ぬまっち流 夏休みの過ごし方|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
今年の夏休みは、コロナ禍の影響で参加するはずだった研修会やセミナー等が中止になったり、夏休み自体が短縮となり、時間を調整して研修会に参加することが難しいという先生も多いのではないでしょうか? カリスマ教師、沼田晶弘先生はこの夏休みに、どのように自己研鑽を行う予定なのか聞いてみました。
目次
学校以外の情報をインプットし、自分なりに考え、アウトプットする
教員という肩書がある以上、長期休暇であっても、学級経営や教科指導に関わることは、恐らく放っておいても情報が入ってくるし、無意識のうちに自分でも考えるクセができている人が多いんじゃないかな?
むしろ、意識しないと考えないし、情報が入ってこないのは、学校以外のこと。
考えてみれば、学校という場所は少し特殊な環境だよね。世の中には、学校の先生以外の職業のほうが断然多いわけだし、そうしたさまざまな職業についているご家庭のご子息を教えているわけだよね。
だから、学校の中では常識だと考えられていることが、世の中では常識として通用しなかったり、世の中では割と簡単に解決していることが、学校の中では解決できていないこともある。
もちろん、学校が特殊な立ち位置にあることには、それなりの理由があるわけだろうし、どっちがよい、悪いということではない。
ただし、教師としても、大人としても、いろいろな世界のことを知っていたほうがよいだろうと思っている。
特に今年はコロナ禍によって、学校はもちろん、日本中、世界中が大きく揺れている。
これはいつも意識していることだけれど、時間に余裕があれば、とにかくアンテナを張っていろんな情報をインプットし、自分なりに考え、上手にアプトプットしたいと思っている。だって自分が知らない世界に触れるたびに、「すげー!」と思うことがいっぱいあるからね。
普段の生活の中から「なぜだろう?」を探し出す
コロナ禍で外出をある程度控えていても、インプットできる場所はたくさんあるよね。
例えば、5月に緊急事態宣言が出されたとき、 東京都は 緊急事態措置期間に営業自粛を決めた店舗に協力金を支給すると決めた。
しかし、それまで夜の営業をメインにしていたお店の中には、完全に1か月休業したお店もあれば、時間を短縮して営業を続けたお店もある。さらに昼間にテイクアウトを始めたりしたお店も多かったよね。なぜだろう、って想像してみる。
こうやってアンテナを広げておくと、いろんなことに関心が向くし、「なぜだろう?」って考えることでより世の中に対する理解が深まっていくのを感じるはずだよ。
テレビ番組も自分流に考察
これも緊急事態宣言で休校中の話。
ボクは、現代の医者が幕末の時代にタイムトリップしてしまう「JINー仁ー」という人気ドラマを動画配信サービスで観ていた。
初めて観たドラマだったので、見る順序を選び間違えたのか、最終回を最初に観てしまったんだ。
最終回がとても面白かったので、その前の話が気になり、結局第一話から遡って見てみることにした。
実はこの見方が意外に興味深かったんだよね。
「最終回にフラッシュバックで出てきた映像は、この場面で使われていたのか」とか、「最後のあの人のセリフはここに繋がるのか」など、いろいろな発見があった。ドラマの製作スタッフが、最終回に向けてストーリーを盛り上げるためにコツコツ仕掛けた工夫を一つずつ回収できて面白かったんだよね。
ドラマをすべて見終えた後、「こうしたドラマの構成を学習に生かすにはどうしたらいいのかな」って考えてみた。
例えば、ある程度結末を見せた状態で、その結末にたどり着くまで子供たちにいろんな紆余曲折を積ませていくのも面白いなと思ったんだよね。
ドラマを見ていてもう一つ考えたのは、主人公の南方仁は医者だから過去にタイムスリップしたときにものすごく人の役に立てたけど、ボクだったらあの時代に何ができるかなってこと。結局、ボクはあまり役に立ちそうもないから行くべきではないと悟ったんだけどね(笑)。
そして、「どんな知識を持っていると、あの時代に行った時に役立つかな」といったことを子供たちとディスカッションしても楽しいだろうなと思った。
例えば、時代によって重宝される職業は違うかもしれない。
「技術者はきっと役に立つよね」
「農業従事者など、第一次産業もかなり強いよね」
なんて話し合ったら、今まで気付かなかったさまざまな職業の魅力や技術進歩についても、考えるきっかけになるんじゃないかと思う。
「誘う勇気」さえあれば、視野はもっと広がるはず
こうやって考えると、教師としての自己研鑽は、研修会やセミナーでないとできないわけではないよね。
夏季休暇だからこそ、学校関係者以外のいろんな人と会って他の業界の情報をインプットし、視野を広げるとよいと思う。
感染防止を考えると、いろんな人と出会って話をするのは難しいと思う人もいるかもしれないけれど、ZoomやGoogleMeetなどを使ってオンラインでつながることもできるよね。
オンラインならわざわざ会場を予約したり、移動する必要もなく、開催時間も融通が利くから、遠方の人も近場の人も誘いやすい。
ボクもよく複数人数でオンライン飲み会をするけど、途中で抜けやすいから気楽に参加しやすいと言われる。 友人の中には、オンライン飲み会をはしごするツワモノもいるくらいだよ(笑)。
ZoomもGoogleMeetも、実際に使ってみると本当に便利だなと思うんだけど、周囲の人を見ていて、ちょっと足りないのかなと思うのは「自分から誘う勇気」。
断られてもいいから、「情報交換しようよ」って自分から誘ってみようよと思うけれど、そこにハードルを感じる人が多いのかな?
「誘う勇気」がスキルアップの一つのキーポイントと思って、ぜひチャレンジしてみてほしい。
夏休みは「考える姿勢」をふり返るチャンス
「誘う勇気」については、日頃から学生を見ていても思うことがある。
教育実習生に「ボクに何か聞きたいことがあったら聞きにおいで」って言うと、すぐに何でも質問にくる人もいれば、なかなか質問できない人もいる。質問しない理由を聞くと、「忙しそうだなと思って…」って言うんだよね。
「大丈夫だよ。いつでも聞きにおいで」と言っても、相当困ったことがないと相談にこない。ちょっともったいないよね。
ボク以外でも、そもそも先生になる人は、人にアドバイスするのが好きな人が多いよ。だから遠慮せずに質問したり相談するとよいと思う。「ボクは本当はこんなことをやりたいと思っています」という提案でもいいから、とにかく言ってみると、「もっとこうするといいよ」というアドバイスがもらえるかもしれないよ。
とにかく、場と理由をつくってコミュニケーションを取ってみる。それは必ず成長につながると思うよ。
アドバイスを受けたからといって、すべて鵜呑みにする必要はない。インプットしたら、「よく考える」ということが大事。
とにかく、「そんなことは無理」と考えず、どうすればできるのかを考えてみることが大切だと思う。
アドバイス通りに実践しても、うまくいくとは限らない。どうアレンジすれば自分のクラスで取り入れやすくなるのかを考えてみるといいだろう。
子供には「なぜ?どうして?を考えよう」「どうすればできるか考えよう」と言いながら、自分ではあまり「なぜ?」と問いかけたり、「どうすればできるだろう?|と掘り下げて考えることをしない大人が多いような気がする。
できない理由を見つけることは簡単だけれど、どうすればできるのか、自分なりに工夫することが面白いんだよってことを、本当は大人が自分の背中を通して子供に教えてあげなくてはいけなんじゃないかな?
夏休みは、自分の「考える姿勢|をふり返るよいチャンスなのかもしれないね。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。
取材・構成・文/出浦文絵