究極のなんでも屋、教頭・副校長先生に送るエール
「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による連載です。多くの著書を通して ①多忙化・ブラック化、②学級経営、子供への対応の困難さ ③保護者対応の難しさ ④同僚や管理職との人間関係の難しさ、という「四重苦」が学校の先生を追いつめていると警鐘を鳴らしてきた諸富先生に、教育現場の現状やそれに対する危機感、そして現場教師へのアドバイスについて伺います。
目次
教頭や副校長の多忙感が問題に
前回、学校管理職との人間関係が教員の一番の悩みであるという話をしましたが(前回の記事はこちらよりご覧いただけます)、学校管理職である教頭や副校長の方からも、人間関係の悩みを多く聞きます。
校長と教員の間に挟まれた教頭や副校長の先生には、中間管理職という立場からくる独自の悩みがあります。 今、教師の多忙感が大きな問題となっていますが、その中でなかなか注目されていないのが「教頭や副校長の多忙感」です。
「20年前に比べて教頭の仕事量は倍になっている」と語ってくれた元教頭先生や、「多忙感では、教員よりも教頭のほうが上だ」と語ってくれた先生もいます。教頭や副校長の多忙感は非常に大きくなっているのです。
実際に全国公立学校教頭会の調査(2018年5月公表)によれば、教頭・副校長の勤務時間は1日12時間以上、過半数が年次休暇の取得は5日未満でした。つまり過労死ラインを超える働き方が常態化しているのです。
そもそも教頭・副校長の仕事は、大量の書類さばき、関係諸団体との連携・折衝、休んだ教員のフォロー、クレーム対応……と実に多岐にわたります。その仕事を一気に増やしている原因の一つは、学校づくりの方向性として「地域に開かれた学校づくり」を行っていることが挙げられます。
学校が地域に開かれるとき、誰が学校の窓口になるのかといえば、それは教頭や副校長の仕事になります。教頭や副校長は学校の誰よりも帰るのが遅く、てんてこ舞いの状況です。教頭や副校長は学校のオール雑務係であり、究極のなんでも屋なんですね。
すべては校長になるためのステップと信じて
それでは、なぜそれほど頑張れるのでしょうか。それはやはり、校長になるためのワンステップだと思って歯を食いしばって頑張っているからです。非常に忙しいのは今だけだと自分に言い聞かせて、あまりにも多忙な日々を凌いでいるのです。
しかし、教頭や副校長になったからといって、必ずしも校長になれるわけではありません。多くの地域では今も、教頭や副校長は、たまたま上司となっている所属先の校長の推薦をもらわないと校長になれないのです。
そのような閉じられたシステムがあるために、教頭や副校長のまま定年を迎える人が一定数います。そういう現実的な問題が横たわっていることを忘れてはいけないと思います。
それゆえに、教頭や副校長の先生にとって一番つらいのが、校長との相性が悪いケースです。これもなかなか表面化しないことですが、教頭や副校長の中には、ずっと校長のハラスメントに遭っているという人が結構いるのです。
それが原因でうつ病になった人もいます。教頭や副校長の休職もめずらしくありません。
校長になるためのワンステップだと思って頑張ったり、非常に忙しいのは今だけだと自分に言い聞かせたりして仕事をすることには危険が伴います。自分の忍耐が報われず、教頭や副校長のまま定年を迎えることも十分ありえます。そのことを念頭に置いて、教頭の業務をこなしていくのです。
校長室で校長からこんこんと説教される、などという悩みをよく聞きますが、本当にかわいそうだと思います。校長が説教に走るのは、「学校に住む魔物」のせいではないかと私は考えています。
「学校に住む魔物」とは、教育現場のあらゆるところで、ハラスメントと指導の境界が曖昧になっていることです。
孤立しがちなつらい立場を周囲が理解して
おそらく校長には何の悪気もないことでしょう。この人のためにと思って指導しています。人は悪いことをしているという自覚があればそれを止めることができますが、よいことをしていると思えばそれを止めることができません。
校長としては、この人が将来校長になるために鍛えてやっていると思っているからストップがかからないわけです。だから校長は自分がハラスメントしていることに気づかない。
校長から2時間、3時間と話をされる日々が続くと、教頭や副校長のメンタルは壊れてしまいます。視線も合わさないでひたすらうつむいている姿が浮かんできます。
教頭や副校長がうつ病になるまで、こんこんと説教をしつづけた校長がいたという話もよく聞かれることです。
自分のしていることに酔ってしまう校長や、自分がしていることを客観視できない校長がいることも事実です。この記事を読んでいる校長先生には、ぜひ自分がしていることを振り返ってみてほしいと思います。
学校のトップである校長が、裸の王様になってはいけません。学校の中で校長にものを言える環境やムードがあるかどうかは重要です。中間管理職には、職場で対等な話をしたり、愚痴を聞いてもらえるような相手が作りにくかったりするところがあります。
立場的に、教頭や副校長は孤独になりがちです。校長も孤独ですが、話を聞いてくれる教頭や副校長がいるだけまだマシと言えます。教頭や副校長の孤立は、よりつらいものです。
愚痴や弱音を話せる相手もいない、同じ立場の人間もいない、校長とは上下の関係にある、仕事量は多い……。教頭・副校長先生の日々はしんどいものです。最近、教頭のしんどさをわかってくれる周囲の教員も増えているように思います。
見てくれている人は、見てくれているものです。日々の辛い仕事を耐えながら「よく頑張った自分」を、自分で認めてほめてあげましょう。
< 第5回へ続く >
第1回はこちらよりご覧いただけます→ 「いい教師」の条件とは?
第2回はこちらよりご覧いただけます→「本当にいい教師」とは、どのような教師なのか?
第3回はこちらよりご覧いただけます→学校の管理職に対して絶望しそうになったら?
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/高瀬康志