LGBTQ児童への教師理解 ~連載小説「教師の小骨物語」 #4

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教師の小骨物語【毎週水曜更新】
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新米でもベテランでも、教師をしていると誰でも一つや二つは、「喉に詰まっている”小骨”のような」忘れられない思い出があります。それは、楽しいことばかりではなく、むしろ「あのときどうすればよかったの?」という苦い後悔や失敗など。そんな実話を取材して物語化して(登場人物はすべて仮名)、みんなで考えていく連載企画です。

4本目 気付けなかったLGBTQの子と成人式のクラス会で再会

8年前に5、6年生で担任した子供たちが成人式を迎えた日、携帯電話が鳴った。

「ミッキー、お久しぶり。いま成人式が終わってみんなで集まっているんだけど、先生もちょっと来る? 女子の振り袖姿、見たいでしょ」

当時35歳だった僕(三木谷聡志、教師20年目)は“ミッキー”という愛称で呼ばれ、子供たちに親近感をもたれる教師だった。成人式の集まりにお声がかかるとは嬉しい限りだ。

「馬子にも衣裳かな。見に行ってやるぞ」

そう答えて、20歳になった子供たちとの再会にわくわくして家を出た。
みんなが集まっている店に行くと、振り袖姿の女子5人とスーツ姿の男子が5人いた。

「成人おめでとう! みんな立派になったなぁ。女子たち、振り袖姿、綺麗だなぁ」

そう言いながら、一人ひとりを順番に見ていったのだが、中川有紀のところで僕は固まってしまった。

「中川有紀……だよね?」

「そうですよ。びっくりしました?」

僕は一瞬、どういうことなのかわからなかった。本来、振り袖を着ているはずの“彼女”が、短髪にビシッと黒いスーツを着こなしている。

「ああ……ちょっとびっくりした。すごいな。昔からスカートは履いたことがなくてボーイッシュな感じだったけど、磨きがかかったな」

「はい。ピッカピカに磨きました」

喉元まで出かかった言葉を、隣にいた男子が口にした。

「LGBTって聞いたことあるでしょ? 最近ではどこにもあてはまらないクエスチョニングの人を含めてLGBTQと言うらしいけど。とにかく有紀は高校を卒業してからカミングアウトしたんだ。だから、いまは俺たちの仲間!」

頭では理解できるのだが、屈託なく男子たちと笑っている有紀を見て、ぼくは正直、ショックを受けた。実はずっと気になっていたのだ。男子のように振舞っていた彼女を、当時の僕はどう扱っていいのかわからないまま卒業させてしまったから……。

「違いがあるのは当然。認め合おう」これだけでも多様性の教育だった

「男の子っぽくしていたきみに、いつも“もう少し女の子らしくしたら”って言って、傷つけてしまったね。何も知らなくて……」

「何も知らなかったのは、僕も同じです。自分が女子であることに違和感をもつのがどうしてなのかわからなかったし、自分が何者なのかを表す言葉も知らなかった。“トランスジェンダー”なんて言葉を知っていたら、もう少しラクに過ごせたと思うけど」

ごく自然に“僕”と言う有紀が、「先生に話したかったことがある」と言ってきたので、僕は少し緊張していた。

「そうかもしれないね。いまなら、ネットでいくらでも情報が入ってくるけどね」

「あの当時は誰にも相談できなかったから、困ったことばかりでした」

そう言われて、有紀が“困っていた”と思われる場面が次々と思い出された。

「水泳、よく見学していたよね。あれも?」

「はい。女子の水着を着るのなんて嫌でした。胸が膨らんでくるのも、親にスポーツブラをつけろと言われるのも嫌だった。初潮でお赤飯を炊かれたときには情けなくて泣きました」

「……」

「修学旅行のお風呂だって、女子部屋だって」

「そうか……」

「本当は女子トイレに行くのだって嫌だった。いまは小学校でもLGBTQに理解のある先生が増えたと聞きます。トイレに行くのを我慢しちゃう子もいるから、教職員用のトイレを使わせてくれたり、配慮のある学校もあるそうです」

「そうか……。考えてみれば、学校は何でもかんでも“男子”と“女子”に分けるから、辛いことも多かっただろうな。悪かったな」

「謝らないでください。先生には救われたから、むしろお礼を言いたかったんです」

「救われた?」

「保健の授業だったかな。“思春期になると異性に興味をもつようになります”って教科書に書いてあったけど、先生はこう言ったんです。“そうとは限らないけどな。同性同士で好きになるってこともある。先生の友達にもいるよ。性に限らず、世の中、いろいろな人がいるけど、違っていて当然。その個性を認め合うことが大事だと思うよ”って」

「ああ、言ったかもしれない」

「あの言葉で救われたんです。自分のことを男子だと思うことを“変”と思うのもやめたし、人と違ってもいいんだと思い始めたらラクになりました。本当に感謝しています」

僕の何気ない言葉に救われたというスーツ姿の有紀が眩しかった。LGBTQは外見だけではわからない場合もあり、特別な配慮ができないこともある。だが、「個性を認めよう」と教師が発信することだけでも、LGBTQの子供たちは救われるのだ。

取材・文/谷口のりこ  イラスト/ふわこういちろう

『教育技術』2020年6月号より

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