「1年単位の変形労働時間制」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】

改正給特法が2019年12月に成立し、自治体の条例によって、2021年4月から公立学校の教員に「1年単位の変形労働時間制」を導入できることになりました。この制度によって教員の働き方改革は進むでしょうか。

執筆/常磐短期大学助教・石﨑ちひろ

みんなの教育用語

学校における働き方改革の必要

教員の変形労働時間制は、2019年1月の中教審答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(以下、本答申)で提案されました。

本答申では、日本の学校教育の成果を認めつつ、そうした成果が「持続可能かの岐路に立っている」と明言されています。その岐路の1つが、教員の長時間労働です。

OECDの調査(2014年公表)「教員勤務実態調査」(2018年公表)によって、日本の教員の労働時間は、諸外国との比較はもとより10年前の調査と比較しても長くなっていることが問題となっていました。これを是正しなければ、「意欲と能力のある人材が教師を志さなくなり、我が国の学校教育の水準が低下する」と警鐘を鳴らしたのです。

そして、膨大になってしまった学校および教員の業務の範囲を明確にし、限られた時間の中で教員の専門性を生かしつつ、授業改善のための時間や児童生徒に接する時間を確保できる勤務環境を整備する必要性を述べています。

具体的には、学校と教員の業務を精選したうえで、①勤務時間管理の徹底、②適正な勤務時間の設定、③労働安全衛生管理の3点について改善することを求めました。

「1年単位の変形労働時間制」とは

そして本答申は、かつて完全学校週5日制への移行期間に行われていた長期休業期間の休業のまとめ取りをイメージしつつ、「1年単位の変形労働時間制」の導入を提起しました。

この制度は、労働者にゆとりをもたらすために労働時間の配分を業務の繁忙期と閑散期によって決めてもよいとするもので、企業での過労死問題を受けて改正した労働基準法(第32条の4)に規定されています。ただし、公立学校の教職員は1年単位の変形労働時間を実施することはできませんでした。

そこで2019年12月、教員の待遇にかかわる「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(以下、給特法)の一部を改正する法律案が衆参両院で可決されました。これにより、2021年4月から公立学校の教員に「1年単位の変形労働時間制」を導入できることになりました。

学校の業務には学期末・学年末などの繁忙の時期と児童生徒が登校しない長期休業期間などの比較的時間の余裕がある時期があります。その時期に休日を集中して確保することができれば、教員はリフレッシュの時間を確保し、児童生徒に対して効果的な教育活動を行えるようになり、教職の魅力向上につながる、というのがこの制度の導入を提起した理由です。

この制度を導入することにより、繁忙期の連続労働日数は原則6日以内、労働時間の上限は1日10時間・1週間52時間、労働日数の上限は年間280日、時間外労働の上限は1カ月42時間・年間320時間等の条件での勤務が可能となります。

あわせて、文部科学省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(2019年1月)を法的根拠のある「指針」に格上げし、2020年4月より施行しています。このガイドラインは、教師が専門性を生かしながら自らの人間性や創造性を高め、効果的な教育活動を持続できるようにすることを目指して制定されたものです。

自治体はどう判断するか

「1年単位の変形労働時間制」を導入するかどうかは自治体の判断によります。2020年12月1日現在、導入のために条例改正案を県議会に提出しているのは、北海道と徳島県のみです。なぜ、導入が進まないのでしょうか。

第1に、業務量が減っていない現実があげられます。2019年度は、学校閉庁日の設定や、留守番電話設定といったものは取り入れられつつも、部活動の指導・監督などこれまで教員が主に担っている業務や、多様化・複雑化する児童生徒への時間外での対応などの業務は、学校外で具現化させる手立てが見えてこない地域が多いと考えられます。さらに、新型コロナウイルスの流行により、教室の消毒やオンライン授業等のこれまでとは異なる教育方法への対応で教員の業務は減るどころか増えているとの声も聞かれます。

第2に、そもそも教職員定数改善が先だとする意見があります。多様化・複雑化している子どもたちを指導する際、現状の教職員定数では十分ではありません。たとえば、教員以外の専門家が参加する「チーム学校」を実現させるためには教員が関わらざるを得ないという現実があります。教員の仕事は、ここまでといった線引きのできない仕事、すなわち無限定性をもつ仕事なのです。

最善の教育を目指すために

教員の義務とされる研修に関しても、本答申では「夏季休業期間中の業務としての研修等の精選」を謳っています。言うまでもなく、教員にとって研修は義務です。繁忙期ではない長期休業だからこそ、教員は日頃の実践を省察しつつ、学ぶことができるのです。そうした機会を奪うことは、本当に教職の魅力化につながるのでしょうか。こうした背景から、教職員定数の改善が必要ですが、本答申において今後増加させる方向性は示されませんでした。

一方、教員の業務量を適切なものとするために、文部科学省はもちろん、各自治体の教育委員会、保護者、地域ボランティア等が主体となって進めるべき事柄が示されたことは、これまでとかく学校・教員が行ってきた業務を切り離す上で重要であったとも言えます。

変形労働時間制を導入することについては各自治体によって差がありますが、学校・教員には、子どもたちの最善の教育のために、他職種のスタッフ、保護者・地域住民とコミュニケーションをとりつつ、本務を充実させていくための積み重ねが求められていることに変わりはありません。

▼参考文献
中教審答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(2019年1月)
文部科学省「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」の告示等について(通知)(2020年1月)
中教審答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(2015年12月)
文部科学省(ウェブサイト)「学校における働き方改革について

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