【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯18 卒業を前にした不登校児童と、その保護者への関わり方

近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載。今回のテーマは、「卒業を間近に控えた6年生と、その保護者への関わり」です。
執筆&イラスト/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)
目次
今回の相談事例
小学6年生担任からの相談(架空事例)です。
5年生の途中から欠席が続いていた児童がいます。6年生の2学期からは、ようやく週に1度、別室登校ができるようになりました。保護者の方は「春から中学生になるので、毎日登校できるようにさせたい」と強く希望されており、そのお気持ちもよく理解できます。
そのため、私からも児童に「できる限り、毎日登校しよう」と声をかけてみましたが、児童の表情は曇り、実際に登校日数が増えることはありませんでした。現在も、週に1度の別室登校が続いています。
卒業まで残り1か月となった今、どのように関わっていくのがよいか悩んでいます。児童の気持ちに寄り添いながら、少しでも前向きな一歩を踏み出せるような対応について、アドバイスをいただけると幸いです。 (40代女性)
「期待」と「重圧」
不登校の子どもが卒業や進級を迎えるこの時期、とくに我が子が中学校への進学を控えている保護者の場合、その心にはさまざまな思いが渦巻きます。「中学生になれば、学校に行ってくれるかもしれない」という期待と、「このままではいよいよ大変なことになるのでは…」という不安。その両方が入り混じり、気持ちが揺れ動く時期です。
けれども、そのような保護者の思いは、時に子どもにとって大きなプレッシャーとなってしまうことがあります。登校できない子どもたちの心の中では、この時期、じつは不安がどんどんふくらんでいるのです。
ここで子どもたちの心を想像するために、昨年、クマの出没が多発したことを思い出してください。
連日、クマの出没に関するニュースを目にしていると、「もし自分がクマに遭遇したら…」という恐怖が自然と湧き上がってきます。実際にクマと出会ったわけではないのに、まるで自分が体験したかのように感じてしまうのです。
本来、恐怖という感情は、実際に危険な状況に直面したときに生じるものです。しかし、繰り返し報道されるニュースや周囲の反応を通して、私たちは間接的にその恐怖を体験し、知らず知らずのうちにそれが心に刷り込まれていきます。
そんな状態で、もし保護者から「山にキャンプに行こう」と誘われたら、子どもはどう感じるでしょうか。「クマに遭遇するかもしれない」という不安に襲われるのは当然のことです。
保護者はキャンプの経験が豊富で、「行き先は整備されたキャンプ場だし、安全管理もしっかりしているから大丈夫」と考えるかもしれません。それは、これまでの経験から「大丈夫だった」という実感があるからこその安心感です。
けれども、子どもがキャンプの経験をほとんど持っていないとしたらどうでしょうか。未知の場所に対する不安や、クマへの恐怖が先立ち、「行きたくない」と思うのはごく自然な反応です。同じ状況を見ていても、経験の有無によって感じ方は大きく異なります。大人にとっては「大丈夫」と思えることでも、子どもにとっては「とても怖いこと」に感じられるのです。
では、先ほどのキャンプ場を「学校」に置き換えて考えてみましょう。
今、子どもは中学校への進学を控えています。しかし、その学校にはまだ一度も行ったことがありません。そんな中で、ネット上では中高生による暴力の動画が拡散されていたり、いじめのニュースが繰り返し報じられたりしています。そうした情報に触れるたびに、子どもはまるで自分が暴力を受けているかのような間接的な恐怖を感じ、「自分もあんな目に遭うのではないか」と不安を募らせていきます。
もし、学校生活や人間関係において豊かな経験を積んできた子であれば、「そういうことも世の中にはあるけれど、自分には関係ないだろう」と冷静に受け止めることができるかもしれません。
しかし、これまで登校に困難を抱えてきた子どもにとっては、そうした情報は現実味を帯びて迫ってきます。未知の場所で、また同じような不安やつらさを味わうのではないかという恐れが、心の中で大きくふくらんでしまうのです。
一方で、保護者の思いはどうでしょうか。中学校進学を機に「今度こそ毎日通ってくれるかもしれない」という期待が高まり、「このままでは将来が心配だ」という不安も重なって、登校への願いがますます強くなっていきます。
しかし、子どもが不安でいっぱいの状態のまま、保護者の期待だけがふくらんでいくと、そのギャップが子どもにとってはさらなるプレッシャーとなってのしかかります。このような状況で「学校に行こう」と繰り返し促されても、子どもはますます心を閉ざし、登校が遠のいてしまうこともあるのです。
だからこそ、まずは子どもの感じている「見えないクマへの恐怖」に気づき、その気持ちに寄り添うことが大切です。安心できる関係の中で、「一緒に考えていこうね」と伝えることが、子どもが次の一歩を踏み出すための支えになるのではないでしょうか。
登校を阻む3つの障壁
子どもの心の中にいる「クマ」の姿を、もう少しはっきりと見つめてみると、登校に立ちはだかる3つの大きな障壁が見えてきます。
1・周囲の目が気になること
「どう思われるだろう」「変に思われないかな」という不安。長く学校を休んでいたことで、周囲の視線が怖く感じられます。
2・何が起こるかわからないことへの不安
教室での出来事、人間関係、先生とのやりとり……。先が見えないことに対しては、大人でも不安になるものです。ましてや、経験の少ない子どもにとっては、その不確かさが大きな壁になります。
3・準備や経験の不足による自信のなさ
「ちゃんとできるかな」「みんなについていけるかな」という思い。これまでのブランクがある分、自分にできるという感覚が持てず、一歩を踏み出す勇気が出ないのです。
そして、これら3つの障壁の土台には、「失敗してはいけない」「間違えたら終わりだ」という思い込みが根を張っています。この思い込みが、子どもたちの心の中のクマをより大きく、怖い存在にしてしまっているのです。
では、この「心の中のクマ」をどうやって退治すればよいのでしょうか?
