新学習指導要領:現場教師の6つのモヤモヤを元視学官に聞いてみたら…

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

2020年4月から全面実施の「新学習指導要領」。現場の先生方は、今、どんなことに不安を感じ、疑問をもっているのでしょうか? 座談会形式で洗い出された先生方の率直な疑問や不安について、國學院大學の田村学教授にお答えいただきました。

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評価計画、キャリア・パスポート…新学習指導要領のモヤモヤまとめ

執筆/國學院大學教授・田村学

田村学●1962年、新潟県生まれ。新潟県の小学校教諭、指導主事等を経て、文部科学省の教科調査官(生活科・総合的な学習の時間)。2015年より文部科学省視学官となり、今回の学習指導要領改訂に尽力。新学習指導要領告示後の2017年4月より現職。

「学習指導要領2020」ココが「?」メイン
写真AC

Q1.担任が行うべきカリマネとは?

新学習指導要領(以下、指導要領)が求めているのは、大きく言えば、子供たちの「資質・能力」育成のために、「主体的・対話的で深い学び」をしてほしいということです。その学びを実現するには、大きく二つのアプローチがあり、一つは授業改善、もう一つがカリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)です。

授業改善は先生方にとって身近ですが、カリマネは管理職の仕事と思われがちだし、何をどうすべきか分かりにくい部分もあると思います。しかし、カリマネは管理職だけでなく担任の先生も重要なプレイヤーなのです。

では担任の先生が何を行うかですが、中央教育審議会の答申では、カリマネの側面として三つが示されています。

  1. 内容の組織的配列=指導要領の内容を単元や年間指導計画等に構造的に組織化して配列すること
  2. これまでも行われてきたPDCAサイクル
  3. 学校内外の多様なリソースを活用すること

です。

答申では、②に加えて、①や③も行うこと、管理職だけでなくすべての先生で行うことといったポイントを示しています。

しかし、この三つ全部を一度に視野に入れると負荷がかかりすぎるでしょうから、先生方にとって身近な、内容を組織的配列から取り組むのがよいと思います。いかに指導要領の内容を目の前の子供に応じた形で組織化して配列(=デザイン)するかに力を入れると、それを実施する過程で結果的にはPDCAサイクルも行うことになるし、多様なリソースの活用も行うことになっていくのです。

では、カリキュラムをどうデザインしていくかというと、大きく三つの階層があります。

一つ目は、学校の全体計画=グランドデザインを描くこと。二つ目は、単元配列表と言われる各教科の年間指導計画を1枚の紙に整理したようなものを描くこと。そして、三つ目が、個別の単元ユニットを描くことです。

この三つの階層のうち、一つ目のグランドデザインについては、先生全員で取り組んだほうがよいのですが、まずは管理職が率先して行うことでしょう。三つ目の単元づくりは、これまでも担任の先生には経験があるはずです。

そう考えると、二つ目の、各教科の年間指導計画を俯瞰できるよう、紙1枚に整理した単元配列表の作成から着手するのがよいでしょう(※)。

それを基に、「この算数の単元で勉強したグラフの学習が、社会科の単元でも生きるよね」といったことが、一つでも、二つでも見えてくれば、先生の日々の声かけも変わってきますし、当然、子供もそれを意識することで学びが豊かなものになっていきます。教科等横断的な資質・能力の育成を図るうえでも、このような整理が必要です(〈資料1〉参照)。

〈資料1〉総合的な学習の時間を中心に整理されたESD(持続可能な開発のための教育)カレンダー例

資料1
対談に参加してくださった海老原司先生が在籍する東京都多摩市立連光寺小学校の実践例。
*クリックすると別ウィンドウで開きます

※文溪堂は、教科書会社名を入力すると年間の単元配列表ができる「てんまる2020先行版」を無償公開しています。

Q2.評価計画、単元計画はどのように行えばよい?

指導要領では、各教科の「指導計画の作成と内容の取扱い」に「単元など内容や時間のまとまり」とあるように、一連の問題解決のまとまりである単元の構成を意識するよう示されています。問題解決のプロセスが充実することで子供たちが身に付けた力を存分に活用・発揮する機会が増え、それを繰り返し行うことが資質・能力の確かな育成につながります。ですから、単元計画をつくる時には、獲得した資質・能力を発揮する機会を意識することが大切です。

例えば、単元の前半で学んだ力が発揮される、前の単元で学んだ力が発揮される、他教科で学んだ力が発揮されるといった機会が潤沢にあればあるほど、資質・能力が確かに育っていきます。そのように、学習のプロセスを意識して単元を計画することが大事なのです。

では、単元の計画を具体的にどのように作成するかですが、私は発想、構想、計画という手順で行うとよいとお話ししています。

発想は、目の前の子供たちはどのような子で、先生はどういう力を育てたいかを明確に描き、それを重ね合わせて、中心的な活動や教材を思い描くことです。例えば、子供たちが生き物に関心があって、総合的な学習の時間で地域について学ぶ時、地域の川をテーマに学習をしようと考えていくわけです。

