子供は得をするなら自分で勝手に学ぶ【「高校につながる英・数・国」の授業づくり #62】
前回から、全国学力・学習状況調査の結果が毎年良好な東京都の中学校国語教育研究会で、研究をリードする世田谷区立八幡中学校の栃木昌晃教諭の単元・授業づくりを紹介しています。今回は、前回紹介したような単元・授業づくりを行う背景となる、栃木教諭の教育観や授業観、授業づくりの考え方などについて紹介をしていきます。


栃木昌晃 教諭
目次
国語はどうしたらよいか分からない教科だった
栃木教諭が、特に「読みのものさし」のようなものを使った授業を行うようになったのは、自身が決して国語が好きではなかったことも関係すると話します。
「私は子供の頃から教員になりたいと思い、教育学部に進んで小学校教員を目指していたのですが、入学後、専門教科を選ぶときに『どんな授業だったっけ?』と授業が思い出せない、再現できないのが国語だったのです。そこで得意な教科ではなく、苦手な国語をやってみようと考え、専門教科として国語を選びました。
しかし、国語に限らず学べば学ぶほど、どの教科も教える難しさを感じるようになり、大学院に行ってもっと学ぶことにしたのです。大学院には、全国から来られた長期研修の中堅の先生方もおられ、その方々と共に授業を見たり、教材研究をしたりしているうちに『国語を本気でやろう』と決意して、中学校の国語科教員になりました。ですから、常に不安があり、どう指導したらよいか分からない教科だったわけで、それが現在の私自身の教育観にもつながっていると思います」
その後、初任校での苦労も経て、東京都の研究員に指名されたと言います。
「採用6年目のとき、声をかけていただいて東京都の教育研究員になりました。そこは現在も活躍されている先輩の先生方が集まるような場所だったのですが、幸運なことに共に学ぶ機会をいただきました。そこでの学びを通して、本当の意味で『子供に寄り添う』授業について考えるようになりました。子供に寄り添う授業とは。言葉を選ばすに表現すると、子供は得をするなら自分で勝手に学ぶということです。得とは『楽しい』『面白い』『役に立つ』『便利』といったことの実感です。
そこで私自身が、国語を好きになれなかったのは、当時の私がそれに気付けなかったからだとも感じ、国語の授業のイメージが大きく変わりました」

「読みのものさし」は子供たちと話をしていて思い付いた
その後、大学院派遣研修にも出て、認知の偏りなどから生じる、言葉の解釈のズレや齟齬による学習の停滞を解消するための研究にも取り組んだと栃木教諭。
「メモのワークシートを工夫し、思考ツールのようなものを活用して頭の中を可視化することで、自分の頭の中を整理するだけでなく、協働している相手に自分の頭の中、そして困り感を伝えるという実践の研究です。それがあれば、例えば、誰かの話を聞いている私が、理解したことをメモしたものが話し手の意図とズレていたときに、話し手側から『栃木さん、私はそういう意味で言ったんじゃない』と修正が可能になるわけです。
そのような齟齬は、言語経験の差からも生じますが、認知の偏りなどによっても生じることがあり、例えば音声だけでやり取りをしていると、聞いている側の理解にズレが生じることがあります。そして、そのまま進んでいくと、理解のズレが大きくなった子供はついていけなくなり、対話が苦手になったり、協働的な学習に不安を感じたりするのです」
そのような、「言葉のズレ」によって、「協働」や「対話」が浅薄なものにならないようにしようと考えてきたことが、現在にもつながり、「生徒の学習経験を揃えられるように可視化しよう」と考えて、「読みのものさし」のような形になってきたと栃木教諭。
「『読みのものさし』は、子供たちと話をしていて思い付いて始めたことなのです。当時の教科書には、学習用語の定義や概念の説明が十分には掲載されておらず、授業の中でも先生によって、『主人公』と言ってみたり、『中心人物』と言ってみたりするし、『登場人物』とは何かも明確にしないまま(なんとなくお互いに分かっているだろうという前提で)授業が進んでいることに、私も違和感をもっていたのです。また、出身小学校によって、教わっていることといないことがあったり、『構成や展開』とは何かといったような学習用語の説明も表現が異なっていたりする場合もありました。
そんな話になったとき、子供の1人が『誰が見ても1センチは1センチと言える単位のようなもの…言葉にもものさしがあったら、共有できる』ということを言ってくれたので、『じゃあ、読みのものさしにしよう』と決めたわけです」
この「読みのものさし」も当初は、教科書にも載っているような言葉の定義をまとめることから始まったが、次第に読みの方略なども含めて整理をしていくようになったと栃木教諭。
「この実践自体、もう5年目くらいになってきたので、既習事項をまとめた『読みのものさし』に対し、現在の学習単元で新たに学んだ内容を加えて、より抽象度の高い『読むための知識・技能(読みの方略)』のようなものを出し合い、学級全体で共有していくようにしています。また、学校全体で1つ『読みのものさし』を作る過程で、個々の気付きや意識をまとめさせることも大切にしています。
こうした学習によって、読みのポートフォリオが頭の中に作れると、不安なく自走する(独力で読みを行う)ことができるし、自分自身の読みのクセも意識できるようになるだろうと思って取り組み続けているところです。そのような『読む(他の領域も同様)ための知識・技能』を一人一人がもつことができれば、社会に出てからも自走することが可能になると思っています」

