反転授業(フリップド・クラスルーム)【教育用語】

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教育分野で度々耳にするようになった新しい用語を、深く掘り下げて解説します。今回は「反転授業(フリップド・クラスルーム)」「反転学習(フリップド・ラーニング)」を取りあげます。

執筆/東京福祉大学専任講師 ・ 中園長新
監修/筑波大学教授・浜田博文

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授業の前に子ども自身が学ぶ効果

ICTの普及に伴い、教育の在り方はますます多様化しています。授業で学習してから宿題などで知識を定着させるという学び方以外にも、様々な教育が実践されるようになりました。子ともたちが自ら学んでから授業を受けるという「反転授業」もそのひとつです。

従来の授業における授業と宿題(授業外学習)の役割を入れ替えた授業形態のことを「反転授業(フリップド・クラスルーム)」と呼びます。授業外学習への発展も視野に入れて「反転学習(フリップド・ラーニング)」と呼ばれることもあります。従来の学び方では、授業で知識の習得を行い、宿題等でその定着を目指していました。反転授業ではまず宿題等で児童生徒が自ら知識の定着を行い、その後の授業では学んだ知識の確認や、ディスカッション等の協働学習、あるいは個別指導等による知識の活用を通して発展的な学びを実践します。

反転授業では、児童生徒が自ら学習するための教材が不可欠であり、現在はオンラインで公開された教材ビデオ等のデジタル教材を活用することが主流となっています。デジタル教材は既存のサービスを活用する方法、業者に依頼して作成してもらう方法、教員が自作する方法などがあります。Eラーニングと協働学習を組み合わせていることから、反転授業は「ブレンディッド・ラーニング」の一形態と見なすこともできます。

反転授業はICT(情報コミュニケーション技術)が進歩・普及した2000年代頃から提唱された概念であり、タブレット端末等が普及し始めた2010年代から実践事例も増えつつあります。YouTubeに代表されるオンライン動画共有サイトを活用し、自習用の動画教材をサイトで公開して、それを子どもが自宅のパソコンやタブレット端末で視聴するというスタイルは典型的な例です。

反転授業のメリット

教員にとって、反転授業には授業時間を有効活用できるというメリットがあります。社会の発展や技術の進歩により、初等中等教育で扱うべき学習内容は増加しており、単なる講義形式ではない「主体的・対話的で深い学び」のさらなる実践も求められています。授業時間数の不足に悩む教員も少なくありません。反転授業は宿題等で知識を習得した状態で授業を開始できるため、限られた授業時間の多くを「主体的・対話的で深い学び」や児童生徒に合わせた発展的な学びに充てることができます。

児童生徒にとっては、これまで以上に個に応じた学びが実現できることが期待されます。宿題で使う動画教材は、自分の好きなときに好きな場所で繰り返し視聴したり、一部分だけ取り出して視聴したりすることもできるでしょう。つまり、自分の学習スタイルに合わせて学習することができます。また、たとえば入院するなどの何らかの理由で教室を離れていても、自宅や病室で動画を視聴し自習することで、学習の遅れを最小限にとどめる効果が期待できます。

反転授業のデメリット

一方で、反転授業は子どもが宿題をどれぐらい主体的に実施するかに依存する部分があります。予習や自宅学習が習慣化している子どもにとって、動画教材の視聴に対する負担感はさほど大きくないかもしれません。しかし、それらが習慣化できていない子どもにとっては、動画視聴による予習の強制はむしろ学習意欲の低下を招きかねません。このような子どもに対してどのような働きかけをすればよいか、教員の力量が問われるところでもあります。また、自宅学習を必要としている点を考慮すると、保護者の理解や協力も不可欠といえるでしょう。

宿題で用いるデジタル教材を準備することの大変さも、反転授業の普及を妨げている原因のひとつです。教員は自分自身の指導に合わせた教材を作成または選定する必要がありますが、現在は教材研究の負担が大きく、すべての教員が気軽に導入できる段階には至っていません。教材開発に関するノウハウを蓄積・共有したり、開発した教材を全国の教員が共同利用できる環境を整備したりする等の工夫が必要です。

反転授業はどのように実践していくのがよいか

反転授業の大規模な実践事例として、佐賀県武雄市は2014年度(中学校は2015年度)から、市内の小・中学校において「スマイル学習*と名付けた反転授業を取り入れています。児童生徒全員にタブレット端末を配付し、そこにダウンロードした教材を使って予習するというものです。教材は企業との協働で作成しています。児童生徒の学習意欲や理解度等の能力向上が見られるという報告がある一方で、年度が進むにつれて実施学校数が減少する等の課題も抱えており、完璧な実践というわけではありません。しかし、自治体レベルで大規模に反転授業を取り入れたことは大きな挑戦であり、今後の武雄市の状況や、他の自治体への影響については継続的に検討していく必要があります。

*武雄市ICTを活用した教育パンフレット「ICT」(pdf)

反転授業は教育効果を高める実践ですが、反転授業を行うことは目的ではなくあくまでも手段・方法です。従来型を含めた他の教育実践が求められる場面も多くあり、すべての授業を反転させればよいというわけでもありません。反転授業のメリット・デメリットの双方を正しく理解し、児童生徒の学習を第一に考えた上で、反転授業を効果的に活用することが求められます。

▼参考文献
重田勝介「反転授業:ICTによる教育改革の進展」『情報管理』56 (10)、2014年
反転授業研究会編集、芝池宗克・中西洋介著『反転授業が変える教育の未来:生徒の主体性を引き出す授業への取り組み』明石書店、2014年
森朋子・溝上愼一編『アクティブラーニング型授業としての反転授業:理論編』『同:実践編』ナカニシヤ出版、2017年

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