スクール憲法を子供たちと共有する〜ヒロックの学級づくり②【あたらしい学校を創造する #40】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、「ヒロック宣言インプット」についてのお話です。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

スクール憲法を子供たちに伝え、語り合う時間

前回に引き続き、4月に行われたヒロックでの活動の様子をお話しします。今回は、毎朝の「サークルタイム」(前回参照)のあとに30分をあてて行った「ヒロック宣言インプット」の話です。これは教科の枠としてSEL(Social and Emotional Learning)の時間を使い、スクール憲法である「ヒロック宣言」を1条ずつ、子供たちと丁寧に語り合っていく時間です。全9条のうち、ここでは第1条の話のみ紹介します。

ヒロックでは、開校前に有識者を招聘してスクール憲法をつくるプロジェクトを行いました。その中で生まれたのが「ヒロック宣言」です。でも開校前の段階でつくられたものは、あくまでも教育者だけで考えた草案に過ぎません。その後、保護者とは開校前にヴィジョンの共有をしましたが、一番大事な子供たちとはまだできていませんでした。開校後に、擦り合わせる必要が残っていたわけです。

ヒロック宣言の中の難解な言葉や概念をかみ砕きながら、それでも本質を子供たちと共有したいと考えました。誰かに押しつけられたきまりではなく、「それって、大切だよね」とみんなが思えるような、共通了解が必要だと考えたからです。

子供たちに対しては、ヒロック宣言をつくった経緯について簡単に触れた上で、さっそく第1条の話をしました。

1.(場の定義)HILLOCKはコゥ・ラーナーそれぞれの福利を未来に向けて拡張し続けるための場である(コゥ・ラーナーとはヒロックの児童を指します)。

第1条は「ヒロックとは何のための場か?」ということが示された、ヒロック宣言の中でとりわけ大切な条項です。子供たちにわかりやすいように、「福利」をひとまず「幸せ」と言い換え、「みんなは今、幸せ?」と問いかけてみました。

ほとんどの子が幸せだと答えます。

「じゃあ、なんで幸せって感じるの?」

と問うと、「家族がいるから幸せ」「お金があるから幸せ」「健康だから幸せ」「好きなことができるから幸せ」「知識があるから幸せ」などの発言が飛び出すなど、子供たちは予想以上に多くのことを教えてくれました。

「この中で同じって思うものもあれば、これは私は要らないって思うものもあると思うんだよね」と、幸せの感じ方は人によって違うことを話すと、子供たちはうなずきます。

「じゃあ、その幸せって、これからもずっと続くのかな?」と聞くと、みんなは「うーん……」と考え込んでしまいました。

そこで僕は次のような言葉を語りかけました。

「今の幸せはもちろん大事。今はいろんな人たちが自分のことを幸せにしてくれているけれど、これから先も自分のために居続けてくれるとは限らない。だんだん幸せがなくなっていくと考えると辛いよね。幸せを感じられる力は心だったり、コミュニケーションだったり、お金だったり、知識だったりするかもしれない。どんなところにいても、「自分で自分を幸せにできる力」をつけていってほしい。そんな場がヒロック。昨日より今日、今日より明日、みんなに幸せになる力がついてきている、幸せの幅が広がってきたと思える毎日を送っていこうね」

毎日の帰りのサークルタイムでも、「今日は昨日より幸せになる力はついた?」と聞き、瞑想しながら1日を振り返るようにしています。

ルールはこれからみんなで具体化していこう

「ヒロック宣言インプット」の授業はゴールデンウィーク前に終わりました。最後に僕は、「これまで見てきた9つの条項を具体化していくのはここにいるみんなであり、さらに新しいものにも変えていく可能性のあるものだよ」と締めくくりました。

子供たちからは、「憲法ってそういうものだったんだー!」「学校のきまりって、なんであんなに必要なんだろうね?」そんな話題で盛り上がりました。

こうして子供たちと保護者の承認を経ることによって、晴れて「ヒロック宣言」が「制定」されました。5月6日、ヒロック宣言記念日です。これからも毎年の年度初めに、新たなメンバーとこの宣言について話し合い、アップデートしながら、ヒロック宣言記念日をお祝いしていこうと思っています。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校したオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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