子供たちとの距離の取り方【連載小説 教師の小骨物語 #8】
- 特集
- 教師の小骨物語

新米でもベテランでも、教師をしていると誰でも一つや二つは、「喉に詰まっている”小骨”のような」忘れられない思い出があります。それは、楽しいことばかりではなく、むしろ「あのときどうすればよかったの?」という苦い後悔や失敗など。そんな実話を取材して物語化して(登場人物はすべて仮名)、みんなで考えていく連載企画です。
8本目 最初が肝心!単に仲良しとは違う子供たちとの距離の取り方
自分が教えた子供たちが大人になったとき、「あの先生のクラスは楽しかったな」「あのときの先生の言葉が、いまの自分の糧になっている」などと思い出してもらえるような教師になることを夢見て、僕(新田賢治、現在教師3年目)は教職の道を選んだ。
基礎学力を身に付けさせることはもちろん大切だが、きらきらした思い出をいっぱい作ってあげたい。そんな夢は教師2年目にして早くも打ち砕かれた。
◇
5年生を担任した当初は、とくに問題もなく毎日楽しかった。1学期の運動会も、2学期の音楽発表会も上手くいった。
ところが、2学期後半あたりから、一人、二人とコントロールが効かない子が増えていった。いま振り返ってみれば、子供たちが訴えてきたことを解決しないまま、“流してしまった”ことが積み重なったのだと後悔している。
例えば、電気係になった祥平くん。移動教室のときなど、最後に電灯を消す係なのだが、僕はつい無意識に消してしまっていた。
「先生に仕事を取られた」
祥平くんはいじけてしまった。
「ごめん。いつも頑張ってくれているのにね」
そう謝りながらも、その後もつい自分で消してしまった。精神的にちょっと幼い祥平くんは、落ち込んで、泣いてしまうこともあった。それに対して何度も謝ったが、祥平くんとの関係は修復できなかった。
それから、彼は僕の言うことを聞かなくなって、授業中に立ち歩きをするようになってしまった。
◇
もう一人、まったく僕の言うことを聞かなくなってしまった優斗くん。
2学期までは勉強は苦手だが、ちゃんと席について発言もしていた。ところが、ある日、同じ班になった優等生タイプの女子に「ブタって言われた!」と訴えてきた。
「聞き間違いじゃないの?」
「絶対に言った! なんで信じてくれないの?」
一応確認してみて、「言ってないそうだよ」と優斗くんに伝えた。
今思えば、その女の子への印象から言うはずもないと勝手に決めつけてしまい、まずは優斗くんの訴えを受け入れることをしなかった僕の失態だ。真相は闇の中だが、事実はどうあれ彼は僕に何か解決してほしいことがあったのかもしれない。でも、当時の僕は優斗くんの気持を深く考えず、そのまま“流した”。我ながらひどい教師だと思う。そして、優斗くんは少しずつ反抗しはじめた。
こんなふうに、“引っ掛かり”がある子が増えていった。一人の小さな反抗なら何とかなったかもしれないが、いくつかの反抗の流れが合わさって大きな流れになってしまうと、もうその勢いを止めることはできなかった。