困った親7つのタイプ(後編)【現場教師を悩ますもの】

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諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」
特集
知っておきたい「保護者対応」関連記事まとめ

「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

前回に引き続きテーマは「保護者対応」。20代の学級担任にとって保護者の存在は悩みの種。苦手でもつき合わないわけにはいきません。そこで保護者のタイプを大別し、どう対応するのがベターか諸富先生に解説していただきました。

教師への攻撃が止まらない

前回(こちらよりご覧いただけます)、「困った保護者」には次の7つのタイプがいるとお伝えしました。今回はその後編、【タイプ5】から【タイプ7】をご紹介します。

【タイプ1】クレーム好きの保護者
【タイプ2】学校任せの保護者
【タイプ3】依存的な保護者
【タイプ4】子供を溺愛する保護者
【タイプ5】逆ギレする保護者
【タイプ6】家で子供に教師の悪口を言う保護者
【タイプ7】集団で教師のバッシングを繰り返す保護者

【タイプ5】逆ぎれする保護者

ある子供は数度にわたり、苦手な算数の時間に教室を飛び出して砂場で遊ぶことを繰り返していました。追随して数人の子供も砂場に行き始めたので、このままでは授業が成立しなくなることを懸念した学級担任が母親に連絡しました。

そうしたところ、「うちの子は、このとき、算数ではなく、砂場遊びをしたかったのです。こちらの学校では子供の個性は尊重してくださらないのですか!」と返ってきました。

教員が食い下がると、母親は「そういうことをしているのは、うちの子だけじゃないでしょう! なのに、なぜうちの子だけ言われなくてはいけないのですか」と逆ギレされたそうです。

このように教育方針が凝り固まっている保護者がいるものです。正面からやり合うとヒートアップするだけなので注意しましょう。

【タイプ6】家で子供に教師の悪口を言う保護者

テレビをはじめとするマスコミで、セクハラ教師や体罰教師の問題が報じられると、保護者が子供に向かって、「○○ちゃん、今度の担任の先生は大丈夫? なんかスケベな顔をしているじゃない」などと言ったりします。

これでは、子供の教師への信頼が損なわれ、指導がしづらくなります。また、「そもそも学校の先生って常識がないし、子供っぽい人が多いのよね! 何かあったらお母さんに言うのよ。教育委員会に訴えてやるから」といった言葉を子供の前で口にしてしまう保護者もいます。

近頃では、LINEなどで担任の先生の悪口を言うことで仲良くなり、グループをつくる保護者が多く見られます。保護者同士が、手っ取り早く仲良くなる方法として教師を利用しているのです。

しかし、これでは、当然ながら、子供は教師を軽蔑し、「先生の言うことなんか聞かなくていい」と思い始めます。親がバックについていると、子供は教師に対して強く出ます。

これはたまらないな、と思った事例を最近、耳にしました。

授業参観がありました。国語の授業でした。授業が始まると、授業参観を訪れたある保護者が突然、「発問の意図がわかりません」と言い出したのです。それからその保護者は自分の意見を滔々と述べました。保護者は失職中の元教員だったのです。

自分を解雇した学校に文句を言えないので、子供が通う学校の担任にからんで難癖をつけたのでした。自分の子供に限らず、そのクラスの子供たちに、「ああ、この担任は授業が下手なんだな」と思われてしまいます。

実際にはそうではないかもしれないのに、そうレッテルを貼られてしまったも同然です。元教師で実情を知っているだけに非常に手ごわいのです。

このタイプに対応するには、子供のほうから、「お父さん、止めてよ」「お父さん、恥ずかしい」などと言ってもらうのが理想です。その子が「いじめられる可能性が出てくる」とわかれば、さすがに保護者にもブレーキが利くからです。

【タイプ7】集団で教師のバッシングを繰り返す保護者

ある公立小学校では、学校に批判的な親数十人がLINEのグループでやりとりをしているうちに、不満がヒートアップしました。数人の親が校長室に乗り込んできて、「即刻、担任から降ろすように!」と直談判しました。

騒ぎが大きくなるのを恐れた校長が一時的に担任をはずしたところ、ショックを受けた担任はそれが原因で精神疾患に陥ってしまいました。

このように保護者集団からのバッシングで休職や退職に追い込まれる先生は少なくありません。最近の教師が恐れているのはLINEのグループです。これは見えないところで行われているから怖いのです。教師に対する炎上だけではありません。

LINE上では、特定の子をターゲットにしたいじめ、それを引き金にした不登校の発生、保護者の中での仲間はずし、辞めろコールが原因のうつ病発症など、至るところでLINEグループが引き起こす炎上が問題になっています。「LINEさえなければいいのに」と思っている先生方は少なからずいることでしょう。

こういう事態には、学校管理職と担任が協力して正面から対応する必要があります。決して担任個人で対応してはいけません。もし非があるならば非を認め、保護者に対してしっかり頭を下げるのです。

こうしたケースでは、保護者との関係性が壊れていることも多いでしょう。「みなさんとの信頼関係を改めて築いていきたい」と、仕切り直す機会を持ちたいものです。

保護者から「この先生に非があったとしても、一生懸命なのだな」と思ってもらえるような場にすることが大切です。誠実に向き合うしかありません。

ここに紹介した「困った保護者」はごく一握りの保護者のことです。もちろん大半の保護者は子供を愛する、きちんとした方です。

しかし、「教師を辞めたい」と訴える先生方が、少なからずなんらかの形で今、「困った保護者」からの攻撃を受けています。こうした「困った保護者」たちからの攻撃に心を傷つけられ、学校管理職から守ってもらうことができずに、心を病み、休職などに追い込まれている教師が増えているのです。


諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/高瀬康志

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