子どもたちの声を生かして学校を変える! トイレ改修にトライだ【6年3組学級経営物語9】
通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「低学年トイレの改修」にトライします。
学校は、子どもたちの声にどれだけ耳を傾けているのでしょう。トイレが汚い、薄暗い、怖い…。そんなトイレを改修するにあたり、子どもたちの思いや願いを生かしたい--その志を果たすべく、期間限定で先生たちが大結集します。その名は「チームトイレ」! さあ、夢のトイレの実現に向けてレッツ トライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
8月①「トイレの改修」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。
神崎先生(神崎のぞみ/かんざきのぞみ)
高学年の音楽・家庭科の専科講師。インクルーシブ教育にも携わる。大学4年生のときに交通事故で片足をなくし、入退院で休学、留年(渡来先生と同じ年齢)。一度諦めかけた教師の夢へと一歩を踏み出し、西華小の常勤講師に就く。大学時代は陸上選手として活躍し、体力には自信あり。
ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職5年目。2年担任。2年後輩のトライ先生を励ましつつも一歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
チャラセン(最上英雄/もがみひでお)
新採教員で、2年を担任。教育実習のときに付いたあだ名は「チャラセン」。”チャラい”言葉を使うイマドキな新任教師。クラスでは、ふだんは子どもたちから「ヒーロー」と呼ばれることも。
大河内先生の志とは…
「あれはイワオジ…、いや大河内先生っすよ。あんな場所に子どもたちを集めて、何してんのかな?」
6月初旬の昼休み。廊下の先の低学年トイレを見つめ、最上英雄先生が傍らの渡来勉先生に囁きました。クリップボード片手の大河内巌先生を、大勢の子どもたちが囲んでいます。その行動の理由を、渡来先生は知っていました。
それは数日前…。帰宅前の職員室、寛いだ時間の中で、自らの〝志〟を語った大河内先生。その時の言葉を、改めて噛みしめる渡来先生。
「…子どもたちの思いや願いに向き合う学校づくり。その志を果たそうと、教務主任として頑張ってきた。君にも児童会や総合的な学習の実践等、随分協力してもらったな。感謝しているよ」
「お礼を言うのは私です。お陰様で、視野が随分広がりました。学級から学年、学校にまで…」
頭を下げる渡来先生に、首を振る大河内先生。
「だがな、志を果たすには知恵と力をさらに結集せねば…。今度、学年や校務、職種を越え、課題解決に特化したチームを提案するつもりだ」
この夏、老朽化した低学年トイレが改修される。けれど、従来の規格に従った改修では、子どもたちが望むトイレは実現しないと力説。
「だからチームトイレ、低学年の声を生かす、期間限定のシンクタンクだ。聞いてくれるか」 ・・・ポイント1
ポイント1 【シンクタンク的な組織活用】
学校組織は大半がトップダウン的ですが、創造的な意見や提案をボトムアップする形態も大切です。その場合、いつも個人的な努力に負うより、課題達成型チームでシンクタンク的に活動する方が、よりよい成果を得られるでしょう。そして、それが全員の課題意識の向上に繋がります。シンクタンク的な活動は、学校活性化の一助となるでしょう。
若手パワーが学校を変える
放課後の6年2組。さっき中断した会話を再開する渡来先生と、腰が引けていく最上先生。
「低学年の声を生かして、子どもたちの望むトイレ改装にトライする。やりがいのある仕事だ」
「絶対無理っす! トイレなんて興味無いし」
溜息をつく渡来先生。その時ドアが開きました。神崎のぞみ先生と葵ゆめ先生が、二人揃って現れました。ニコニコしながら席に着きます。
「メンティー仲間で頑張りましょうね、最上先生」
「怖い、汚い、薄暗い…。トイレに行けない低学年が大勢いるわ。子どもたちが喜ぶトイレ改修は、2年担任としても大歓迎。ねえ、最上先生」
「え…。う、ういっす。今その話をしていて…」
慌てる最上先生を無視し、話を続ける葵先生。
「どんな色や模様で、トイレを彩ってほしいか…。それを子どもたちに聞く学校って、初めてだわ。でも、とっても大切なこと。私たちのパワーで、学校を変えるのよ。ねえ、最上先生!」
「最上先生、センス良さそう。期待度大です!」
神崎先生の言葉で、考えを変える最上先生。
「ういっす! 俺、チームトイレ参加決定です」
動き始めた同志に、心を躍らせる渡来先生でした。
チームトイレ誕生!
そして6月の職員会議。会議資料『低学年トイレ改修について~チームトイレ~』が、各々の机上に置かれたパソコンに表示されます。立ち上がった大河内先生が、説明を始めました。
「低学年トイレについて、独自調査をしました。その結果から、困り感や改修への期待がよく伝わります。けれどその期待には、通常の改修では応えられないでしょう。そこで校長先生にご了解いただき、子どもたちの声をトイレ改修に生かす臨時チームを設置します。ご参加いただける方々は、後ほど会議室にお集まりください」 ・・・ポイント2
しんと静まる職員室。提案への関心の低さが伝わってきます。その時、いつも寡黙な学校用務員の山田さんがスッと立ち上がりました。
「うちの坊主も、低学年の頃は学校のトイレが苦手だった。だから子どもの意見を生かす改修には大賛成。…関心低そうだけど、絶対によりよい学校をつくる活動になると、俺は感じるよ」
語り終えて席に着く山田さん。そのゴマ塩頭を見つめ、渡来先生は心の中で拍手をしました。
ポイント2【子どもたちの声を生かす】
北欧の生徒会には、「学校経営に意見を述べる」という役割があるそうです。このような考え方は、我が国でも児童の参画意識を高めるために重要です。子どもたちの声(思いや願い)をどこまで学校経営に取り入れるか―それは、これからの学校を考えていくための大切な視点となるでしょう。子どもたちの声を生かす教育的システムの構築が必要だと考えます。
ミッションスタート!
「頼もしい顔ぶれだ。みんな、よろしく頼むぞ!」
会議室の渡来、葵、神崎、最上の各先生、そして高杉静先生、望月さくら先生、学校用務員の山田さんに頭を下げる大河内先生。ニヤリと笑う山田さん。
「施設設備の点検や改修は、俺の仕事だからな」
「百人力だ、職人肌のヤマさんの参加は。改修案の具体化や実際の作業…、頼りにしているぞ」
笑顔で応え、資料片手に説明する大河内先生。
「これは現在のトイレの問題点。こちらは低学年からの要望。この全てを検討し、夏休みまでに改修案をいくつか考えよう。そして低学年の意見を参考に絞り込み、最終案を選ぶ。夏休みの改修工事で、施工業者と連携しながら実現する」
懸命にメモする望月先生。卒業生を送り出し、今年度は5年担任です。高杉先生が提案します。
「私の子どもの保育所にはメルヘンチックなトイレがあり、ネット等からもユニークな施工例が得られる。様々な情報を集め、よりよいアイデアを練り上げたい。そのために努力をします」 ・・・ポイント3
自由参加で許容的な雰囲気に、次々発言する葵先生や神崎先生。けれど渡来先生は、鬼塚学先生の姿が見えないことが気になっていました。
ポイント3【トイレの施工情報】
インターネットでは、「学校トイレ改善の取組事例集の作成について(H23,11,10 文部科学省)」や「学校トイレ事例(学校のトイレ研究会)」等から施工情報を閲覧できます。また施工、製品等のメーカーによる事例紹介からも、様々な情報を得ることができます。それらの情報が、実施可能なアイデアを考えていく貴重な資料となります。
(次回へ続く)