「予習」の力でコロナ休校の学力差をカバーする
コロナ休校中、自主的に学ぶことができた子とそうではなかった子では、学力差が非常に大きくなっていることでしょう。この記事では、学校再開時に、学力が落ちた子へのフォローや、きちんと勉強を進めてきた子をさらに伸ばすために、「予習」を取り入れるアイデアを紹介します。
執筆/愛知県市立小学校教諭・八神進祐
目次
予習・授業・復習の構造化
小学校では馴染みの薄い「予習」を取り入れていくのはどうでしょうか。
勉強が苦手な子は、授業での理解度が「半わかり(半分くらいわかる)」の状態であることが多いです。
そして、復習(宿題など)で、「本わかり(本当にわかる)」にたどり着ける子と、「半わかり」のままの子に分かれてしまいます。
予習を入れることで、「半わかり」状態の子を多くして、授業において多くの子を「本わかり」にたどり着かせることができると考えます。
さらに、復習を取り入れることで「本わかり」にたどり着ける子が増えます。
では、どのような「予習」が効果的なのかを紹介していきます。
予習
基本的には、子どもが自力で取り組むものなので、無理はさせません。
ちょっぴりわかるだけでいいんだよ。
と声をかけると安心感を与えることが出来ます。
お家で教科書を読むだけでも、大事だなというところを書き写すだけでも、実際に問題を解いてみてもよいです。
できれば、その授業で使用するノートを使うと、予習と授業とのノートが比べられて成長を実感できます。
授業
子どもの中には、「本わかり」に近い状態の子も出てくると思います。しかし、その子たちを退屈させてはいけません。
私がよく話をするのは、勉強には【3つの段階】があるということです。
- 一段階目は【わかる】(話を聞いて理解できる)
- 二段階目は【できる】(実際に問題が解ける)
- 三段階目は【説明できる】(下の学年の子が理解できるように)
自分が今、どの段階なのかをメタ認知させながら授業に参加させることで、目指すべき自分が明確になります。
勉強が苦手な子の中には、予習ができない環境の子もいます。家庭での予習は強制ではありません。授業の前や授業冒頭に行うことも十分可能です。
例えば、授業の前の休み時間に、勉強が苦手な子を集めて、
先生と授業の予習をしちゃおう!
などと声をかけると、喜んで参加する子が出てきます。
教科書を一緒に読みながら、
授業でここまで進んだら、○○くんを当てます。どう答えるか考えておいてね。
と言うと、その子にとって特別な舞台が整います。恥をかかせるわけにはいかないので、
このように答えるといいかも。
と、答えを与えてもいいかもしれません。
授業で活躍できた経験や、予習をすると授業がわかるという感覚をつかむことができれば、自ら進んでいくようになります。
注意したいのは、反転授業のように「予習ありき」で授業をするのではないということです。
※反転授業……ビデオ講義で予習を済ませておき、教室での授業では講義は行わずに演習を展開するという学習形態。
あくまで、「本わかり」へのサポートとして、予習を活用していきます。
続いて、授業冒頭においての予習です。
例えば、「6年理科 水溶液のはたらき」で、塩酸にアルミニウム箔を溶かす実験があります。この授業の課題やめあてはこのようなものが考えられます。
塩酸にアルミニウム箔を入れたらどうなるか考えよう。
私ならこれを結論から述べます。
◎塩酸にアルミニウム箔を入れると溶けます。どのように溶けるか観察しよう。
なぜなら、一番押さえたいところは「塩酸はアルミニウムを溶かす」ということになるはずです。それにプラスαとして、どのように溶けるかを付帯することで、理解度が「本わかり」に近づいていきます。
中には、「実験結果を知っていたらつまらない」という考えもありますが、
あれ? すぐには溶けると思っていたけれど、少し時間がかかるんだな。
本当に溶けてる!
おー! 熱くなってる。
動きながら溶けてる。
なんだか音も聞こえる。
と、子どもたちの興味津々に取り組む姿が見られます。押さえたい内容がわかっているからこそ、ブレずに実験をすることができます。
復習
復習は、宿題としてプリント課題を出しても、ノートをまとめさせても、お家の方に授業内容を説明させてもよいと思います。
ただ、私は算数であれば、授業で扱った教科書の問題を宿題に出すことが多いです。
友達がこのように発言していたなあ。
先生がこう説明していたなあ。
と、授業を思い出すきっかけにもなりますし、何より教科書は良問が多いからです。
そして、子どもたちにはこう伝えます。
同じ問題を解くときには、【意識したい三段階】があります。それは前回よりも【正確に】→【速く】→【カッコよく】解くということ。
ゆっくり歩けるからこそ、駆け足ができます。だから、まずは正確性を重視します。次第にスピードを上げていけばよいのです。そして、美しいフォーム(解法)ができれば、なおよいのです。
予習に適した教科や単元の見極めを
小学校に馴染みの薄い「予習」を主に取り上げてみました。
もっとも大切なのは、予習に適した教科や単元を見極めることだと考えています。
子どもの思考を深める学習や、発見する喜びを味わわせる授業においては、予習はときに弊害となり得ます。
しかし、予習は大きな推進力になることもあります。
八神進祐(やがみ・しんすけ)●教育サークルMOVE代表。道徳教育、学校図書館教育や人権教育、プログラミング教育など幅広く学びを深める実践に取り組む。Twitterでは「どどっちteacher」として“三行教育技術”を毎朝更新中。教育論文入賞多数、第5回・第7回全国授業の鉄人コンクール優秀賞、フォレスタネットグランプリ月間MVP、フォレスタネットselection監修。共著に「学校現場発、これが本物の道徳科の授業づくり 主体的・対話的で深い学びの原点は道徳科の授業の中にある」がある。