オンライン授業を少人数のプロジェクト制で機動的に進めている学校事例

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香里ヌヴェール学院小学校 教諭兼研究員

樋口万太郎

多くの自治体、小学校が、オンライン授業に踏み切るのは難しいと答える状況が続く中、今年度初めてオンライン授業導入に踏み切り、PDCAを回しながら改善を続けているという京都教育大学附属桃山小学校の先生方に、オンライン授業導入における「壁」をどのように乗り越えてきたのかについて伺いました。(この座談会は2020年4月28日に行われました)

座談会参加者/
京都教育大学附属桃山小学校副校長・原田勝之 
京都教育大学附属桃山小学校教頭・桑名良幸 
京都教育大学附属桃山小学校教諭・長野健吉 
京都教育大学附属桃山小学校教諭・樋口万太郎 

ZOOM座談会
座談会はzoomで。画面左上から時計周りに、原田副校長、桑名教頭、長野教諭、樋口教諭。(パソコンの画面はビデオ座談会のイメージと作成したものです)

担任の熱い言葉に背中を押された

―オンライン授業をしてみたいけど、なかなか踏みきれないという学校が多い中、どのような経緯でオンライン授業に切り替えることにしたのでしょうか?

原田副校長:3月に一度休校が決まった際には、本校もオンライン授業ではなく、プリントなど、紙ベースの課題を子供たちに出していました。

しかしその後、新年度も休校することが決まった段階で、我々が子供たちのためにできることは何なのかを考えたとき、現場の先生からの提案で、オンライン授業を進めていこうと方向性がはっきりとしました。

4月2日に職員会議があったのですが、会議が終わるやいなや、6年担任の長野先生が私のところにきて、
「これは長期戦になりますよ。子供たちの学びの保障のためにも、いまオンライン授業へと動かないといけませんよ」と熱い思いを伝えてくれたのです。

長野教諭:最初の休校が決まったときには、私自身それほど危機感がなかったということもあり、オンラインはまだ早いだろうという気持ちもありました。

タブレットを自宅に持って帰ったら混乱するだろうし、各家庭のルールも確認しなくてはいけないなど、不安も大きかったのです。

しかし、二度目の休校延長が決まった段階で、これは数週間どころか数か月、もしかすると一年くらいは覚悟すべき大きな問題になるかもしれないと思うようになり、危機感が募りました。

しかも、数日後に子供たちが一日だけ登校する日があったので、「こんなチャンスは二度とないかもしれない。ここで踏みきらへんという選択はゼロやな」と思ったのです。

本校では、1〜6年生まで全ての学年の授業の中でiPadを使い、「ロイロノートスクール」という、授業支援ツール活用していました。45分の学習中、オンラインでつながっている時間は半分くらいあったわけです。それなら、そこだけを取り出して授業できるのではないかと思いました。

少人数チームで意思決定し、高学年が先導する形に

―オンライン授業を進める上でどのような準備をされたのでしょうか?

原田副校長:まず、オンライン授業を先進的に進めていくプロジェクトチームを立ち上げました。

本校では家庭でオンライン授業をするということは初めてだったので、少人数で機動的に集まり、お互いに話がしやすいグループを作った方がよいと考えたからです。

プロジェクトチームは高学年担任の4名、低学年と中学年から1名ずつ、専科の先生が1名、そして管理職3名の10名で構成しています。

まずは、子供たちにも一定の経験、スキルがある高学年を対象にオンライン授業を先導的に進めてもらいながら、低学年、中学年の方もそれに準じた形でノウハウを順次取り入れ、実践を積み上げていく形にしていきました。

管理職がオブザーバーとしてチームに入り、決定までのプロセスに時間をかけない

―オンライン授業の壁として、「なかなか管理職の許可が出ない」ということが多いのですが、プロジェクトチームを作ったことのメリットは何でしょうか?

原田校長:そもそもプロジェクトチームという組織を取り入れたのは、本校の先生方個々の高い意欲と能力を生かすため、様々な意見が出しやすく、また意思決定の過程をシンプルにできるこのスタイルが最適であると考えたからです。

また、少人数のほうが機動力もあり、取組の柔軟性も高くなるということも大きなポイントです。

実は今、4つほどプロジェクトチームがありますが、第一号がこのオンライン授業チームです。このチームの動きが一つのプロトタイプになり、他のプロジェクトチームの動きのモデルになっています。

少人数なので、必要な時には手早く集まって意見交流ができます。チームの中に私たち管理職もオブザーバー的に入っているので、基本的にはチームの中で意思決定された段階で、すぐにGOサインになるというように進んでいます。

初めての取り組みのモデルとしては、非常に合理的に進んでいるのではないかと思います。

まずアンケートで各家庭の状況・環境を把握

―各家庭との連絡はどのように進めれらたのでしょうか?

