「めあてを書く活動」をより意義あるものにするためのアドバイス|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
夏休み明け、「二学期のめあてを書きましょう」と指示を出す先生も多いでしょう。大切なのは「一人ひとりにとって意味のあるめあてになっているのか」ということ。今回は、子供たちのやる気を引き出す指導に定評がある「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 に、どうすれば子供たちに、意味のあるめあてを考えさせることができるのか、アドバイスいただきました。
目次
形骸化しがちな「めあてを書く活動」
長期休暇を終え、新学期を迎えるタインミングで、「二学期のめあてカードを書こう」など、めあてを考える活動を取り入れる学級も多いのではないだろうか。
この「めあて」を書かせる活動が、本当に一人ひとりの子供たちにとって意義ある活動になっているのか、単なる形式的なものになっていないか、ふり返ってみることも大切かもしれない。
もちろん、「(今度こそは)字をきれいに書けるようになりたい」「(〇〇さんみたいに)計算が早くなりたい」「(先生に叱られないように)整理整頓をしっかりやる」といった明確な動機があり、目標を立て、そのためにがんばろうとはり切っている子もいるだろう。
しかし、恐らくクラスの中には「はっきりとめあてが見つからない」「がんばりたいことが自分でもよくわからない」という子も多いのではないだろうか。
そして、「とりあえず、友達と同じめあてを書くだけ」「とりあえず、一学期と同じめあてを書くだけ」という子もいるだろう。
休み明けすぐに「めあて」を見つけることは難しい
ボクは学期のはじめに、無理やり「二学期のめあて」というゴールを設定させなくてもよいと思っている。
夏休み明けにすぐに、12月の自分がどうなっていたいのかイメージしようと言っても、子供たちにとってはなかなか難しいことだ。
「将来の夢は?」と聞かれても、まだ「考え中」という人もいるよね。それなのに、「いますぐあなたの将来の夢を書きなさい」と言われても困ってしまうし、無理やり思いついたことを書いたとしても、そのために何をがんばりたいのか、ちゃんと踏み込んで考えることはできないだろう。
二学期が始まり、新しいことを学んだり、経験をしたりして、自分なりの引き出しを増やしながら、本当に自分がめざしたい「めあて」が少しずつ見えてくる、ということもあるはずだ。
そもそも、世の中的には、「夢」や「目標」がはっきりしている人はえらい、と評価する風潮があるけれど、「めあて」や「将来の夢」を掲げつつ、そのために何もせずにぼんやり過ごしている人もいるよね。だったら、夢や目標ははっきりしていないけど、今自分にできることはきっちりがんばっているという人がもっと評価されてよいんじゃないかな。
めあてが決まらない子にどうアプローチするかが大事
もちろん、何も考えずに新学期をスタートしてもよいというわけではない。ゴールを決めることで、そこまでのプロセスも決まってくるわけだから、めあてを決める活動そのものはとても大事だと思っている。
でも「とりあえず先生が『何か書きなさい』と言っているから適当に書けばいいや」となってしまうと意味がない。めあてが決まらない子や迷っている子に対して、どう先生がアプローチするのかが大事だと思っている。
例えば、学期のめあてが決まらない子には、無理に二学期全体のめあてを書かせずに、「今月は何をがんばるのか」を真剣に考えさせてみる。
今月がんばりたいことが決まらない子供には、「今週、自分は何をがんばりたいのか」を考えさせる。
今週何をがんばりたいのかが決まらない人は、「今日は何をがんばるのか」を具体的に考えさせてみる。
もしくは、ゴールを一つ設定するのではなく、こんなふうになりたいなと思うこと、来週までにやってみたいことなどを複数挙げさせて、その中で毎日自分なりに努力を積み上げていけそうなことにいくつかトライさせながら、ふり返らせ、少しずつめあての輪郭をはっきりさせていくのもよいだろう。
やりたいことを複数設定する「コネクティング・ドット」
ボクは子供たちに、自分ががんばってみたいことや興味があることを複数考えさせることを「コネクティング・ドット」と呼んでいる。
一つの大きなゴールを設定させるのではなく、その子の周りに小さな点の目標「ドット=・」を増やして、それらをいつか「接続=connecting」 していくことをイメージしているんだ。
もちろんゴールが一つだと、今の自分とゴールまでの道のりを直線で結んであげられるので、そこまでのプロセスも明確になるだろう。
でも明確なゴールは設定できなくても、自分の周りにたくさんドットをばら撒いていれば、今の自分をいろんなことにつなげられるし、いろんなことに興味をもつことができるかもしれない。そして直線ではないけれど、いろんな絵を描くことができる。それが結果ゴールになる、ということもアリなんじゃないかな。
「努力してできるようになった経験」の積み重ねが大切
その「ドット」は、子供自身にも探させるけれど、子供たちが欲しがるような工夫をして、教師が意図的に撒いてあげてもよいと思っている。
なぜなら、小学生のうちは安易なドット(目標)に飛びつきがちだからだ。さらに子供たちは見通しがもてないので、自分からどうすればそこにたどり着けるのか、掘り下げられない。
また「こうなりたい」という目標に対して、「そのためにどうするの?」と聞くと、「練習をたくさんする」といったぼんやりとしたプロセスを描きがちだ。だから結果的に「努力して、これができるようになった」という経験を増やすことができない。
しかし、子供の成長を願うのであれば、「真剣に取り組んで努力して、こんなことができるようになった」という経験を積ませてあげることが大切だよね。
そういう意味でも、「すぐにはたどり着けないけれど、こうなりたいな」と子供たちが思えるようなドットを、ある程度大人が上手にばら撒いてあげることも必要だと思う。
そうやって知らず知らずにドットが増えていくことで、子供自身がもっと自分でもドットを増やしたいと思うかもしれないよね。
そして「こうなりたいなら、今日どうするの?」「あなたはそのために今何をするの?」と聞いて、見通しをもたせたり、努力を積み重ねるプランを子供と一緒に練ってあげたりすることが重要なんじゃないかな。
そうやって、自分や大人が撒いたたくさんのドットの中から、「自分がどうなりたいのか」を子供に選び取らせ、「そのために今できることを真剣にがんばる」という時間を子供と一緒に積み重ねながら、学期の終わりには、「努力してこんなことができるようになった」「がんばってこれを達成できた」という経験を一つでも増やしてあげたいなと思っている。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