不登校特例校が岐阜に新規開校「学校らしくない学校」 を目指して
小・中学校における不登校の子供の数は増え続けています。どの学校もスクールカウンセラーを配置するなどして対応するものの、小学校で不登校が改善しても、中学校で再び不登校になるケースもあります。2021年春、岐阜県岐阜市に不登校特例校の公立中学校が開校します。どんな学校になるのか、その試みをレポートします。
目次
目指すのは、「学校らしくない学校」
2021年4月、岐阜市に公立の不登校特例校が開校します。
当校には、これまでの学校という枠の中で学校に行けず、不登校を経験した生徒が入学または転入することができます。不登校特例校とは、不登校の児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成する学校をいいます。
校名は岐阜市立
場所は岐阜市の中心部にあり、校舎は廃校となった小学校を使用します。定員は40人。1学年1学級13人程度を予定し、市内全域から不登校生徒を募集します。教職員は20人程度と通常の中学校よりも手厚く配置します。転入学希望者には、個別面談を行い、専門家らが適性を判断します。
目指すのは、「学校らしくない学校」だといいます。思い描く学校像について、岐阜市教育委員会不登校特例校設置準備室の井上博詞室長と岡村俊哉さんにお話をうかがいました。
「あなたに学校が合わせる」がコンセプト
昨年度の不登校の児童生徒数は全国で18万人を超え、過去最多を更新しました。学校を30日以上欠席していると、その子は不登校とみなされます。不登校中学生の割合の全国平均は3.9%、岐阜市は約4.4%。増加傾向にあることから、不登校特例校の設置に踏み切りました。
いったいどんな学校にしようとしているのでしょうか。市教委の井上室長はこう語ります。
「学校というと、毎日登校するのが当たり前で、決められた教室や席があり、授業を受けるしくみになっています。これは、多くの子供を指導、支援するのに適している制度なのだろうと思います。しかし、学校に馴染めない子供にとっては、それに適応するのが難しい。本校では、学校のしくみに子供が合わせるのではなく、学校が子供に合わせた教育を行っていきます。学校らしくない学校を目指していると言ってもよいかもしれません。学校案内のパンフレットには、『ありのままの君を受け入れる新たな形』という言葉でメッセージを送っています」
当校では、毎日必ず登校する必要はありません。授業カリキュラムを選べることも当校の特色です。
日課表モデルは3つ用意されています。
日課表①(上図)は家庭学習を基本にするコース、日課表②は家庭学習と学校での学習の混合コース、日課表③は毎日登校するコースです。
始業は午前9時30分。全員にタブレット端末を貸与し、その日の学習予定などの確認をオンラインまたは面談で実施します。
「本校の設置にあたり、有識者、フリースクール代表の方、不登校の対応をしてきた関係部署にお話をうかがうほか、数名の不登校の子にヒアリングしています。外に出られない生徒に対する教育保障を考え、家庭学習を基本とするコースを設定しました。これが本校の最も学校らしくないところだと思います。始業時間も通常の学校と違い、1時間遅らせています。地元の同級生と顔を合わせたくないという不登校の子の気持ちを考慮しました」(井上室長)
「そのほか、校則、校歌、制服、給食もありません。開校後、生徒が必要に応じて取り入れていくことになります。本校は生徒と一緒につくる学校だと思います」(岡村さん)
担任は生徒の希望で決める
不登校の子供には、担任の先生とうまくいかない子もいます。4月の転入学時に一応の担任を決めておき、5月の段階で生徒が担任を選ぶことができるしくみになっています。自分が話しやすい先生が担任になります。コミュニケーションを重視している表れでしょう。
冒頭に記したように、教員の数は20人程度を予定しています。どのような教員を想定しているのでしょうか。井上室長はこう話します。
「不登校の子の中には、一方的に押しつけられたり、こうしなさいと決めつけられたりすることに抵抗感のある子もいます。教員の選定にあたっては、担当教科のバランスに配慮するとともに、やはり一人一人の子供に寄り添えるような教員や、不登校の子供とともに歩んでみたいと思う教員に来てもらいたいと思います」
当校では、生徒の負担を考え、年間の授業時間を770時間(一般校は1015時間)としました。授業には、地域ボランティアや民間企業の協力による体験学習も組み込む予定です。
「今は不登校であっても、自分のペースで学校生活を送ることで自分の才能に気づくかもしれない。草潤中の卒業生が作曲家となって、今はない校歌を作曲してくれるなどということがあればいいですね」(井上室長)
取材・文/高瀬康志
『教育技術 小五小六』2021年1月号より