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【指導のパラダイムシフト#16】対応のパラダイムシフト②

連載
指導のパラダイムシフト~斜め上から本質を考える~

京都橘大学教授

池田 修

北海道公立小学校教諭

藤原友和

池田修先生×藤原友和先生のコラボによる好評連載。第16回のテーマは「対応のしかた その2」です。今後、「学習者主体の学習」へと転換するために、授業や学級経営をどう変えていくべきなのか? この連載でもっともお伝えしたい、そして読者と共に考えていきたいテーマに迫っていきます。1人1台端末時代、教育の変革期に奮闘する全ての先生方にとって必読の連載です。

執筆/京都橘大学発達教育学部児童教育学科教授・池田修、北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

池田修

池田 修(いけだ・おさむ)1962年東京生まれ。国語科教育法、学級担任論などを担当。元中学校国語科教師。研究テーマは、「国語科を実技教科にしたい」「楽しく授業を経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」です。ハンモッカー。抹茶書道、ガラス書道家元。琵琶湖の話と料理が得意で、この夏は小鮎釣りにハマってます。

藤原友和

藤原友和(ふじわら・ともかず)1977年北海道函館市生まれ。4年間の中学校勤務を経て小学校に異動。「ファシリテーション・グラフィック」を取り入れた実践研究に取り組む。教職21年目の今年度は、教職大学院で勉強中。教師力BRUSH-UPセミナー、函館市国語教育研究会、同道徳研究会所属。

第16回のテーマは「対応のしかた その2」

なかなか対応の話に入って行けませんが、今考えているのは、授業における対応の部分です。
思い出してください(^^)。

よい授業をつくるためには、これまでは学習指導の計画が大事だとされてきました。学習指導案の充実が大事だということで、指導のしかたについて教師は勉強と準備をすることが大事だというものです。

もちろん、これは大事です。しかし、よい授業をつくるには、その他に、授業時の対応、そして授業後の振り返りの観点も大事なのですが、従来はここがあまり重要視されてきていないのではないかというのが、この「対応を考える」のテーマでの問題意識です。

私は、『こんな時どう言い返す』(池田修 学事出版)という本を書き、生活指導上で突然表れる生徒の返答しにくい質問や主張にどう答えるかの例をいくつか示しました 。*1 これはこれで大事なのですが、本丸は授業です。授業の中で突然生まれる想定外の質問にどう答えるのか、対応するのかということが極めて大事なわけです。

教師があらかじめ計画しておいて(いや、ひょっとしたら予定しておいて)、子供の答えを順序よく並べていく授業を自分が中学生の頃から見ていました。私は悲しい思いで見ていました。予定調和という言葉を知ってからは、ますますその思いを深めました。

しかし、楽しい授業にはそんな予定調和は、ありませんでした。教室に生まれる頓珍漢な答え、また、子供から溢れる小さな呟きを先生が拾い、予想もしていなかった展開になりつつも、学習内容は学べている。そんな授業でした。なんでこんなふうに差が出るのだろうかと、私は子供心に不思議に思っていました。今は、その理由がわかります。教師の対応が優れていたからです。

授業時の対応は、授業を行う上で重要なのに難しいのです。なぜでしょうか。そもそも子供たちの質問は、いわゆる「無茶振り」のようなものです。そして、その無茶振りの質問に、その場で対応しなければなりません。その場で、授業の目的、目標に即して適切な対応をしなければなりません。授業の準備の際に、「予想される学習者の反応」として、事前に考えることもありますが、それを超えた反応を求められることも授業では珍しくありません。 だから、難しいのです。

さて、どう考えていけばいいのでしょうか。
そこに入っていく前に、前回の残りの部分を。
そう、平成29年度版の学習指導要領での指導のあり方についてです。

*1  「なんで先生は、職員室でお菓子を食べているの? 僕にもちょうだい。同じ人間でしょ」「先生に相談しても意味がないから、相談しません」「別に誰にも迷惑かけてないし、遅刻したっていいでしょ」のような質問や主張です。

では、どうしたらいい?

