部下を守るのは学校管理職の務め【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
前回(こちらよりご覧いただけます)は、バーンアウト(燃え尽き症候群)について解説しましたが、今回はその対策について。教師の負担感を減らすために、学校管理職が今すぐやるべきことがあると、諸富先生は話します。
目次
コロナ禍でさらにストレスが蓄積
最近、先生方からこのような話をうかがいました。校長が次から次へと研究指定を引き受けてくるというのです。自分の手柄を上げるためです。そうすると、教職員の不満は溜まり、職員室の空気も悪くなります。
「利用されている」感じがするからです。教員の飲み会で学校管理職、特に校長の悪口が噴出することは少なくありません。校長はもちろん教職員の不満が溜まっていることに気づいていない。そういう事例が多いと私は感じています。
また、現在、学校で恒常的な問題となっているのは、非常勤講師が不足しているという問題です。常勤の教員が増えない分を非常勤講師でまかなって学校運営をしているところが多いのが現状です。しかし、全国的に見て、非常勤講師のなり手がいないのです。そのため、特定の教員に負担がかかっています。
それに加えて、新型コロナ禍の発生です。学校の消毒作業や清掃の繰り返し、学校行事の変更、延期の事務作業などにより、さらに仕事量が増えています。そんな状況で緊急事態宣言が出され、飲食店が時短営業を余儀なくされました。愚痴をこぼせる機会がなくなった教員のストレスは蓄積するばかりです。
「また公開授業研究を行うのか」
「自分の手柄を考えている校長につきあわないといけないのか」
その学校の教職員に校長に対する恨みつらみがさらに溜まっていることは想像するに難くありません。
この話は、バーンアウトにならないための対策を示唆しているように思いました。学校が組織としてどのような対策をすることができるのかを考えたとき、まず学校管理職ができることは、「研究指定校を引き受けない」ことです。
ワンマン型ではなく対話型
いくつも研究指定校を引き受けている学校がありますね。学校管理職には、全国研究大会や研究指定校になるなど大きなイベントをやりたがる人がいます。ごく少数だと思いますが、自分の実績を上げるために自分から研究指定を要請する学校管理職もいるようです。
十分な人員がいない学校では、学校管理職は研究指定校を受けない、あるいは公開研究会をしないということを考えてもいいように思います。少なくとも、自分が学校管理職のうちは、「研究指定校を受けない」という決断があってもいいかもしれません。
この学校はいくら何でも研究指定校をやりすぎていると思った場合には、腹を決めて学校の方針を変えるのです。もちろん研究指定校になるかならないかは自分が決めることだというワンマンな校長もいることでしょう。しかし、それは常にハラスメントの危険をはらみます。
そうした場合には、「校長に話が通じる先生」を通して、「もう限界です」などと教職員の意見を伝えてもらうといいかもしれません。これも、一つの手です。
教職員が支え合うような同僚性の高い職場をつくるには、校長は教職員の一人一人と話すことが大切になってきます。今はワンマン型ではなく、対話型の校長でないと通用しません。
根本的な解決策としては、「教員の仕事量の総量を減らす」ことです。現在進行中の働き方改革は教員の仕事量の総量を減らすものではなく、根本的な対処にはなりません。
「教員の仕事量の総量を減らす」というときに一番の対策は、教科のコマ数を減らすこと、学級定員を減らすこと、教員の数を増やすことの三つです。
しかし、それができないのであれば、少しでも教員の負担を減らすために、研究指定校を引き受けないという方針でいくのです。学校管理職になると、これまでの慣例通りがいいという考えに陥ってはなりません。大胆な方針を示して「学校管理職として部下を守る」具体策をねっていくことです。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/高瀬康志