樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯12 北海道網走市立網走小学校 「きいて、きいて、きいてみよう」(第5学年)の授業

カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第12回。今回のカバTは、北海道網走市を訪れました。

執筆/樺⼭敏郎 KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)
目次
【第12回】 北海道網走市立網走小学校
「きいて、きいて、きいてみよう」(光村図書5年)
授業者:鈴木大輔 教諭(全6時間中の第4時)
訪問日:令和7(2025)年5月21日(水)
訪問の概要
網走小学校は、長きにわたり北海道オホーツク管内の小学校教育を牽引する研究校です。現在、全教科等を対象に、「学びの山を活用した単元を通して資質・能力を育む授業づくり」をキーワードとした研究実践を深めています。同校は毎年1回、管内外に研究を公開していますが、今回は“網走市総合学校力実践事業”として開催され、市内約80名の参加がありました。
Good Practice ~授業の花まるポイント(全6時間中の第4時)

単元のゴールとして設定された、“友達のよさ発見(相手のよさを引き出す)”
写真1のとおり、ラーニング・マウンテンの上部に「学習課題やゴールイメージ」という文言があります。そこには、「役割に応じた『きくこと』について自分の考えをもち、話合いに生かす力」と書かれています。役割とは、インタビューにおける、①きき手(インタビュアー)、②話し手(回答者)、③報告者(インタビュー記録のまとめと報告)の三者を指します。
本単元は、聞くことの能力を育成することが中心となりますが、鈴木教諭は、そこに重要な視点を盛り込んでいました。
それは、“相手のよさを引き出す”というものです。インタビューの能力を高めることは、“(指導)目標”であり、そこに“他者発見”や“他者理解”という“目的”が設定されていたのです。
言葉には相手との関係を良好なものにする力があることを子どもと確認しながら、本単元の目標と目的が共有されていました。それは学級づくりにもつながるものでした。
本単元における付けたい力の明確化と細分化
鈴木教諭は、前述した三者に求める能力を明確にし、それらを細分化して捉えていました。
①きき手(インタビュアー)
◇話題と目的に応じた質問をする力
→相手のよさを引き出すために、相手の回答を正確に受け止め、話題が逸れないようにしたり、即時的に広げたり、深めたりする。
②話し手(回答者)
◇相手の意図を捉えながら、質問に対応する力
→質問に対してできるだけ詳しく話したり、意図が分からない質問には尋ね返したりと、相手が何を知りたいのかを考えながら質問に答える。
③報告者(インタビュー記録のまとめと報告)
◇聞いたことを正しく記録に残す力と話題の中心を意識しながら聞く力
→「きき手」の聞く目的や意図を捉えつつ、「話し手」の回答について要点を把握しながら聞く。
こうした付けたい力を意識した授業をつくろうとしている様子を垣間見ることができました。
消えてなくなる音声言語を文字言語化する
本時は、6時間のうちの4時間目でした。
前時は、習得した能力で第1回目のインタビューを行っていました。本時における教師の意図は、相手のいろいろなよさを引き出す(A)と同時に、一つのよさを深掘りしていくことにありました。そこに迫るために、板書のBが提示されたのです。
鈴木教諭は、AとBのウェビングのメモに基づいたやり取りを文字言語化した原稿を配り、それぞれの聞き方の特徴を分析することを求めました。
子どもたちは、A、Bそれぞれの特徴についての気付きを整理しながら、一つのよさ(話題)から逸れないように、先に話した言葉を引きとってつないで、より詳しく掘り下げて聞いていくことの重要性を理解していったのです。
本時のまとめ(ふりかえり)として書かれた内容(写真3)からは、この授業での学びが教師の意図に迫るものであったことが見てとれます。
Advice~エールを込めてアドバイス
教科書では、本単元名を「きいて、きいて、きいてみよう」としています。一見、“いっぱいきこう”“ききまくろう”と捉えそうですが、そうではありません。筆者は、それを「聞いて、聴いて、訊いてみよう」ではないかと認識しました。
外言を「聞く」、内言を「聴く」、そして質問として「訊く」といったすみわけを意識すると、前述した三者の役割が一層明確になるかと思いました。
相手の話の中で大事な点を漏らすことなく「聞く」を前提として繰り返し、相手が話そうとしている(話したがっている)点に心を寄せて「聴く」ことを重視することが大切だと考えます。
「聞く」と「聴く」は、“相手のよさを引き出す”ことにつながることを意識しながら、質問というかたちで「訊く」という構造です。
そこにきっと豊かな言葉のやりとりが生まれていくに違いありません。鈴木教諭には、写真4にまとめたように、三者を構造化して捉えるように示し、それぞれの役割について単元を通して意識できるようにしたほうがいいと助言しました。
また、単元全体を通した本時の位置付けとしては、習得した力を基にした1回目のインタビューを経験した後であれば、個々の課題を自覚化させた上で、その課題をそれぞれが解決する時間としてもよかったのではないかと助言しました。つまり、もっと個別最適な学びを展開したらどうか、と。
1回目のインタビューにおける学級全体としての課題を「インタビューの展開が早く、話題が拡散し過ぎてしまったこと」だと捉え、話題をぐっと絞っていくような聞く能力に集中して育成していくことを意図するのであれば、教師がそれをしっかりと教えていいのかもしれません。
言語活動を通して子供たちに十分考えさせ、発見させることと、学びの文脈を考慮して教師が前面に立って教えることとを分けることが重要かと考えます。このことに関連して、本時で行ったようにメモに基づく実際のやりとりを文字言語化することは有意義ですが、それよりも“音声言語”の指導であることを踏まえると、そのやりとりをペアや3人組で実際に再現してみる、というリアルな言語活動のほうが有効ではないかと感じました。
もう一つ、話題を絞って深掘りしようとするインタビューは、非言語へ注目することが重要であることも指摘しました。聞き手の質問に対する、話し手の表情や仕草、声のトーンなどを察しながら、相手がもっと話したいと思っている様子を感じ取ること、それが実生活に生きて働くコミュニケーションにつながるものだと考えます。
それは容易なことではありませんので、やはりこうした学習での重点的な指導や螺旋的・反復的な言語経験を積み重ねていくことが重要だと考えました。
〜旅のこぼれ話〜
網走市教育委員会では、本年度から“Well-being”をスローガンにし、市内全小中学校において“総合学校力向上”の実践事業がスタートしました。“一人一人の多様な幸福感”が市全体に響き合うような取組が今後展開されていくことが期待されています。筆者自身、今後のかかわりがとても楽しみになったところです。
「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“山登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。
※この連載は、原則として月に1回更新予定です。どうぞお楽しみに!
イラスト/大橋明子

かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。
↓樺山先生が編集委員を務める文部科学省教科調査官監修の連載も、好評公開中です。