対応のパラダイムシフト その1」では、子供たちに、老人ホームと自然災害伝承碑について学習する授業でのやりとりを考えてみました。通常の授業であれば、ここまでできれば十分かと思います。しかし、これは、平成20年度版の学習指導要領に基づく指導であり、平成29年度版の学習指導要領からは、その先を求めていると考えています。

それは、創造です。
新しいものを創り出す。そんな学びです。 この学びの方針は、平成29年度版の学習指導要領作成に向けて提言をした、中央教育審議会の資料にあります。(図1) *2

(図1)教育目標の分類学(ブルーム・タキソノミー)
梶田叡一 (奈良学園大学長)著『教育評価(第二版補訂版)』(有斐閣)、国立教育政策研究所『社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理』を元に整理
(図1)教育目標の分類図

ブルームのタキソノミーと言われているものです。
ここを見ると、認知の最上位には、⑥ 創造 とあることがわかるかと思います。 *3

もし、そうだとすれば、この地図記号の授業は、さらにその先に行くべきなのです。

*2 平成27年4月中教審資料「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方に関する補足資料 ver.5」

*3 ちなみに、この①から③のことを、Lower order thinking(LOT)といい、④から⑥のことをHigher order thinking(HOT)と言います。「主体的・対話的で、深い学び」の「深い学び」は、このHOTのことを指していると考えられます。

それは、

『2022年に新しい地図記号を設定することになりました。それは何の地図記号ですか? それはどのような地図記号ですか? そして、なぜその地図記号を新しく作る必要があるのですか?』 *4

という問いになるでしょう。

これが、

「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」

ということになります。

学習者は、今の世の中の出来事を調べ、存在していないけれども必要と思われる新しい地図記号は何かを考え、それをシンボルに仕上げていきます。ここでは、GIGAスクール構想で用意されたパソコンが役立つでしょう。そして、その新しい地図記号について、なぜこれを新しい地図記号に採用すべきなのかというテーマでプレゼンテーションを行います。その結果、よい作品が採用されるという流れです。まるで、建築家のコンペティションのようですが、こうした学習がいいと思います。

私が中学校の教師時代に、この方法でやった授業の一例として、コピー作文があります。コピー作文*5とは、簡単に言えば、広告文です。キャッチコピー、ボディコピー、ビジュアル、仕様などの要素から成り立つ広告文で学習します。よくある実践としては、自分がお勧めする本の帯のコピーを書くなどがありますが、私はこれを移動教室の事前学習で行いました。

生徒が事前学習でまとめた、その地域を紹介するコピー作文を書かせたものを複製し、移動教室先の福島県の宿に送りました。そして、生徒が到着する前に最優秀賞、優秀賞、奨励賞などの賞を決めてもらっておき、夕ご飯の時に発表してもらいました。賞品は、ヤクルトだったと思います(^^)。

あらかじめある正解を探すのではなく、正解を創り出す課題です。しかも、評価は外部に依頼ということで、第三者評価です。公正に審査してもらえました。「もしよかったら、優秀作品はしばらく飾っておいてください」と伝えたところ、とても喜んでもらえました。

実は、このようなスタイルは、私のオリジナルでもなんでもありません。

*4 世の中では、「答えのない問い」という言い方が目立ちます。しかし、答えがなかったら、問いなどたたないわけです。正確には、「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」です。答えはありますが、それは提案され、吟味されることによって、初めて確定する答えなのです。

*5 『コピー作文がおもしろい』(大内善一 学事出版)

有名なところで言えば、『提案する社会科ー未来志向の教材開発ー』(小西正雄 明治図書出版)があります。ここには、茂松清志先生の実践として、次の問いが提示されています。