構想は、その発想をより具体的にした活動=アクティビティです。例えば、川を中心に学ぶ時、まずはこの場所に行って実際に多様な生き物を捕獲し、次に…と活動を考えるわけです。

構想が描けたら、計画にするために、この活動には何時間が必要だとか、どのような学習形態で行うとか、どんな教材が必要かと考えていくわけです。このような3階層で考えてプロセスを意識してつくっていけば、単元計画がより具体的にイメージできるだろうと思います。

評価については、総括的評価なのか形成的評価なのかを分けずに話をすると、混沌としてしまうと思います。総括的評価とは、一定の学習後、評定に結び付けるものであり、通知表や指導要録に活用されるものです。一方、形成的評価とは、子供の育ちにつなげるため、日常の指導で繰り返し行っているものです。

まず総括的評価は、毎時間行う必要はありません。例えば、10時間の単元があればその中で、評価規準に則って各観点を最も見とりやすい場面で行えばよいのです。

加えて、評定につなげるわけですから、すべての子供を公平に一斉に評価できる場面で行うことが大切です。そうすると、発言等よりも、ノートやワークシートに書いたもの等を中心として評価に活用することになるでしょう。

一方、形成的評価は必ずしも一斉に全員を見とる必要はありません。単位時間の授業にはその時間ごとのねらいがあるわけですから、それに沿って評価すると思いますが、学びの改善に生かすために、対象となる子供を授業ごとに絞って行ってもよいのです。

それらに加え、子供自身が自己の成長を評価しながら育っていけるようにするため、その日の授業のねらいに即した適切なふり返りを行っていくことも、とても大切です。

Q3.評価観点の変更で評価のしかたはどう変わるか?

これまでは知識・技能についてテストで見とるなど、見えやすいものを中心に見とっていました。しかし、指導要領は、三つの資質・能力の育成をめざしており、評価もそれに沿って行うため、思考力や態度等、見えにくいものをいかに見とるかが重要です(〈資料2〉参照)。

〈資料2〉各教科における評価の基本構造(文部科学省資料より抜粋)

資料2
クリックすると別ウィンドウで開きます

その見えにくいものを見とるには三つの方法があると私は説明しています。

一つ目は、子供の姿を時間軸で関連付けて見るということです。例えば「昨日の授業ではこう言っていた子が、今日はこう言っている」「今日の授業の前半でこう言っていた子が、途中ではこう変わって、最後にこう言っていた」というように時間軸で見るわけです。

これまでは、一場面、一局面で見る傾向が強かったのですが、それを時間軸でつなげてみると、思考力や態度の変容が見えてくる可能性が高まります。

二つ目は、空間軸でつなげて見ることです。頭の中で起きていることを見るために、話すこと(発言、つぶやき等)、書くこと(文字、絵、図等)、うなずきや表情、振る舞い等々、多様な子供の表れを空間軸でつなげ、関連付けて見るのです。例えば、「こう語っていた子が、こう書いていた」「あの子の意見にこういう表情でうなずいていた時、ノートにこんな図を描いていた」などと、多様な言動を空間軸で関連付けていくと、頭の中が見える可能性が高まると思います。

三つ目は、その授業の評価規準を子供の姿として具体的に明確に描いておくことです。その授業を通してめざす姿がぼんやりしていると、目の前の子供の姿を評価することはできません。例えば、「お店の工夫について気付いている」という規準では大きすぎて評価が難しいと思います。そうではなく、「商店街の人が、商品の陳列について、季節や時期に合わせて工夫していることに気付いている」となると、評価しやすくなります。それが、シャープに描ければ描けるほど、より的確に見とることができるはずです。

これら3点を、毎時同時に行うと大変ですから、一つずつ、日々の授業の中で少しずつ意識していくと、次第に見えにくかったものが見え始めてくるのではないでしょうか。

知識・技能の評価については、これまでの実践をベースにしつつ、知識・技能が概念化されたことをどう見とっていくかが課題になると思います。概念化というと、難しいように思われるかもしれませんが、個別の知識がつながったようなものが獲得されることと、個別の技能がつながってスムーズに行えるようになることを意識していただければよいと思います。

Q4.限られた時間内で学習指導要領の内容をどう実現したらよい?

