<第2回>ヤギを飼う パンク町田が語る! みんなのいきものがかり

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パンク町田が語る! みんなのいきものがかり
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どの学校にも飼育委員会や飼育係があるのは、なぜでしょうか。学習指導要領の生活科や道徳科の規定を待つまでもなく、生き物に親しむ学習活動が生命を尊重する心情を養うことにつながるからでしょう。ありとあらゆる動物を扱ったことがある動物研究家のパンク町田さんが、身近な動物の愉快な話や飼育のこつを伝授します。

ヤギを飼う

意外にも利口な動物だった!

ヤギはどこを見ているかわからないような目をしています。そんなとぼけた顔をしているせいか、「ヤギはばかじゃないか」と人間は勝手に思っているところがあります。ところがどっこい、ヤギは頭がいい。ヤギの頭のよさはほかのどんな動物に匹敵すると思いますか?

──イヌと同じレベルですか。

残念。私が動物を飼育した経験からいうと、ヤギはウシ並みの頭脳の持ち主で、イヌやウマやブタよりもばかだけど、ウサギより利口です。脳の大きさはヤギよりもウシのほうが大きいので、ウシのほうが利口だと思うかもしれませんが、脳の大きさと知能に相関関係はないようです。

では、どれくらいヤギは頭がいいかというと、ヤギはいつも世話をしてくれる人間の顔を覚えているだけでなく、仲間のヤギの顔を全部覚えています。よくしてくれる人間と意地悪をする人間を区別することができます。

こうして動物の頭のよさについて語るときにいつも思い浮かぶのは、知能の高いクジラやイルカを食べるのはかわいそうという意見です。ウシやブタも相当に知能が高い動物ですから、その理屈で行けば、ウシやブタを食べることもかわいそうだということになります。

その代わりにクジラは希少動物だから食用のために捕鯨してはいけないという理屈ならば理解できます。ただ、それも希少性が失われれば、説得力ある理由にはならなくなります。知能の高低で動物を見ることは動物の区別につながるので、私は好きではありません。

そんな賢いヤギが相手を攻撃するときの得意技は頭突きです。ヤギを子供のうちから育てて飼育係の人と信頼関係ができると、頭頂部に生えてきた小さい角をその人にぽんぽんとぶつけてくるようになります。これは一種の親愛行動であるとともに、将来相手との戦いに備えた頭突きの練習でもあります。

メスのヤギはそんなに頭突きはしませんが、オスのヤギは集団のボスを目指して盛んにほかのオスに頭突きをするようになります。飼育係に対して、「こいつは初顔だな。なんか気に入らないな」とヤギが思ったら本気の頭突きで攻撃してきます。これほど頭がいいですから、子供がヤギを飼えば、自分たちが思うよりはるかに頭がよくて扱いやすいことに気づき、飼育するのが楽しくなること請け合いです。

ヤギはすぐ逃げてしまうような印象を持っている人もいますが、それは飼育環境が悪いからです。飼育環境がよければ、驚かさないかぎり、ヤギが逃げることはありません。放し飼いにしていても、餌の時間になると、自分たちのゲージに戻ってきます。

ヤギはいつも人間の傍でうろうろしている、とても人懐っこい動物なのです。

臆病だけど高所が好き

ヤギは神経質で臆病な性格です。驚くと1メートルくらいジャンプします。ジャンプ力がすごいので、飼育するには、2メートル程度の柵で囲ってやる必要があります。その囲いの中に日差しや雨よけの屋根や小屋をつくるとよいでしょう。

臆病な性格ですが、急峻な崖を歩いている姿を見てもわかるように、高いところを上ったり降りたりすることが大好きで、何匹も飼っていると仲間のヤギの背中に立っていたりすることがあります。

だから、台やはしごを置いてやります。オスのヤギが大人へと成長してくると、ボスを決めるためのけんかが激しくなります。

頭突きを仲裁するのは大変ですから、早めに去勢することを勧めます。子供のうちに去勢すると体が大きくなりません。

ヤギの角は相手を突き刺すものではなく、頭突きを食らったときに脳震盪を起こさないためのヘルメットのようなものです。飼育係の場合は慣れているので、本気で仕掛けてくる心配はありません。

赤ちゃんなら人間用の粉ミルク

毎日与えるのは、餌と水のみ。糞はころころしていますから、飼育場の掃除はそれを集めて捨てるだけでとても簡単です。

生後まもなくの子ヤギから飼う場合には、餌はミルクになります。人間用の粉ミルクを哺乳びんに入れて与えます。皿でミルクを与えると、子ヤギが餌と認識せず、飲まない可能性があります。

子ヤギは親の食べているものをまねて食べますから、哺乳びんでミルクを飲んで見せてやります。ただし、牛乳は希釈してあるので栄養価が低く、餌として不向きです。

ミルクが餌であることに慣れてきたら、哺乳びんでなく、皿でミルクを与えて構いません。

生後半年くらいになったら、ミルクとウシやウマ用の固形飼料の両方を与えるようにして、だんだんと固形飼料に切り替えます。なかなか固形飼料を食べないようなら、飼育係が固形飼料を食べるまねをしてやるとよいでしょう。ずっとミルクを与えたままでいると、いつまでもヤギの赤ちゃんの気分が抜けません。

成長したヤギを飼う場合には、すでに固形飼料に慣れているでしょうから、固形飼料を与えます。

雑草を食べてもらおう!

ヤギを飼うといいのは、雑草を食べてくれることです。学校でも雑草が生えて困っていませんか? しゃがみこんで雑草をとるのは大人に限らず、子供でもしんどいですから、そんなときには、ヤギが役立ちます。

ヤギが子ヤギなら、ヤギを連れて校内を散歩して雑草を食べさせることができます。見る見るうちに雑草を食べ尽くすはずです。

学校はブロック塀などで囲われていますから、ヤギを放し飼いにする方法もありますが、当然ながらヤギには雑草と大切に育てている花壇の草花の区別がつかないので、すべてを食べ尽くされてしまいます。

大人のヤギに雑草を食べさせるには、ヤギに首輪をして綱をつけ、木などにその綱を縛りつけておく方法があります。そうすれば、綱の長さを半径とした円の範囲にある雑草を食べてくれます。

これは馬の話ですが、馬を放し飼いにしていたら、ミカンの木がなくなっていたので、非常に驚いたことがあります。跡形もなくミカンの木を食べ尽くしてしまったんです。ミカンの葉ばかりか、木の幹まで食べるとは思いませんでした。さぞかしうまかったんでしょうね。

スイセンやヒヤシンスの草は有害

このようにヤギは見境なく草を食べます。しかし、その中でも食べてはいけない有害な草があります。学校では、スイセン、ヒヤシンス、ツツジ、ユリ(球根)などの草花をよく見かけます。ヤギがこのような草を食べると、下痢や嘔吐に苦しんでしまいます。これらは毒草ですから、ヤギに食べさせてはいけません。


プロフィール
1968 年 8月 10 日、東京生まれ。ULTIMATE ANIMAL CITY 代表。NPO法人生物行動進化研究センター理事長、アジア動物医療研究センター(日本ペット診療所)センター長を兼務。昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣といったありとあらゆる生物を扱える動物の専門家であり、ハヤブサや鷹を飛ばすトライアルで3年連続優勝するなど鷹匠としても有名。独特の容姿と愉快なキャラクターが受け、テレビ出演や講演など多方面で活躍。主な作品に、『さわるな危険! 毒のある生きもの超百科』(監修、ポプラ社)、『子供に言えない動物のヤバい話』(角川新書)など。


文/高瀬康志

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