それには、子ども自身が「心の中のハンター」を育てていくことが必要です。このハンターとは、「自分は自分」「人は人」「何があっても、きっとどうにかなる」と思える力のこと。つまり、自分を信じる力、柔軟に受け止める力、そして失敗を恐れずに進む力です。
卒業までの限られた時間、私たち大人が目指すべきは、「毎日登校させること」ではなく、このハンターを育てること。そのために、子どもの不安に寄り添い、小さな成功体験を積み重ね、自分を肯定できるような関わりをしていくことが、何よりも大切なのではないでしょうか。
今回の相談事例における保護者との会話例
教師 もうすぐ卒業ですね。中学校進学に向けて、いろいろとご心配なこともありますか?
保護者 はい。やっぱり中学生になるので、できれば毎日学校に行けるようになってほしいんです。今のままだと、この先が心配で…。
教師 そのお気持ち、よくわかります。
保護者 クラスも変わるし、あの子のことを知らない友達もたくさんいるでしょうから、チャンスだと思うんですよね。
教師 たしかに、環境が変わるというのはチャンスですよね。
保護者 勇気を出して挑戦してほしいんですが、でも今の状態だと難しい気がして……。
教師 今、毎日登校できるようになると安心できますよね。
保護者 そうなんですよ。中学校だって、行ってみたら案外大丈夫かもしれないし。
教師 たしかに、大人の方の目から見ると「大丈夫」と思えますよね。でも、〇〇さんにとっては、学校が“クマが出る森のように感じられているのかもしれません。ニュースや周囲の話から、怖いイメージが心に刷り込まれてしまいますよね。
保護者 なるほど。
教師 学校が森で、おそれる気持ちがクマです。まずはクマについて知ることが大事です。
保護者 そうですね。
教師 クマは、3つの気持ちの集合体なんです。「周囲の目が気になるなあ」と「何が起きるかわからないから不安だなあ」と「準備や経験不足で自信がないなあ」です。
保護者 どうすればいいですか?
教師 中学校に行くことで、「周囲の目が気になる」は、少し弱まるかもしれませんよね。
保護者 不登校だったことを知らない生徒も多いでしょうしね。
教師 でも、残りの2つ、不安と自信不足は強まると思いませんか。
保護者 たしかに、そうですね。
教師 不安や自信不足、周囲の目が気になるのには、共通した土台があるんです。
保護者 何ですか?
教師 それは、「失敗してはいけない」という思い込みがあることです。
保護者 失敗ですか。別にしてもいいのに…。
教師 頭でそう思っていても、これまで小さな失敗をした体験数が少ないのかもしれません。小さな失敗体験が予防注射の働きをします。
保護者 人の目を気にするのは前からでしたね…。
教師 今は、毎日登校することを目標にするよりも、〇〇さんの心の中にクマに対抗するハンターを育てることが大切だと思っています。
保護者 ハンター…ですか?
教師 はい。不安や恐怖に立ち向かえるような、心の中の味方です。その力を育てるには、無理に登校を促すよりも、〇〇さんの気持ちに寄り添って、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。
保護者 そうですね…。つい焦ってしまっています。
教師 焦るお気持ちはとても自然なことです。でも、3月に無理をしてしまって、4月の入学時にはもうヘトヘト…なんてことになったら本末転倒です。今はまず、不安を少しずつ減らして、自信をちょっとずつ育てていきましょう。
保護者 はい。
教師 目指すのは、「自分は自分でいい」「何があっても大丈夫」と感じられるようになることです。だから私たち大人が、人と比べたり、不安をあおるような言葉を口にしたりしないようにしましょう。
保護者 そうですね。そう言われてみると、私自身の中にもハンターがいないのかもしれません。人の目ばかり気にしています。
教師 では、親子でハンター育成競争ですね!
保護者 (笑)
教師 私からは、〇〇さんが学校に来た時に、自分の失敗談をたくさんしますね。そして中学校の生活について、安心できるような情報も伝えます。
保護者 ありがとうございます。
イラスト/千葉孝司
※この連載は、原則として月に1回の更新予定です。
<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。
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