既存の習得すべき知識に加え、新たに「思考力、判断力、表現力」を育むことが求められていると考えると、時間が足りないと不安になるかもしれません。しかし、習得した知識が活用されている過程で働くのが、「思考力、判断力、表現力」なので、知識が獲得され、使われる状況を工夫すればよいのです。

それは、これまで暗記して身に付けていたような個別の知識を、もっと多様な場面でも使える知識にするということです。だから、能力として別のものを身に付けるというよりも、既存の知識をより自由に使えるとか、より適切に使えるようになるような獲得の過程を工夫することが大切なのです。

もう一点、子供たちが中心に学ぶ授業をすることが重要です。先生が45分間説明し続けて暗記させるのではなく、説明や指導も行うけれども、子供たちが話し合ったり、自分の考えをまとめたりする授業をしていくわけです。つまり、インプットする暗記再生から、アウトプットする思考発信型の授業に変えていこうということで、結果的に教師の行為する時間が減り、子供が行為する時間が長くなるということですね。

そのためには、子供が本気で自ら学んだり、友達と学び合ったりすることができる状況を整えることが重要です。これがうまくできるようになると、授業は加速度的に効率化し、内容に対して時間はそれほどかからなくなってきます。

毎回先生が教え込み、知識を与え続ける授業をしていると、1時間目でも100時間目でも授業の手間は変わりません。際限なく時間は必要になります。しかし、子供が自ら知識を獲得するように育つと、指導する先生の手間は減り、むしろ先生の行為の質が高まります。

そのように学習者が能動的に学び、自立するようにしようというわけです。校内のすべての先生が、それを意識して行えば、1年間の後半になればなるほど、学齢が上がれば上がるほど、学びのスピードは上がっていきます。

ちなみに、真面目な先生ほど、「主体的に学ぶのだから、導入では子供自身が課題設定できるまで待たなければならない」と考えたりします。先生が課題設定したとしても、子供が「やりたい」と思えばよいのです。あるいは対話も時間を限って行ったほうが内容が充実したりします。そうやって時間をつくった分、まとめやふり返りは、これまでよりもていねいに行うというように、もっとメリハリをつけて授業をつくっていくことが大切です。

Q5.プログラミングはなぜ必要なの?

プログラミング的思考の育成のために、プログラミングを行うわけですが、指導要領上は、算数と理科と総合的な学習の時間に位置付けられて、内容の取扱いに出ています。

例えば、算数の角度や理科の電流等があり、「どうやるのだろう?」と不安かもしれません。しかし、指導要領に記されている以上は必ず教科書に出てきますから、教科書に沿って取り組めば、どの先生も安心してできると思います。

その他にがんばれる余裕があるとか、教育委員会が教材を供給する場合は、他教科や総合的な学習の時間の中での探究の時間に位置付けるといったことを考えればよいと思います。

ただし、プログラミングについて考えておくべきことが2点あります。一つは、思考力を育てなければいけないということです。いくつかの指示となる記号が連続体として整理されることで、目の前の行為として現れるプログラミング的思考は日常の暮らしの中にもたくさんあって、そういう思考力を育てる必要があるということです。

もう一つは、ICTと連動させて行うことの必要性です。プログラミング的思考は、アンプラグドでも育めますが、今後の生活を考えると、ICTと結び付くことが必要だと思います。

いずれにしても、自治体や学校がどういう状況にあるかによるので、先生個人が不安を抱える必要はないことだと思います。

Q6.キャリア・パスポートの効果的な実施方法は?

特別活動の学級活動の内容の取扱いの中に、「児童が活動を記録し蓄積する教材」と示されているのが、キャリア・パスポートのことです。つまり、これまでも行っていた学校では、それを生かし新たに行う必要はないと捉えています。文部科学省も、参考となる例を示しつつ(〈資料3〉参照)、既存の取り組みをアレンジしてもらうことが大切だと説明しているようです。

〈資料3〉キャリア・パスポート実践の一例(文部科学省資料より抜粋)

資料3
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ただし、その時に大事なことは、特活の中で、これまでの自分の学習をふり返り、同時に将来展望や先々の見通しを描くということです。

つまり、行事の事前、事後で行うというような短期的なものだけでなく、もう少し長いスパンで自分の学びと変容をつかむということです。さらに、それをベースにして、自分が今後どうなっていきたいかという、成長への願いのような要素が入ってくることが大切です。

加えて、それを組織としてどう取り組むかということが大切です。学級担任が個人個人でやっていくのではなく、学校としてどう育てていくのかということの方向を共有していくことが必要でしょう。

すでに、独自のノート等をつくっている学校もあったりしますが、もしみなさんの学校の特別活動の中に十分に位置付けられていなかったとすれば、指導要領の中に位置付けられているので、学校の中で議論をされることが必要です。

いずれにしても、個々の先生に過剰な負荷がかからないよう、既存のものがあればそれをアレンジしていけばよいと思います。

最後に、今回の指導要領の改訂には、学習する子供の視点に立つという大きな教育観の転換があります。それは、子供の目線に立ちやすく、子供に寄り添うことが得意な若い先生方にとっては、とても取り組みやすいものだと思います。

子供たちが主体的に学習に向かえるようになると、必ず表情が明るく豊かになるし、授業中に「もっとこうしたい」「友達と話し合うのは楽しい」というような、前向きな言動が見られるようになります。それは、授業者である先生にとっても、快適で心地よいものであり、楽しい毎日が待っているとも言えるでしょう。

そのように、日々の取り組みが楽しくなる、チャンスが広がると思って、ぜひ、若い先生方に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

取材・文/矢ノ浦勝之

『教育技術小三小四』2020年3月号より

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