課題1
学校の児童数が増えたので,校舎を4階建てにします。これはその4階の設計図です。どこで火事が起こっても心配ないように,消火施設を設置したいのですが,どこに何を置いたらいいですか。4階の設計図に書き込みましょう。

『提案する社会科』は、1994年9月に出版されました。しかし、この実践は、明治図書「社会科教育」90年11月号に最初に紹介されています。*6今回の平成29年度版の学習指導要領の胎動は、ここに見ることができます。実に今から30年も前のことです。

日本が工業化社会から情報化社会へ、さらに超情報化社会へと移り変わっていくこの30年の間に、授業は教師が持っている答えを早く正確に学習者に伝える授業から、「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」を設定する授業、また、学習者が持っている問いから学びを始める授業へと変わってきたと言えるのではないでしょうか。

「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」について、もう少し考えましょう。ブルームのタキソノミーをベースにして、受験問題を分析するために開発されたツールに「思考コード」*7というものがあります。これを理解すると、この「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」のことが理解しやすくなります。

*6 上越教育大学教職大学院の阿部隆幸先生に調べていただきました。あべたかさん、ありがとうございます。

*7 首都圏模試センター作成

思考コードの代表的なものとして有名なのは、このザビエル問題の分析です。 

ザビエル問題の分析

この表を見ていただくとわかるのは、平成20年度の学習指導要領に基づく問題は、AゾーンとBゾーンに集中していることがわかるかと思います。そして、レベルが3に向かうほど難問になっています。

レベルが3に向かうと難問になるのは同じですが、Cゾーンの問題は、今までの問題と明らかに種類が違うのがわかるでしょう。これこそが、「あらかじめ一つの正解が用意できない問い」のゾーンです。また、薄々お分かりかと思いますが、AゾーンBゾーンは、人工知能が得意とする分野です。すでにIBMの人工知能ワトソンは、2016年に知識と分析の点では、東大の医学部の教授のレベルを超えています。*8 これらのゾーンで人間がコンピュータと勝負することは意味がなくなってきたことを示しています。*9

人工知能がやっていることは、計算です。論理、確率、統計です。それはAゾーンBゾーンなのです。では、Cゾーンは何かといえば、「ひらめき」です。アイディアです。この部分は人工知能は計算では答えを出すことができません。そうだとすれば、私たちは、ひらめきをAゾーンBゾーンで出た答えから導くか、または、AゾーンBゾーンにひらめきの根拠を求めることになるのではないでしょうか。*10

「あらかじめ一つの正解を用意できない問い」は、今、教師によって設定されています。これを学習者が解くという形になっています。しかし、これは本来は学習者が自分で設定しその問いを解くものです。それが主体的な学びを支えることになります。

この学びは、この先、どんな世界になるか分からない未来を、自分でつくり出し、それを正解にしていく営みということができるかもしれないと考えています。

あれ、お笑いが出てこない(^^)。
次回には出てくると思います。
もう少し、授業内の対応について考えていきます。

*8「血液ガンに侵され、死を覚悟した女性を人工知能「Watson」が救った

*9 誤解のないように言えば、私は、人工知能が知識と分析の点で人間を上回ったとしても、それでもできるだけ多くの知識を人間が自分の脳に蓄えることは重要だと考えています。それはこのあと述べる発想に必要だからです。

*10 人間の脳(内部脳とします)に蓄えられた知識は、人間に問題が生まれた時、その知識を使って勝手に解決することをしようとするのではないでしょうか。うまくいくかいかないかは別として、時々考えていますよね。その際、知識が多ければ多いほど、そのアイディアは豊かになります。なぜならば、アイディアは、知識と経験の組み合わせだからです。「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。」(『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング CCCメディアハウス)です。一方、オンラインの情報は外側にある脳(外部脳とします)であり、ここにある情報は、勝手に組み合わされることはありません。だから、知識を貯めることは大事なのです。

現場教師によるキャッチボール解説 by 藤原友和

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