学力・学習の質的レベルを三層構造で捉えることが必要【次期学習指導要領「改訂への道」#31】

前回までは、中央教育審議会の総則・評価特別部会副主査である京都大学の石井英真准教授に、重点化、表形式化された次期学習指導要領のモデルの意味などについて説明をしていただきました。
今回は、そのような重点化、表形式化の裏側にある資質・能力の三層構造や現時点における資質・能力の誤った理解などについて説明をしていただきます。
目次
「生きて働かない学力」問題に対応することが最大のミッション
なぜ、今回のような学習指導要領が出てきているかということをごく簡単に言えば、学力・学習の質的レベルを「知っている・できる」「わかる」「使える」の三層構造で捉えることが必要だからです(資料1参照)。
資料1

これまでの現場の学力観を振り返ってみると、「知っている・できる」「わかる」の二層が一般的でした。算数・数学にしても、ただ計算ができるというだけではダメで、「わかってできることが大切だよね」と言われたし、社会科でも覚えるだけではダメで、「わかっていなければいけないよね」と言われてきたと思います。
それもとても大事ではあるのですが、現行の学習指導要領は、PISAショック以降の近年の子供たちが抱えた課題、つまり「生きて働かない学力」問題に対応することが最大のミッションでした。学んだことが生活の中でも、将来の社会でも生きて働くものになっていないのではないか、教科の中、学校の中でしか通用しないものになっているのではないかという問題に対応しようとしたのです。学校の学びと生活・社会とのつながりを考え直していくというところに、「社会に開かれた教育課程」があり、「資質・能力」があり、その根底に「コンピテンシー・ベース」があったのです。
その点から目の前の子供たちの近年の状況を見てみると、驚くほど学びが生きて働いていません。だから、「知っている・できる」「わかる」「使える」の三層構造が必要になるわけです。昔は「わかる」ことをグッと深めることによって、日常生活でも生きて働く学力にしてきたわけですが、今や、子供たちの日常生活が貧弱になっているため、学んだことを生活の中で使いこなす経験もほとんどなく、生きて働く学力が育ちにくいわけです。そのため、学校外の生活、将来の生活で遭遇する本物をもっと子供たちに経験させていったほうがよいだろうということです。
それは、PISAにしても大学入学共通テストにしても同様で、三層目が分厚くなってきています。習得型の学力から活用型の学力へと言われるのは「二層から三層」で学力を考えるということです(資料2参照)。この三層目を分厚くすることで、生きて働く学力に展開するし、使いこなすことを通じて分かり直しや定着が促されるということで、より確かな、生きて働く知識や思考につなげていくということです。
この三層目の「使える学力」は、真正の学びによって育ちます。真正とは本物という意味で、例えば数学なら、数学を現実世界の事象に当てはめて使う活動だけでなく、数学者のように論証したり、数学を楽しんだり、数学をつくったりする活動も含めて真正ということです。そのような本物の学びを学校でもっと充実させる必要があります。
資料2


