様々な改革の狭間で考えるべきこととは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #26


「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」の25回目のテーマは、「様々な改革の狭間で考えるべきこととは?」です。学習指導要領についての改訂作業が始動し始めています。40分授業、保幼小中連携、デジタル教科書、ICTやAIなど様々な改革の中で、現場の教師は何を考えていくことが必要なのかという話です。

執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。
目次
40分授業になるなら
最近、社会科や生活科の授業の講師で学校現場に行くと「先生、40分授業についてどう思いますか?」と聞かれることが多くなりました。文部科学省が昨年から小中学校の授業時間を見直し、学校の裁量を拡大する方向で検討を始めており、実際に全国でもいくつかの自治体で先駆けて実施しています。
詳しくは、この「みんなの教育技術」の「『40分授業午前5時間制』とは?」【知っておきたい教育用語】でも解説しています。研究授業となると、どの先生もみな教材研究を十分に行い、かなり詰めた指導案を提案されます。「いろいろやりたいこともあるのですが、40分授業になるなら考え直したほうがよいでしょうか」などの質問を受けることがあります。結論から言うと、40分授業で5分減っても、導入やまとめの時間で工夫して、子供の主体的な調べ活動の時間はきちんと確保するべきだと私は思っています。ただ40分授業になると、2時間続きで行っている生活科や図工の授業などは、教員の工夫の必要があるかもしれません。

学習指導要領の改訂
昨年から学習指導要領についての改訂作業が動き出したようです。学習指導要領は10年に一度改訂されます。今、実施されている学習指導要領は令和2年に完全実施されたものです。「見方・考え方」について全教科が統一されています。長年教員を経験していると、ゆとり教育、生活科や総合的な学習の時間の設置、週休2日制度の導入など、様々なことを経験してきました。しかし変わらないのは、授業の主体は子供だということです。
次回の指導要領の改訂の目玉は何なのだろう? 40分で授業はできるのか? いろいろな不安はあると思いますが、「授業の主体は子供である」ということを忘れずに先生方には日々の授業を頑張っていただきたいと思います。
地域の課題
文部科学省が授業時間を減らし、時数はそのままで、各学校の裁量で調整できる時間を拡大しようとしている背景には、学校における違いをどう捉えていくかという状況があります。子供の学力や教育環境の地域格差が広がっている現状があります。例えば、1人1台のICT端末を家で充電して毎日登校の際に持参することになっていても、家で充電しない、持ってくるのを忘れてしまう家庭環境の子供たちが多くいたら、対応をいろいろと考えなくてはいけません。「主体的・対話的で深い学び」と言っても全国一律には実行が難しいでしょう。
私は、各学校が弾力的に運用できる時間が設定されることには賛成です。しかし、近くの地域で、ある学校では、楽しく総合的な学習の時間に取り組んでいるのに、ある学校ではドリルや検定学習をしているとなってしまった場合に、保護者の反応はどうでしょうか。自分の子供にもっと勉強をしてほしいと思う保護者は、ドリル学習をうらやましいと思うかもしれません。一方、子供に探究的な力を付けてほしいと思う保護者は、総合的な学習の時間が増えることをうれしく思うかもしれません。いずれにせよ、地域の実態把握が大切になってきます。
私は、学力を身に付けることが何よりも必要とされる学校に勤務したことがあります。塾へ通う子供はほとんどいなく、学校の勉強のみが子供たちの学習となり、毎日の授業や宿題が子供たちの学習を支えていました。その学校では、全国学力・学習状況調査を前に独自のドリルを作成し、子供たちに学習させました。低かった成績が向上し、よい結果が出て、子供も保護者も大喜びだったのですが、そういうことを好む地域もあれば、そうでない個に応じた時間や学びの保障がほしいと思う地域もあるでしょう。
担任の先生方もこれからの改革に向けて、自分たちの学校では何が課題なのか、保護者は何を望んでいるのかを把握しておく必要があります。地域の実態として、どんなことをしたら子供たちや保護者がもっと生き生きするか、毎日の授業や放課後の活動の中で実態を見つめながら考えてはいかがでしょうか。
各学校、40分授業が導入されると、今の予定では、5075分、年間で約85時間の特色ある教育活動を各学校で企画できるようになります。これは、先生方や管理職の力量が試されていると言っても過言ではありません。ぜひ、今から学校の実態をしっかり見る目をもって毎日の生活をしてください。
保幼小中の連携
かつては、保幼小、小中の連携がそれぞれ言われていたのですが、最近、保幼小中の連携について話してもらえませんかと言われることが多々あります。保幼小中の連携は特に年長から小学校1年生、小学校6年生から中学校1年生の接続期における円滑な接続の改善が言われています。小学校1年生や中学校1年生での不登校で悩んでいる先生や保護者も多いでしょう。カリキュラムや集団が変わるので無理はありませんが、どのような環境でも屈せず課題を乗り越えていく力こそ生きる力です。子供のもっている本来の力を引き出すように学校側ができることをしっかり行うことが大切です。
多くの自治体では、連携の日などを設けて異校種の教員が集まり研修する機会があるでしょう。異校種では時間が合わないのだから連携は難しいと決めつけないで、ぜひ参加して学んでほしいと思います。未就学児教育も幼稚園と保育園が一緒になった「認定こども園」が増加してきています。これは、働く保護者の増加や社会のニーズがあるからです。中学校では、子供が保護者の手を離れるのでPTA活動の役員はやりたくないという保護者が増えていて、入学式の後にPTAの役員決めをしてしまう学校もあるそうです。校種は違っても、働く保護者の急増やPTA活動の精選など同じ課題はあります。今後の学習指導要領の改訂に伴い、ますます連携は必要になってくるでしょう。
デジタル教科書などについて
「先生、教科書は今後どうなりますか?」という質問も最近よく聞きます。私は長年社会科の教科書の執筆に関わってきていますが、デジタル化は自治体の予算と微妙につながっています。平成17年版の改訂の頃から各教室にプロジェクターが入り、ICT化が進むと言われてきました。教科書は4年から5年に一度改訂されますが、最近は改訂のたびに紙ベースの教科書の必要性が話されてきました。しかし、実態は、この20年間余り変わっていません。デジタル教科書の普及も自治体によって様々です。デジタル先進国の北欧で「教科書、紙に回帰」というニュースなども入ってきています。
ICTやAIの活用はこれからどんどん教育現場に入ってくると思いますが、私は完全なデジタル化でなく、当面の間、紙ベースのものと併用のハイブリッド的な学習が続くと思っています。いずれにせよ、これも40分授業に関することと同じで、教科書を扱う主体は子供なのです。子供にとってよりよい活用方法がこれからも議論され、デジタル化が推進されていくと思われます。
地域や家庭との連携・協働の促進
私の住んでいる自治体では地域の清掃活動を様々な年代の人たちが集まって行う「大江戸清掃隊」という取組をしています。活動する人たちは、大江戸清掃隊の半てんを着て、ボランティア活動として地域清掃を行います。保育園の園児から小・中・高校生、大人、お年寄りも参加し、楽しく地域をきれいにしていて、ごみ拾い活動の中で世代を超えていろいろな話もでき、よい取組だと思います。
時代は変わっても、学校・家庭・地域の連携は教育活動において永遠に必要なことです。改訂のたびに必ず強調される点でもあります。これから中央教育審議会の新しい答申が発表されていくと思いますが、一喜一憂するのでなく、教育活動に普遍的なものは何なのか見極めていきたいと思います。
構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