「初期対応」でトラブル回避~連載小説「教師の小骨物語」 #3

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新米でもベテランでも、教師をしていると誰でも一つや二つは、「喉に詰まっている”小骨”のような」忘れられない思い出があります。それは、楽しいことばかりではなく、むしろ「あのときどうすればよかったの?」という苦い後悔や失敗など。そんな実話を取材して物語化して(登場人物はすべて仮名)、みんなで考えていく連載企画です。

3本目 「初期対応」でトラブル回避 けがをした子供を家まで送り無事解決?

給食が終わって、お昼休みの清掃の時間のことだった。ぼく(須藤俊哉・当時教師4年目)が担任している5年2組の教室から、「大丈夫?」「立てる?」という女子たちのざわめきが聞こえてきた。廊下の掃除を手伝っていたぼくはすぐに駆けつけた。すると、そこには右足の足先を押さえて、うずくまっている竹内絵里の姿があった。

「どうした?」

「絵里ちゃんと美香ちゃんが一緒に机を運んでいたんだけど、美香ちゃんが手を滑らせて机を絵里ちゃんの足の上に落としちゃったの」

周りにいた子が興奮気味に教えてくれ、手を滑らせた美香は絵里の傍らで、「ごめんね」を繰り返している。

「竹内、大丈夫か? 立てるか?」

「大丈夫です。立てます」

「そうか、よかった。大したことなくて」

絵里は、少し足先を浮かして、歩き出した。

「念のため、保健室に行って養護の先生に見てもらったほうがいいな」

「はい」

「誰かに付いていってもらうか?」

「一人で大丈夫です」

「そっか、じゃあ、気を付けて行きなさい」

養護の先生は、直接机が当たった足の小指をアイシングしてくれ、「見たところ、異常はないわね。時間がたてば腫れもひくでしょう」と絵里を教室に帰した。ぼくは念のため、昼休みに保護者に電話をしたが、留守で連絡がつかなかった。そして、絵里は普通に5、6時間目の授業を受けたが、下校のとき少し痛そうにしていたので、再び保護者に電話をした。しかし、まだ不在のようだったので、ぼくは絵里を家まで送っていった。夕方にはようやく電話がつながったので、事故の状況を伝えた。

「念のため、家まで送らせてもらいましたが、まだ痛いようでしたら、お医者さんに行ってください」

「わかりました。わざわざ送っていただき、ありがとうございました」

教室の中のちょっとした事故だったが、母親の「ありがとうございました」で、ぼくはホッと胸を撫でおろした。

初期対応の甘さは、後々自分に返ってくる 状況把握は、その場ですぐ!

翌日、絵里は欠席した。もともとは神経質で、痛みに弱いタイプの子だったが、昨日は友達の手前、我慢をしていたのかもしれない。

ところが、午後になって絵里の母親から電話があり、暗雲が立ち込めてきた。

「絵里の足の小指、折れていたじゃないですか! よく聞いてみたら、保健室には一人で階段で行かされたそうですね。すぐにお医者さんにも連れて行ってもらえなかったなんて……」

「申し訳ありません」

学校から病院に連れていくのは、原則的に保護者の許可が必要だ。昼休みに電話したとき、連絡がつかなかった。

でも、そんな言い訳をしても火に油を注ぐので、ぼくはひたすら謝った。学校には普段は子供たちには使わせないエレベーターがあるが、それに乗せて自分が保健室に付き添うことだってできたと、心が痛んだ。
さらに、祖母からも学校に電話があった。

「都会の学校は冷たい。かわいい孫が骨折したと聞いて、私、泣けてきました。事故は仕方ないけど、もう少しちゃんと対応してください」

夕方には、母親が来校した。

「どういう状況だったのか現場を見せてください。養護の先生にもお話が聞きたいです」

どういう状況だったのか、実のところ、その場で子供たちに“実況見分”したわけではない。後になって聞いてみても、「手を離したのは私だったかも」「両方同時だったかも」とはっきりしない。

「先生はその場にいなかったとしても、ちゃんと確認しなかったのですか!」

母親に責められても、返す言葉もない。
その後、絵里の骨折が治るまで、車椅子で社会科見学に連れていったり、できる限りの対応をした。

完治してみれば、母親も「あの時は私も感情的になっていました」と言ってくれたが、この一件で、ぼくはかなり慎重になった。

「初期対応」。これに尽きる。何か起こった時、保護者にもちゃんとした報告ができるように、“その場ですぐ”の即時性が大切だ。子供たちは後で聞いても覚えてないし、悪気なくいい加減な証言をしたりもする。

自分の反省点も多い。管理職にすぐに報告をしなかったこと、保健室や病院に自ら連れていく手間を惜しんだこと。自分のクラスの対応は、ほかの先生にお願いすることもできたはずだ。

この一件から8年経った今、ぼくは「初期対応」に細心の注意を払い、何があっても後々のトラブルは起こさないようになった。今でも思い出す苦い経験のおかげだ。

取材・文/谷口のりこ  イラスト/ふわこういちろう

『教育技術』2020年2月号より

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