国際学力調査(TIMSS、PISA)【教育用語】

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教育分野で度々耳にするようになった新しい用語を、深く掘り下げて解説します。今回は「国際学力調査(TIMSS、PISA)」を取りあげます。

執筆/植草学園大学専任講師・小野まどか
監修/筑波大学教授・浜田博文

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世界の子供たちの学力を見る、2つの調査

日本の子どもの学力は世界で比べたらどのレベルだろうか、という問いには多くの教育関係者が関心を持っています。TIMSS(ティムズ)PISA(ピザ)も、国際的な機関が実施している世界の子どもたちの学力調査の名称で、日本の教育政策にも大きな影響を及ぼしています。

TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)とは

TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)は国際教育到達度評価学会(IEA)が実施しており、1964年の数学調査がその始まりです。

1970年には理科調査が実施され、1995年以降、数学と理科の調査が同時に4年ごとに実施されています。調査名と調査年とを組み合わせて、1995年の調査は「TIMSS1995」と表記されます。2015年の調査には、小学校で50の国・地域、中学校で40の国・地域が参加しました。

調査の目的は、初等中等教育段階における児童生徒の算数・数学及び理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し、児童生徒の学習環境条件等の諸要因との関係を、参加国/地域間におけるそれらの違いを利用して組織的に研究すること、とされています。

対象は小学4年生と中学2年生で、無作為に抽出された児童生徒が学力調査を受けます。2019年からはタブレットを用いた調査も実施されており、問題に示した図を回転させるなど、調査の出題方法にも変化が表れています。

あわせて、児童・生徒質問紙、教師質問紙、学校質問紙による調査も実施し、その回答傾向と得点との関係が分析されます。

PISA(生徒の学習到達度調査)とは

PISA(生徒の学習到達度調査)はOECD(経済協力開発機構)によって実施されています。2000年に初めて実施されてから3年に1回調査が行われています。TIMSSと同様に調査名と調査年とを組み合わせて、2000年の調査は「PISA2000」と表記されます。2018年の調査には、79の国・地域が参加しました。

PISAの目的は、「各国の子供たちが将来生活していく上で必要とされる知識や技能が、義務教育修了段階において、どの程度身に付いているかを測定すること」とされています。そのため、義務教育修了段階で15歳児である高校1年生等が対象になり、無作為に抽出された生徒が学力調査を受けます。

試験内容は、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3つの分野から構成されます。これらに加えて、「問題解決能力」、「協同問題解決能力」、「グローバル・コンピテンス」といった新しい分野の調査問題も開発され、随時出題されています。2015年以降は、コンピュータを用いて調査を実施することで、科学実験を画面上で再現し操作できる問題を取り入れています。

あわせて、生徒質問調査、学校質問調査も実施されています。

国際学力調査による教育政策への影響

TIMSSでは学校の教科の習得度合いを測定する調査が行われ、PISAでは「キー・コンピテンシー」(さまざまな問題を解決していく力としてOECDが定めた能力指数)に基づく特定教科の知識に限らない資質・能力を測定する調査が行われてきました。このような学力調査が国際的に実施され、その結果が各国から高い関心が注がれるという趨勢のもとで、「学力」概念は既存の教科内容に関する知識の習得度から、特定教科に属さない教科等横断的な資質・能力の習得度を示すものにまで拡張されてきました。

国際学力調査は、わが国の学習指導要領にも大きな影響を及ぼすようになっています。2016年12月の中央教育審議会答申では、2015年のPISAの結果でわが国の読解力の得点が下がっていることを問題視し、「確かな読解力を育んでいくこと」の重要性が述べられています。また、2017年に改訂告示された学習指導要領には、OECDの「キー・コンピテンシー」やPISAの「協同問題解決能力」を踏まえながら、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実現などが盛り込まれました。

国際学力調査をどのように利用するか

このように、国際学力調査の結果はわが国の教育の方向性に影響を及ぼすようになっています。わが国では、2003年のPISAで順位が下落し、いわゆる「PISAショック」が起きましたが、他の国でも同様なことが起こり、得点順位を上げるための方策に取り組んでいます。

国際学力調査は各国の教育レベルを把握するための情報を提供してくれますが、その一方で「学力」をめぐる競争に駆り立てられたり、得点上位国の教育政策を一つのパッケージとして他国に販売するなど、「教育」も国際市場競争の対象にされつつあります。

国際学力調査で得点上位になればいいのか、国際学力調査の「学力」とはなにを意味しているのか、これらを冷静に考え、わが国の子どもたちにどのような能力がほんとうに必要かを読み解く力が教育行政や学校教員側にも求められています。

▼参考文献
国立教育政策研究所編『TIMSS2015 算数・数学教育/理科教育の国際比較』明石書店、2017年
国立教育政策研究所編(2019)『生きるための知識と技能7 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2018年調査国際結果報告書』明石書店、2019年
林 寛平「グローバル教育政策市場を通じた『教育のヘゲモニー』の形成―教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析―」(『日本教育行政学会年報』第42号、2016年)
松尾知明「知識社会とコンピテンシー概念を考える ― OECD国際教育指標(INES)事業における理論的展開を中心に―」(『教育学研究』第83巻第2号、2016年)

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