「教材研究をする時間がない」と悩む先生へのアドバイス|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
独自の学級経営&教科指導で子供たちのやる気を引き出す「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、「十分な教材研究ができず満足のいく授業ができない。特に総合の準備は大きな負担となっている。総合の授業準備のコツやアイデアを知りたい」という先生の悩みに答えていただきました。
目次
「教材研究の時間がない」は先生中心の考え
効果的な教材を使った理想の授業をしたいのに、教材研究や教材を準備する時間が確保できないとストレスを感じるよね。
でもそれはすべて先生中心の考え方かもしれない。
もちろん、子供たちのために「こういう教材を使って、こんなことを教えたい」と考えているわけだけど、先生が一生懸命研究したり、準備をしたりしても、一番力を能力を伸ばしたのは先生、では本末転倒だよね。
学ぶのは誰か? 力を伸ばすべき人は誰なのか? それはすべて子供たち。
だからもっと子供を中心に考えてはどうだろう。
子供のやる気を引き出し、子供自身が教材を作る
ボクの理想は
「子供のやる気を引き出し、子供自身が教材を作る」こと。
その実践例の一つが以前紹介した
総合学習の時間で、サンマを焼き、どうすればきれいに食べられるかをクラス全員で研究する取組だ。
他の先生なら、正しい食べ方を調べ、食べ方研究シートを作ったり、なぜそうするとよいのか理由も示したりするかもしれない。でもそんなことしていたら当然時間は足りないよね。
この実践で、ボクがやったことは
・「サンマをきれいに食べられるようになる」というゴールを設定しイベントをやると決めること。
・給食の調理士さんにサンマを仕入れられるか確認すること。
・子供たちに「家でサンマを食べる練習をしてね」と伝えること。
・サンマの仕入れ代を支払うこと。
・家で練習して泣いて保護者の迷惑にならないように、「泣いたら失格」のルールをつけたこと。
これだけだ。
それでもイベント当日は、みんな焼いたサンマを驚くほど上手に食べていた。さらにふり返りをして、どうすればサンマをもっときれいに食べられるのか考えて話し合わせることでモチベーションが持続。サンマの食べ方が上達したのはもちろん、骨を取りだすコツを他のクラスの子にも伝えようとポスターを作成したり、国語の時間に自分が食べたサンマに手紙を書くことで、命をいただくことへの感謝の気持ちも高まった。
子供の「やりたい」という気持ちから、学習を組み立てる
大事なのは、子供の中から「やりたい」という気持ちを引き出すこと。
「子供にこうなってほしいから、この教材を使おう」ではなく、子供たちの「こうなりたい」「やってみたい」「知りたい」という気持ちを教材にして、上手にいろいろな学習につなげたいと思っている。
だからボクは子供たちが「こういうことをやりたい」と言い出したとき、「これは学習指導要領のどこをカバーできるかな」と考えてしまうんだよね。 SPHFなら、「食べるイベント」は学級活動、「話合い」は総合、「いのちの大切さを学ぶ」ことは道徳、「サンマへの手紙」は国語、低学年なら生活科の「秋を探そう」につながる、などと考えて時数カウントもする 。
ゴールが明確なら、学習指導要領の通りに進まなくてもいい
指導案通りに進めることだけが正しいとは限らないと思っている。
例えば「新聞づくり」もカリキュラム通りにやると「書きたいことが見つからない」という問題が起きるけれど、子供たちが書きたいことがあるときに新聞作りをすれば、より面白い新聞ができるだろうし、学習もグッと深まるはずだ。
ボクが時々感じるのは、教材研究をするときに、プロセスを大事にする先生が多いこと。
まずゴールがあり、そこにたどり着くために積み上げていくものがプロセスであるはずなのに、先にプロセスばかり考えてしまったり、プロセスにこだわりすぎてしまったりするから、時間がかかったり、プロセスの途中で迷子になってしまったりするんじゃないかな。
ゴールを明確に決めて、そのゴールに行くためには何が本当に必要なのかを見極めることが大事。 そして常に子供たちを中心に考え、些細なつぶやきや唐突にわき起こる好奇心も上手に拾って学習に組み入れ、やる気を持続させながら一人ひとりの自信につながるようなシステムをつくることが重要だと思う 。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