小学校理科で大切にしたい「育成したい方向性」とは?【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#3

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

小学校の理科では、子どもたちに「問題解決」をさせるとよくいわれます。
「問題解決」と一言でいっても、受け手の先生方には「どの程度のことを指すのか」について、解釈は人それぞれになっているようです。
例えば、「問題解決の流れに沿って教科書をなぞっているだけで、先生が主導し、子どもに教え込む」という指導もあれば、「できるだけ先生は介入せず、子どもの発言を引き出し、コーディネートするだけ。問題解決はあくまでも子ども主体」と意識している指導もあります。
このレベル感の違いは、「問題解決」と「問題解決の過程」の位置づけを理解していなかったり、「理科で育成したいことは何か」が十分に検討されていなかったりするところに原因がありそうです。
今回は小学校理科で大切にしたい「育成したい方向性」について考えてみましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.小学校理科の「問題解決の過程」と「問題解決」

小学校理科は、自然の事物・現象(自然事象)を対象にして、(自分自身が解決したいと思っている)問題を解決していく活動といえます。みなさんも理科では、活動の中から問題を発見して、予想して、実験方法を考えて、実際に実験をして、結果を整理する、といった流れで授業が行われていることはお分かりだと思います。小学校理科では、このような子ども主体の、解決までの流れを「問題解決の過程」といいます。文部科学省の資料にも図1のような具体的な問題解決の過程について掲載されていますし、教科書にもこのような流れで授業展開が考えられています。

図1 問題解決の過程
図1 問題解決の過程

この問題解決の過程の各場面で、何を大切にし、何をするのかについて子ども自身が理解したうえで、主体的に自分の問題を自分自身で解決していくことを「問題解決」といいます。とはいえ、このように主体的に自分自身で問題解決できるのは理想的な姿であり、小学生の段階で最初から主体的に問題解決することはできません。なぜならば、小学校3年生の最初の段階では「問題解決の過程自体を理解する」必要がありますし、理科の授業では学習内容が決まっているため、問題解決すべてを子どもに任せて問題を解決するということは、できない子どももいるため現実的ではないからです。

2.小学校理科で大切にしたい「育成したい方向性」

上述のように、「理想的な問題解決の姿」は、「主体的に自分自身で問題解決ができること」と分かったものの、小学校の理科ではそこまでは難しい。では、小学校の理科では何ができるようになればよいのでしょうか?

理科の実験機材のイメージ
イラストAC

小学校の理科において、育成したいこととして、資質・能力(「知識及び技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」)は前提となります。そのほかにも様々な考え方があるかもしれませんが、私は小学校の理科で「育成したい方向性」として、以下のような6つの観点で整理してみました。①③は主に資質・能力の「知識及び技能」、②④は主に「思考力・判断力・表現力等」、⑤⑥は主に「学びに向かう力、人間性等」に該当します。

①学習内容に関する知識や技能を定着させる

授業で行う以上、学習内容があり、教えなければならない内容があり、定着させなければならない知識や技能があります。何か物事を考える際にも、知識がないまま考えることはできません。当然のことではありますが、知識や技能はしっかりと定着させましょう。これは「教え込みの指導をする」という指導法を推奨しているのではなく、子ども自身が自分で知識や技能を使えるようにさせるというゴールの姿を目標とするという意味でいっています。

②問題解決を追体験することを通して、「問題解決の過程」を理解させる

「理想的な問題解決の姿」を中学校や高等学校、社会に出たときにできるなど、将来において実現できるために、小学校の段階では問題解決の過程の各場面で、子どもたちに考えさせながら問題解決の基礎的なことを学ばせていくことを大切にします。そのため、最初のうちは解決にあたって意識しなければならないことを子ども自身に気付かせながら先生が教えることになります。そして、子どもたちの経験が増えていけば先生が教えるばかりではなく、子どもたちだけで考えさせる時間も増やしていく必要があるでしょう。

③目の前の問題に対して、これまでに学んだことが適用できるか常に意識させる

理科の授業を繰り返していくと、生活経験や以前授業で学んだことが生かせることがあります。先に述べたように、理想の問題解決は子ども自身で解決できることです。先生が積極的に手を差し伸べなくでも、子どもたちで解決できるようなことであれば、子どもたち自身に任せたいですよね。以前学んだ解決方法があれば、自分自身で目の前の問題に適用できるようさせたいです。そのためには、主体的に解決できる場面をつくり、子どもたちに過去の学習を考えさせながら「過去の学習が生きることもあるから、意識するとよい」と気づくように解決させていきます。

④自分の問題解決の方法について、よりよい方法なのか振り返る癖をつける

理科は「科学的」かどうかが重要になります。ここでの「よりよい方法」とは、正しい結果が出る方法や考え方なのかを振り返ることを意味します。問題解決の過程の各場面で、自分自身の解決方法が合っているのかどうか振り返るといってもいいでしょう。

例えば、問題の見いだしの場面では、「自分自身が考えた問題がこれから理科で行う問題として適切なのか?」、検証計画の立案の場面では、「自分が考えた解決方法をすると、本当に調べたいことが調べられるのか?」「実験道具はあるのか?」など考えることを意味します。

⑤友達と協力した方が1人で行うより妥当な結果が得られることを理解させる

先程述べたように、理科では正しい結果が求められます。しかし、自分一人の力で実験結果の信頼性を高めるためには一人で何回も実験をしなければなりません。この時、友達の協力を得ることで、結果のデータが増えたり、自分一人では思いつかない考えがでたり、様々な観点で見たりすることができます。つまり、妥当な結果が得られるわけです。友達との協力は理科ではとても大切であるということを理解させ、自分で考えること、友達と考えることを使い分けて追究させていきたいものです。

⑥あきらめず最後まで解決できる耐性をもたせ、解決できた喜びを実感させる

理科では自分自身で問題解決できることが求められます。そのため、本来あるべき理想の姿として、最初から最後の結論が出るまで頑張ってほしいわけです。子どもたちの中には、最初から興味・関心がもてない子どももいますし、問題解決は始めたものの、途中でつまずいて諦める子どももいます。理科では、うまくいかない場合に試行錯誤して考えることも求められるため、最後まであきらめずに解決できる耐性をつけたいです。試行錯誤が楽しい(何とか結果を出したい、うまくいかなくても次の手があるので試したいと思える、友達と別の手がないか考えたい)ことや、解決できたときに「(いろいろ大変だったけど)解決できてうれしい」と実感する体験をたくさんさせたいものです。

私は、このような6つの「育成したい方向性」で、子どもたちを育てていきたいと考えています。クラスの子どもたちの中には、理解の早い子、遅い子、自分自身でできる子、なかなかできない子など、様々なレベルの子どもがいます。また、①~⑥の観点から見た際に、子ども一人ひとりの達成度もバラバラです。先生は、子ども一人ひとりがどのレベルまで到達しているのか見取り、指導し、「理想の問題解決の姿」に近づけるようにしていこうとする先生側の意識と具体的な取り組みが必要なのではないかと考えます。

まずは、一度子どもたちを6つの観点で見取ってみてはいかがでしょうか?


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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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