原田副校長:まず各家庭の環境を確認するために、アンケートを取り、状況調査をしました。

Wi-Fi環境や端末の環境を調べ、Wi-Fi環境が無い家庭については、 iPad のセルラーモデルを貸し出すことにしました。

さらに、低学年や中学年については iPad やパソコンだけはなく、スマホなど、保護者の端末を使うことも選択肢に入れ、各家庭の意向を調べました。

樋口教諭:とにかくバタバタでしたね。4月2日に職員会議で、オンラインで授業をするという方向性が決まり、翌3日金曜日にアンケートを行い、土日を挟んで月曜日にアンケートを集計。

翌週7日は登校日だったのですが、翌日から休校が決まっていたため、その日が唯一子供たちと直接話ができる日。すべてが急ピッチで進められました。

2回目のアンケートの内容を考えたり、オンライン授業でどんな学習を進めていくかのアイデアを出し合ったり、とても濃い数日間だったと思います。濃すぎるため全然記憶もないくらいですが(笑)、本当にいろんなことを話し合ったなということは覚えています。

家庭連携には、デジタルツールが大活躍

―家庭環境の差が出ないよう、どのような工夫をされたのでしょうか?

原田副校長:オンライン授業においては、各家庭で環境面、通信面においてそれぞれ差がある中、どのようにしてその影響が出ないようにするか、これまでの学習を生かせるような学習が実現できるのかということが大きなポイントでした。

校内では iPad でロイロノート・スクールを活用していたので、高学年は扱いに慣れていました。しかし、まだ扱いに慣れていない低学年の場合は、子供だけでなく、各家庭、保護者への支援も必要になりました。

【関連記事】低学年の教師による実践例についてはこちらの記事をお読みください→小学校低学年の遠隔授業例:家庭の環境差に効く4つの工夫

さらに、どうしても設定面や、環境づくりというところで、各家庭の実情の違いが出てきてしまいます。そうした対応については、担任だけでなく、桑名教頭がかなり丁寧に、手間をかけてフォローしてくれました。

こうした各家庭、保護者対応においては、デジタルでのコミュニケーションがかなり有効だったと思います。

本校では保護者との連絡は、電話応対と「Classting」という教育用SNSを並行して使っており、アンケートはG-SuiteのGoogleフォームを使っています。

こうしたデジタルツールの環境を昨年度末までに丁寧に整え、保護者もやり取りに慣れていたことは非常に助かりました。桑名教頭がこれまで環境整備に尽力してくれた成果が、結果的にこのタイミングで実を結んだと思います。

とはいえ、デジタルというとスマートな響きがありますが、最後はどれだけ丁寧に各家庭、保護者とつながっているかということが肝だと思います。

それぞれの家庭の状況に応じて、スマホやご家庭のパソコンなどを有効に活用してもらいながら、よりよい方法は何か、引き続き我々も模索しながら進めているところです。

教育機会の均等という公教育の役割を大切にしながら、これまでの本校の環境を生かし、常に子供たちや保護者の声を聞きながら試行錯誤を続けています。

普段の授業でのICT活用がいざという時に実を結ぶ

―貴校でオンライン授業がうまく行っている要因はどこにあるでしょうか?

桑名教頭:本校の場合で言えば、まず、普段の授業の中でICTをよく使っていること、使い慣れていて、教師も子供もある程度自信がある状態であるということは言えると思います。また、10年間ほどICTに取り組んできた中で、Wi-Fiモデルとセルラーモデルの2タイプのiPadを持っていたということも大きな要因です。

さらに、昨年から「Classting」で全て保護者への連絡できる体制が整っていたということもあります。もしメール配信システムのみであれば、文章だけしか送れないので、具体的に伝わらないことも多かったでしょう。PDFの文章や写真・図をリアルタイムで保護者に送ることができるため、ダイレクトによりわかりやすく伝えることができています。

このように、各先生が授業の中で活用し、研究して進めてきたことと、学校として環境を整えてきたことがうまくつながったこともありますが、やはり、現場の先生が熱意を持って自ら提案し、原動力となって動いてくれたからこそ、うまく進めることができているのだろうと思います。

長期戦に備え、様々なプラットフォームを試す

―現時点(2020年4月末)で、今後の展開についてどのように考えていますか?

桑名教頭:現在、ロイロノート・スクールを中心に授業を行っていますが、6年生担任の樋口先生や長野先生がZoomや他のプラットフォームを使いつつ、さらに長期戦になった時や次のフェーズの学習に対応していくために模索し、共有し続けています。

【関連記事】樋口教諭の授業実践の具体例についてはこちらの記事もお読みください→小学校のオンライン授業:子供が集中する4つの型【新型コロナ対策】

今週はGoogleの「Classroom」を使い始めて動いているし、Zoomを使い、対面で子供たちの顔を見ながらにこやかに授業をしている先生の姿を何人も見ました。柔軟性を持ち、協力しながら泥臭く動き続けるという先生方の姿勢が、本校の実践が成功した大事なポイントだったのではないかなと思います。

取材・文/出浦文絵

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