コロナで休校した子供を学級内の偏見から守るには【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
目次
【今回の悩み】コロナ禍によって、いじめが生まれないか心配
学校での新型コロナ感染がまた身近になってきました。子ども自身が感染したり、濃厚接触者となったりして休むケースや、感染リスクを避けるため「自主休校」させる保護者もいます。
「あの子だけなんで休んでいるの」「あの子のせいで学級閉鎖になった」など、いじめにもつながる雰囲気がクラスで生まれてしまわないか、とても心配です。子供たちにどのような説明をしたらいいでしょうか。
(小学校教諭・3年生担任・30代、教職歴:9年)
道徳の授業でとりあげてみんなで考えよう
新型コロナウイルスの感染拡大が始まったころ、医療従事者やその家族が偏見や差別を受けたことが思い出されます。それと同じことがクラスでも起きるのでは、というご心配ですね。 ワクチン接種が進み、国内の感染状況はだいぶ落ち着いてきていますが、今後について予断が許されないことは変わっていません。
新型コロナをめぐる偏見や差別の問題については、道徳授業で取り上げてよいと思います。学習指導要領にも「公正、公平、社会正義」という道徳的価値、「差別や偏見をもたない」という内容項目がありますから、授業でコロナ差別を取り上げるのです。家族に医療従事者がいるから差別するなどということは、やってはいけないという知見は、これまでの間に子どもたちに十分伝わっているはずです。でも、この感染症はしばらくまだ続くでしょうから、授業という形で伝えていくのが一番だと思います。
家族に医療従事者がいるからこうだ、といった決めつけは違うのだと、偏見をなくすことを知識として伝えていきましょう。モラルの問題は認識不足から起きることが多いのです。お説教をするのではなく、認識を深めていくことが一番だと思います。
いじめとは何かを子供たちにも知らせる
同時に、いじめについての認識も深めていきましょう。偏見がいじめにつながっていくことは、この記事をご覧の皆さんもわかっていると思います。今の道徳の授業では、必ずどの学年でもいじめを取り上げるようになっていますね。子供たちの多くが「からかってるだけ」と、思うことでも、いじめになることがあります。それは相手がいやだと思えば、辛い思いをしていれば、いじめになるからです。
この認識は、学級づくりの中で伝えていくより、ダイレクトに道徳の授業で取り上げるべきです。そこから子供たちのいじめについての認識不足を補っていくべきだと思います。そのうえで、ホームルームなどでフォローすれば子供たちにも入っていきやすいでしょう。
みんな、それぞれ事情があることを理解させる
自主休校の子供については、コロナに感染して休んだわけではないことを説明しましょう。自主休校は「ずるい」という声が子供たちからあがるかもしれませんが、家庭の都合で子供を休ませるというのは、コロナ禍以前からあったことです。
例えば、海外赴任しているお父さんが一時帰国したので、学校を休んで家族旅行に行ったとか。私は、数年に一度しかない家族団らんのチャンスを大切にすることは大事だと思います。あるいは、経済的な理由から修学旅行などに参加できない子供がいる地域もあるでしょう。
家庭にはそれぞれ、個別の事情があることをわからせるのが学級経営だと思います。「みんなが同じでなければいけない」と同調圧力が強まるような学級経営をしていると、あの子が休むのは許せない、というクラスの空気が生まれます。さらに先生までもが同調してしまうのはよくありません。「みんな、それぞれ事情がある」「みんな違って、みんないい」ことを、積極的に教師が伝えていれば、自主休校した子をとがめるような雰囲気にはならないはずです。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/長尾康子