にお話をしました。すると校長先生は、「それは当然です。どこの地方の子供でも一緒でしょう?」と話されます。
そこで「いや、それだけにちゃんと先生の働きかけを通して子供が育っていることが再確認できましたし、2年、3年…と育っていく姿を見ていると、『ああ、先生方が学校としての取り組みを共通認識したうえで、しっかり育てているのだな』と実感できてよかったです。やっぱり、子供の姿は先生の姿を映す鏡ですよね」と話しました。
すると校長先生は、「そう言っていただければ嬉しいです。昨年度、ある自治体から視察の先生が来られたのですが、『ああ、この子たちは本当にいい子たちだ、いい子たちだ』と、何度も子供たちのことを褒めてくださったのですが、私たちの取り組みについては特に何もお尋ねにならなかったんですよ」と話してくださったのです。
そこで、私は次のようにお話ししました。
「きっと、自分の自治体の子供たちが伸びないのは、自分たちのせいではなくて子供自身や家庭教育の問題だと思いたかったから、ことさらにここの子たちを褒めておられたのでしょうね。確かに私が見る限りは、素直で実直な県民性も学びのベースにはあると思います。しかし、先生方が共通認識をもって、全ての子供の学びを保障するだけの取り組みをしてきているから、友達と関わりながら楽しいと思う子供たちが、しっかり学びに向かい続けるのだと思っています。今日初めて、この時期の1年生が、まだ学ぶ子供たちになりきれていないことが分かったからこそ、学齢につれて育っていく様子が、とてもよく分かりました。まさに先生たちが学校全体をあげて取り組んでこられたことの成果そのものですよね。子供の姿は先生の姿そのものだと思います」
その話を校長先生は、それを笑顔でうなずきながら聞いてくださっていました。
余談ですが、その参観者がどこから来られたのか、校長先生にお尋ねしても、なかなか口に出されません。そこで、絶対に口外しないというお約束で、しつこく尋ねたところ、学力調査結果のあまり芳しくない自治体の名前を出されました。それを聞いて、なおさらのこと、「ああ、自分の県とこの県との差は、子供の差であって、自分たちの取り組みの差ではないと思い込みたかったのだな」と思いました。
授業はまず「楽しい」からスタート
今まで全47都道府県の学校で先生方の授業や子供の姿を数多く見てきましたが、本当に子供は先生を映す鏡だと思います。楽しそうに授業をする先生の子供たちは楽しそうに学ぶし、難しい顔でチョーク&トークの授業を進める先生の子供たちはおもしろくなさそうな顔をしています。もちろん、楽しさにも質があって、表層的な楽しさに終始する教室もあるのかもしれません。それでも「学校に行くことが楽しい!」「あの学級で勉強することが楽しい!」と思えるほうがよいですよね。まず「楽しい」からスタートして、徐々に授業の質を高めていけばよいのですから。
さて、これを読んでくださった先生方の教室の子供たちは日々、どんな顔をしているでしょうか?
子供自身が試行錯誤し、概念形成していくことが大事【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑪】はこちらです。
執筆/矢ノ浦勝之